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第51話 迎え撃つ!

「決まってるだろうー!」


 イングリドが立ち上がった。

 ジョッキをぐいーっと飲み干し、宣言する。


「私たちラッキークラウンはー! 逃げも隠れもしないー! 正々堂々、卑怯な司祭を迎え撃ってやるんだ!!」


「ええ……」


 ギスカが嫌そうな顔をした。


「おや、ギスカは別の意見があるのかい」


「いやー、無いけどさあ。あたい、基本は鉱山の中で暮らしてきたドワーフだろ? 正々堂々とか、逃げも隠れもしないというのは違和感がねー」


 ドワーフというのは、男性は真正面から物事に挑み、女性は搦め手や魔法などの手段を使って婉曲に物事を成す性質があるのだそうだ。

 鉱石魔法というものは、女性に発現することがほとんどの魔法だ。

 これはかの種族の男女の性質によるのかも知れない。


「まあ、やるけどねえ。面白そうではあるしさ。あの司祭、今度は何をやらかすのかねえ」


「そこは大体予想できる。王都を腐らせるつもりだろう。そのために、この螺旋で何かを呼ぶつもりだ。王都そのものを毒霧に包む……のは現実的ではないね。ジョノーキン村一つを飲み込むために、エルダーマンティコアが他の魔法を使えなくなるほど魔力を使い、集中し続けた上に、村人を生贄に捧げて魔力の代替とせねばならなかったほどだ。この都を一つ飲み込むなら、住人をことごとく生贄にせねばならないだろうが……司祭は恐らく一人だ」


「協力者はいないか」


「俺たちが倒したマンティコアと、侍従長だろうね。お陰で、向こうが取れる手段は減っている。まあ、既に王都内部に彼が潜んでいて、何か用意している可能性は高いけど。それでも……人間一人にエルダーマンティコアと同じことはできないよ。これほど回りくどい儀式をしたのがその証拠だ。まあ、この儀式を完遂させてやって、召喚されるであろう何かとんでもないものを倒す……。その方が、見栄えがすることは確かだな」


「見栄えかい!? 呆れたねえ」


「そりゃ、俺は道化師だからな」


 肩をすくめてみせた。


「一番見栄えがして、そして笑えるのが正義さ。さあ、明日からは俺たちも準備だ。キングバイ王国からもらった報酬は、まるごと消えてなくなるかも知れないぞ」


 これにて作戦会議は終了だ。

 酔ってふらふら足になったイングリドと、しっかりしているギスカの二人が女子部屋へと戻っていく。

 残った酒をちょっと飲みながら、俺は道具の手入れをすることにした。


 考え事をするときは、これに限る。

 何日後が決戦か?

 何が出現する?

 司祭はすぐ近くにいるのか?


 その全てに、集めた情報を照らし合わせて答えを作っていく。

 猶予はあまりない。

 だが、だからこそ緊張感を持って、楽しく仕事ができるというものなのだ。


 自らも楽しんで仕事ができるなんて、冒険者というのは本当に道化師向きの仕事だな。




 翌朝。

 やはり、新しい依頼が貼られていた。

 不可解な依頼で、場所は王都のすぐ近く。


 そこでアキンドー商会から買い付けた植物を大量に植えてくれ、というものだった。

 あまりに大規模なので、三組の冒険者が駆り出されていった。


 今回は、そのおかしな依頼は一件だけ。

 当然だ。

 これで最後なのだから。


「露骨に来たな。植物を植えるとは」


「植物がどうして露骨なんだ?」


 ジョッキいっぱいのミルクを飲みながら、イングリドが尋ねる。

 朝からは飲まない主義なのだ。


「ギスカは? 朝起きたらいなかったのだが」


「朝から鉱石の買い出しに行ってるよ。報酬を使い切る勢いで買ってくるんじゃないかね」


「そうか……。おっ、来た来た」


 イングリドが注文していたモーニングが到着する。

 焼いたパンを山盛りにシチュー。


 朝から健啖ぶりを発揮し、パクパクと食べていくイングリド。

 彼女は何も用意する必要はない。

 強いて言うなら、健康を維持し、万全の体調で腐敗神の司祭に立ち向かうだけだ。


 俺はと言うと、既に注文をしてある。

 アキンドー商会があちこちに手を回し、品を集めてくれているはずだ。


 ちなみに、先日の豪遊や奢りのお陰で、俺の軍資金は底をついた。

 イングリドが快く金を貸してくれたので助かった。


 ……おかしいな。

 以前にも同じようなことをした気がする。


「オーギュストさん! おまたせしましたー!」


「来た来た!」


 ギルドの外で、ガラガラと荷馬車が走ってくる音。

 俺を呼ぶ声。


 俺はミルクを飲み干すと、外に向かって走り出た。


 そこには、荷物を山盛りにしたアキンドー商会の荷馬車がある。

 ハシゴ、ロープ、ビロウド……つまりは毛織物。それにマント、ステッキ、お手玉に見える……火薬玉。

 素晴らしい。


「オーギュストさん、大道芸でも始めるんですか? こんな量、一人で扱うもんじゃないですよ」


 アキンドー商会からの使いが、俺と荷物の山を見比べている。

 手伝いで、ジョノーキン村の子どもが混じっていた。


「道化師の兄ちゃん! なんかまた面白いことするんだろ? するんだろ? 見せて見せて!」


「いいとも! 始まりの合図はすぐに分かるぞ。一見して危なそうだが……少し距離をとってもらえれば問題ない。そうだな、町側からの広場の入口で立ち止まればいいだろうさ。俺もイングリドも、そこで決着をつけるからね」


「そっか! 広場の入口、わかった! みんなに教えてもいい?」


「もちろん。観客が多ければ多いほど燃えてくるんだ」


「やったー!!」


「あ、おい、こら! すみませんオーギュストさん」


 頭を下げてくる商会の使い。

 俺は笑ってそれを制した。


「いやいや! むしろ俺としては願ったり叶ったりだ。できれば君も、仲間を連れて見に来てくれると嬉しいな。とびきりのショーになるぞ!」


「へえ……!」


 商会の使いも、興味津々に瞳を輝かせる。

 よしよし、これは観客が増えそうだ。


 俺のやる気も増してくるというものである。

 早く来い来い、最後の襲撃……!

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