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第36話 対決、腐敗神の司祭

 ぶっ飛んでいった元冒険者、ピクピク痙攣している。

 あれは制圧完了と見ていいだろう。


 いきなり村の入口で待ち構えていたということは、何かを仕掛けていたのだな。

 どれどれ。

 俺の罠感知スキルが火を吹くぞ。


「あった。踏むと腐敗神の眷属を呼ぶトラップだ。腐敗神、どうしてこんなに魔法のバリエーションが豊富なんだろうな。しかも扱いやすいよう、カスタマイズしやすいような魔法ばかりだ」


「何か信者獲得に苦労しているのかも知れないな」


 イングリドの言葉に、俺はなるほどと頷く。

 とりあえず、トラップは魔法陣の形だったので、隅っこを削って無効化しておく。


「鉱山と炉の神マイネストーン様は安定しているよ。何せ、ドワーフの大半が信者だからねえ。その腐敗神ってのは、どういう種族が信者なんだい」


「うーむ、基本的に自然環境の中で、つつがなく物質の腐敗と分解が行われ、循環することを守護する神だからな。ドルイドや山で暮らす村人の一部くらいではないかな」


「大事な仕事だけど、現世利益がないものねえ……。それでおかしな連中に加護を授けてるみたいだね」


 そのおかしな連中に、ガットルテ王国は苦労させられているわけだが。


「おっと、ここでサーチライトの効果が無くなったねえ。ギリギリだった」


「半日のはずでは? 思ったよりも長持ちしたなあ」


「本当はもっと持つけど、冒険中は何があるか分からないだろ? 短めに申告するようにしてるのさ」


 ギスカはしっかりしている。

 こうして、罠のたぐいを無力化。

 俺たち一行は村の中に入り込んだ。


 ふむ、人の気配がない。

 ここはただの村のはずだが、もしや、ジョノーキン村のように腐敗神の司祭によって支配されているのではあるまいか。

 あり得る。


 そして俺は記憶を呼び起こす。

 この村は、ガットルテ王国に吸収された際、いざこざがあった村だ。


 毒霧に沈んだジョノーキン村のパターンである可能性は高いな。


「二人とも、村全体が腐敗神司祭の罠だと考えておくべきだ」


「分かった」


 あっさりと頷くイングリドに対して、ギスカは目を丸くする。


「それほどの規模の相手なのかい!? しょぼい冒険者一人と、その雇い主くらいで収まると思ってたのに」


 話が違う、とぶうぶう言うギスカだが、そんな話をした覚えはないので知らんぷりである。

 だが、不平をいいながらも何か魔法を使っている彼女。

 周囲の危険を探っているのだろう。


 大丈夫、イングリドから離れなければすぐに危険は見つかる。


「いた。来るよ!」


 そこは村の中央に近いところ。

 集会をしたり、市を開いたりする広場だろう。

 ギスカが何かを感じ取った。


 それと同時に、イングリドが俺とギスカを後ろから押す。


「急に立ち止まらないでくれないか。もう、ぶつかってしまった」


 俺たちは、ギスカが感知した場所から数歩分、押されて進んだ訳だが。

 つまり、背後に来る。


 予想はバッチリ。

 一瞬前まで俺たちが居た場所から、デビルプラントが飛び出してくるところだった。


「うわっ、いきなりだな!」


 驚くイングリドだが、彼女の幸運スキルのおかげで、俺たちは必殺の奇襲を回避したわけである。

 振り返りざまに、イングリドは魔剣を放つ。

 抜刀からの斬撃だ。


 これに、ギスカが即興で合わせた。


「翠緑石、力を! アクセル!」


 イングリドの抜刀が加速する。

 一瞬、俺の目にも何が起こったのか分からなかった。

 気がつくと、びっくりした顔のイングリドが剣を振り切っている。


 目の前に出現したデビルプラントが、ゆっくりと斜めに傾き……。

 地面に倒れて、ばたばたとのたうつ。

 その茎は両断されていた。


「いやあ……馬鹿げた力だねえ! 初歩の補助魔法でこの威力かい!」


「援護してくれたのか。助かる!」


 イングリドがギスカに礼を言う。

 その間にも、デビルプラントはのたうちながら、俺たちに攻撃を加えようとする。


「ショートソードを貸してくれ」


「分かった」


 イングリドから剣を受け取ると、俺は走った。

 こちらに、ギザギザの牙が生えた口のような頭部を向けたデビルプラント。

 その頭部にショートソードを差し込むと、俺はぐるりと周囲をえぐった。


『ウグワーッ!?』


 テコの原理でえぐった部位を

 はじき出すと、奥にある核を手早く貫く。

 これで、デビルプラントは死んだ。


「あっさり片付けたねえ……。さすがはバルログの血、というところかい?」


「ああ、いやいや、これとは以前に戦っているからね。弱点が分かってるんだよ。そう難しいことじゃないさ」


「いやいやいや」


 イングリドが真顔で否定してきた。


「今、君はとんでもないことを言っているぞ。ここに観客がいないからと言って、とんでもないことをやったのを説明無しで片付けるのはやめるんだ」


「そうか、一度見せた芸も、受ければ定番化するものな。俺はキュータイ三世ばかりが客だったので、やり終えた芸は説明しない主義になっていた……」


 反省することしきりである。


「はいはい! 二人共いちゃいちゃするのはやめな!」


「していないぞ!」


「何の話だね!」


 ギスカのあんまりな物言いに抗議すると、彼女は極めてシリアスな顔である。


「もう一匹来るよ!」


「むむっ!」


 それを聞いた瞬間、イングリドが戦闘モードになる。

 前に進み出て槍を構えた。


「ちょっと! 相手がどっちから来るか分かんないっていうのに前に出て!」


 慌てるギスカを、俺は背中から押す。


「いや、あれで正解だ! イングリドの近くに急ぐぞ!!」


 自分にできる限りの最高速度で、ギスカを伴ってイングリドの隣へ。

 それと同時に、周囲に見覚えのある、毒の霧が渦巻いた。

 俺は平気だが、ギスカが危なかったところだ。


「またも避けましたか。一体、どういうことです? 我の用意した罠を、発動する前に踏み潰し、デビルプラントを予知し、毒霧の加護も避けてみせるとは! ぬうっ……怪しい風が吹いて、霧が散らされる……」


 偶然強風が吹いて、毒霧が吹き散らされる。

 紫の霧の奥から、一人の男が現れた。


 黒と紫の布を纏い、顔はよく分からない。

 だが、この風体は聞いたことがある。


「君が、デビルプラントをばら撒いた司祭だな?」


 俺は誰何した。

 男が笑った気配がする。


「いかにも。腐敗神プレーガイオス様の威光を、この広い世界に知らしめるべく活動する使徒にございます」


「俺の前で芝居がかった動作はやめてくれないか。気分が悪い」


「は?」


「その仕草は真似事だ。優雅さに欠ける」


「おいオーギュスト! いきなりダメ出しをするな」


 イングリドにたしなめられるが、仕方ない。

 これは俺の職業病というものだ。


 司祭はイラッとした空気を纏いながら、俺を睨みつけた。

 早速状況は、一触即発なのである。

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