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第23話 オーギュスト、城に招かれる

 騎士ガオン。

 俺も名前は知っている。

 ガットルテ王国の騎士団長である。


 つまり、先日俺がかわいがってやったバリカスによって、大怪我をさせられた人物だ。

 当然、城下でもその顔は知られている。

 それがイングリドに直接依頼をしに来たというので、周囲は騒然とした。


 現れた受付嬢が、恐る恐るガオンに声をかける。


「あ、あのー。依頼は、ギルドを通していただかないと……そういう決まりなので……」


「ああ、すまんすまん! 今依頼をするからな!」


 ガオンは豪快にがっはっは、と笑うと、ダガンに依頼書を書かせた。

 流石にここまで目立たれると、俺も放ってはおけない。


 イングリドとガオンを手招きした。


「なんだ、どうしたんだ?」


「おお!! これはこれは道化師殿! いやあ、姫様の隣に道化師殿がおられると聞いてこれはどういうことかと思っていましたが」


 俺は物も言わずに、ガオンの口を手で塞いだ。


「もががーっ!?」


「それは隠していることなのではなかったのかね……!? あからさますぎるのでは!」


「もが」


 ガオンがハッとした。

 彼は勇猛な戦士ではあるのだが、うっかりしているところがある。

 幸い、姫様と言う彼の発言は、冒険者たちの耳には届かなかったようだ。


 ちょうどそのタイミングで、ジョッキを持っていた冒険者がこけて、盛大に音を立てたのだ。

 幸運スキル……!

 いや待て。ここで幸運スキルが発動するということは、イングリドの素性がバレてしまっては良くないことが起きる、という意味だろう。


 イングリドもハッとしている。


「そうだった……。最近、冒険者が楽しくて忘れていた。……あっ!? オーギュスト、ち、違うからな? 私はそんな、姫様などではなく」


 この後に及んでもシラを切ろうとするか。


「ガオン卿、これはダガンから状況を聞いて動いたかね」


「違いない」


 イングリドは置いておいて、依頼の確認をすることにした。

 依頼書とは言っても、俺とイングリドを名指しするものだ。


 舞台は王宮。

 ガットルテ城にて、俺とイングリドを招いて仕事を依頼したいというものだった。

 その内容は……。


「城に、怪しい教えが広まっているのだ」


 ガオンは声をひそめる。


「王が代替わりされてから、先王が抑えていた者どもが動きはじめてな。このわしも毒を盛られ、あのバリカスめに不覚を取ることになった」


「ほう」


「詳しい話は、城にて致すことにしよう。姫が冒険者などになるとは想定外だったが、元気にやっている上、後見人として道化師殿がついておられるならば安心だ」


「もう姫であることを隠しもしないな……?」


 こうして、俺とイングリドの新しい仕事が始まるのだった。

 それは、ガットルテ城を舞台にした調査である。


 夜になった頃、俺とイングリドは使いの騎士に伴われて、城の裏口をくぐった。


「懐かしいなあ……」


 イングリドがしみじみ口にした後、俺をみてハッとした。

 もうハッとしなくていい。


「君と、ガオン殿がどうにか隠そうとしていたのは分かった。ダガンのポーカーフェイスには驚いたが、結果として俺も君の真実を知るところになった。もう隠す努力はしなくていい。俺は別に、君の秘密を外に漏らそうなどと考えてはいないからね」


「そうか……」


 イングリドはホッとしたようだった。


「では改めて自己紹介しよう。私はイングリッド・ガットルテ。ガットルテ王国の第三王女であり、ブリテイン陛下は私の兄に当たる」


 堂々と、真の名を告げる彼女の姿は、いつにも増して美しく見えた。


「私は父王が、侍従の娘に産ませた娘なのだ。故に、存在が明らかになれば国が乱れるということで、表向きは病弱な娘ということで、公には姿を見せず育てられた。ちなみに、ガルフスとは幼い頃に会ったことがある」


「なんだって!!」


「あの男は公爵家の息子だろう。マールイ王国との伝手を作るため、父は私をあの男の妻にしようと考えていたのだ。だが……どこかでその方針が変わったようだ。私を他国にやる訳には行かなくなったのだそうだ。そして、私が城の中に入れば、王位継承権争いが発生する。私はその資格があるそうでな。そういうことで、城下町で金をもらって暮らすことになった。しかし、城下町は問題に溢れているではないか」


 イングリドがグッと拳を握りしめる。


「民の声は、国にはなかなか届かない。民一人ひとりの問題を、国が直接解決はしてやれないからだ。ならば、私がやろうではないか! そう思ったのだ!」


 なるほど、立派な心意気である。

 彼女の性格の良さは作られたものではなく、生来持っているものだ。

 いや、これはもう、気高さと呼べる段階ではないだろうか。


「……それで冒険者になったと」


「ああ。表には出られぬ身であったがゆえ、社交に時間をさく必要がなかった。暇は幾らでもあったから、ガオンが武芸を教えてくれたんだ」


 それで、あの凄まじい強さか。

 イングリドには、幸運のスキルだけでなく、身体能力でも武芸を身につける天賦の才がある。

 強くならないわけがない。


 恐らく、国がイングリドを手放すのを拒んだのも、幸運スキルのせいではないか?

 これについては、おいおい分かってくるだろう。


 ちなみに、俺とイングリドの話を聞いていた騎士が、目を見開きながら何度か振り返っていたが……。

 ま、まさか君、イングリドの素性を何も知らなかったのか……?


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― 新着の感想 ―
[一言] この国は色々大丈夫なのか?……
[一言] よくある「実は姫様だった!」というパターン! うーむ。 「暴れん坊将軍」のつもりだったのね。
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