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第12話 騎士団への同行

 昨日の冒険譚は、大いに盛り上がった。

 ギルドに詰めかけた冒険者は驚き、笑い、そして喝采を上げた。


 痛快無比な冒険譚。

 得意げなエルダーマンティコアの鼻を明かし、子どもたちを救い出す。

 まるで英雄のような働きだ。


 お陰で、ギルドが運営する酒場は大繁盛。

 酒も料理も、いつもの倍は売れたらしい。

 後でギルドの職員に感謝された。


「いやいや、それほどでもないよ。俺もこうして、おひねりを頂いたからね。ちなみにこれは、ギルドへの上納金が必要で?」


「本来ならば、ギルド内での営業は場所代が必要なんだけどね。今回は特例だ。ガットルテ王国の間近にエルダーマンティコアがいたこと、そしてそれが腐食神の神官であり、良からぬことを企んでいたこと。企みは未然に阻止されたこと。これだけの情報を持ち帰ってきてくれたんだ。サービスだよ」


「やあ、ありがたい!」


 結構な金額のおひねりだったのだ。

 これがまるごと懐に入るのは実に嬉しい。

 消費したナイフや、道具の類を補充してお釣りが来る。


 かくして、道化師としての達成感を胸に、俺は眠りについたのである。

 無論、イングリドとは別室だがね。


 翌日の昼過ぎ。

 ひと仕事を終えた俺とイングリドは、その日は骨休めに当てるつもりだった。


 ガットルテ王国は隣国、マールイ王国との関係がどうも微妙になってきている。

 これは絶対に、大きな問題が起こるだろうと、俺の勘が告げていた。

 万一のために、体力を回復しておかなければならない。


「ちょっと行ってくる」


 イングリドが、ギルドの外に出ていくところだった。


「どこに行くんだ?」


「子どもたちのところだ。私は子どもが好きなんだ……」


「なるほど。奇遇だな、俺もだ」


 そういうことで、二人で連れ立ち、アキンドー商会へと向かう。

 ここで保護された子どもたちは、商会で読み書きや計算を覚えながら、ここの従業員として育てていくことになっていた。


「道化師のひと来た!」


「強いお姉ちゃんも!」


 俺とイングリドの姿を見つけて、子どもたちが集まってきた。

 後からは、彼らの教育係らしい年配の男性も。


 商会の奥には、客らしき姿が幾つかある。

 剣を携えているから、王宮の騎士か何かであろうか。


「お二人とも、昨日はどうも! 取引先だったジョノーキン村が無くなったのは痛かったですが、子どもたちだけでも無事で何よりでしたわ」


「いやいや。大人が一人でも生き残っていたら良かったのですが」


 イングリドが殴り倒した村人は、事の首謀者の一人として捕まっている。


「子どもたちの顔を見に来たのだ」


 イングリドはそれだけ、年配の男性に告げると、子どもたちに構い始めた。

 本当に子どもが好きなのだな。

 こうして見ると、年相応の普通の娘に見える。


 待てよ。

 彼女は一体何者なのだろうか。

 俺は死神と呼ばれていることしか知らない。


 身のこなしは一流の戦士のそれである。

 そして判断力もある。

 食事をする仕草には、どことなく気品のようなものもあるように思えた。


 どこかのいい家の生まれではなかろうか?

 注意深く見れば、彼女が何者なのかはすぐに分かろう。


 しかし、仲間を詮索することはマナー違反である。

 彼女の人柄からして、悪人ではない。それだけで十分だ。


「あの、もしや今日は、子どもたちに会いにだけ?」


「ええ。彼女も俺も、子どもが好きでしてね。子どもはいい。俺が見せる芸が、よくできているか今一つか、すぐに反応して教えてくれる。嘘がつけないですからね」


「ああ、そう言えばあなたは道化師でしたな! 珍しいクラスですなあ……」


「道化師? 珍しいな。お!? 昨日の子連れの冒険者ではないか」


 俺と男性の会話に、騎士らしき人物が加わってきた。

 よくよく見れば、昨日俺と言葉を交わした騎士ではないか。


「ダガン卿。この人はですな。たった二人でジョノーキン村に潜んでいたエルダーマンティコアを倒し、子どもたちを救い出した英雄ですぞ」


「大げさな。だが、間違ってはいない」


 商会の男の言葉を、肯定しておく。

 下手に謙遜をするものではない。

 これから名を売ろうとしている、俺とイングリドならばなおさらだ。


「なんと、エルダーマンティコアを二人でか!? あの化け物は、対魔法兵装を用意した上で、騎士団でかかるような代物だぞ」


「魔法の対抗策は、対魔法兵装以外にも色々ありますからね」


「なるほど。できる男のようだ」


「ええ。俺も彼女も、腕は立ちます。もしや、お仕事の相手を探されていた?」


 騎士の口ぶりから、彼の思考を読む。

 そしてちょっと突くと、彼は目を丸くした。


「分かるか! 俺の顔に出ていたかな。しかし、その洞察力も並ではないな。よし、冒険者、お前に依頼することにしよう」


「依頼とは」


「昨日の件だ」


「ああ、了解しました。事が起こった場所に向かい、話し合いをされるんですね」


 騎士ダガンは感心した。


「お前は話の早い男だなあ、いちいちその通りだ。しかも事の仔細を口に出さずにぼやかせる辺り、気遣いもある。是非とも、俺たちガットルテ騎士団に同行してくれ。中立な立場の立会人が必要なんだ。それも腕が立つ、な」


「了解しました。ただ、仕事は一旦ギルドを通していただけると。俺も彼女も、ギルドに所属する身です。あそこの顔は立てないといけませんからね」


「おおっ、そうだったそうだった。面倒なシステムだなあ……。ああ、いや。もともとギルドに向かうつもりだったのだ」


 ダガンが歩き出す。

 その背中が、ついて来いと言っていた。


「イングリド、仕事だ」


「なんだって!? 今日一日、子どもたちと遊ぶつもりだったんだが……」


 子どもたちからもブーイングが上がる。

 だが、商会の男がこれをなだめた。


「ほらほらガキども。お前ら、これからやる事は山程あるんだ! てめえの力で食っていけるようにならないといけないんだぞ。冒険者のお二人は仕事なんだから、応援して見送るくらいやるもんだ」


 教育係の男の言葉に、子どもたちはしぶしぶと頷いた。

 つい先日まで、マンティコアのもとで生贄にされかかっていた子どもたちだ。

 空気を読むくらいのことはする。


「戻ってきたら、俺のとびきりの芸を見せてあげよう。勉強して待っているといい」


 俺は彼らに向かって、何もないところからパッとお手玉を取り出してみせた。

 ワッと子どもたちが沸く。


 お手玉は、一つ、二つ、三つ、四つと指の間に出現する。

 あらかじめ小さく縮めて握ってあったものを、次々取り出しているのだが、これはハッタリと手技の鮮やかさが説得力を生むのだ。


「すげえー」


「魔法みたい!」


 ついに、俺のお手玉は八個になった。

 これを次々に空へと放り投げ、俺はお手玉を始めた。


「ということで! この次は戻ってきてからだ。またの開演をお楽しみに」


 お手玉を一度に放り投げ、宙を舞わせると同時。

 俺はその全てを片手で掴み取った。

 掴むと同時に、小さく縮めて袖の中に滑り込ませている。


 開いた手のひらには、何もない。


 わあーっと子どもたちが叫んだ。

 教育係の男まで、思わず笑顔になって手を叩いている。


 あんまり子どもたちが喜ぶので、ギルドへ戻る道の途中で、イングリドが俺に言うのだった。


「おい、今のを私に教えてくれ! 私もやりたい! やって子どもを喜ばせたい!」


「この仕事が終わったらね」


 俺は空約束をするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あの「教祖様」のボスのことですね。
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