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少年の勇気と憶い

『それに彼女はライシャではない、()()彼女はレナだ。』


「レナ・・・」

 ヨルガンファミリアの大豪邸を後にしたファルはシャーロットの情報を頭の中で繰り返し流していた。


「ウィルーやっと見つけた!シャルトファミリアに連行されたって!大丈夫なのかよ」

 マシューは勢いよく走ってきて俺の肩を掴みガシガシと揺らした。

「マシュー、俺は大丈夫だ。これからどこへ?」

「ダンジョンに行こうかなって、さっきダンジョン新人講習会を受けてきたんだ。武器も貰ったし、護衛術も学んだし。」

「ごめんな、体術を教えるって言っておきながら・・・」

 俺はせめてもの罪滅ぼしでマシューの護衛としてダンジョンについていく事にした。


「冒険者・・・続けるのか?実は君とヨルガンファミリアの決闘・・・途中まで見てたんだ、講習の時間が迫ってきたからその後は見れなかったけど。レベルAの冒険者と渡り合ってたね。やっぱり君はすごいな!」

 彼はキラキラした淀みない瞳で俺を見てくる、俺の技や魔法について何も聞いてこないのは彼なりの気遣いなのだろうか。

「もう少しだけ冒険者でいようかな・・」

 正直冒険者なんて辞めたい、辞めて楽に過ごしたい。でも会ってしまった、彼女に・・。あの一件が起きてから今まで、俺はあいつやライシャの事を自分の頭から抹消しようとしていた。カムイ王国から出てアイツを探しながら放浪し、何年かけても一つとして情報はない。

 だが、彼女がここにいるのなら、早かれ遅かれあいつが現れるはずだ。もう一度だけ、あいつを探す!


 俺はこの時自分の中で小さな、本当に小さな決心をした。


「やっぱりダンジョンは緊張するなー、入り口近くのモンスターは俺だけでもいける!」

マシューは講習会の参加特典でもらった初級の短剣を駆使してゴブリンを屠っていく。俺は戦いの過程で回避の仕方やモンスターの弱点などを教えたり、ゴブリン以外のモンスターを防御魔法ガーディアンを無数の針のように変形させ、目もくれず片手一振りで針を飛ばし屠っていく。


 ダンジョン探索は日が沈む前に引き上げる事にした。

「ウィルありがとうな!」

 マシューとウィルはこの後ギルドへ向かい、換金所でモンスターのドロップアイテムの換金や、シークミラーでのステイタス更新をする事にした。


「いやー、冒険者初の稼ぎだ!やったー!ほら山分け山分け。」

 その数コイン6枚。ゴブリンのドロップアイテムは希少性がなくあまり価値にならない。

「君が持っていろ。これは君の成果だ、俺は何もしていない。」

 

 そんな譲り合いの会話をしているところだった。

「冒険者にクエストを出したいんだ!至急!」

ギルドの受付カウンターに身を乗り込んで必死に頼み込んでいるヒューマンの少年。脂汗をかき焦りと恐怖が顔から滲み出ている。


「ちょっと!お、落ち着いて!お調べしたところ、ガウルゥーに住民登録していないようなので対応しかねます・・・」


「お兄ちゃん金持ってんなら引き受けてもいいんだぜ?」

 見るからにたちの悪そうな男の中年冒険者に絡まれる。外見を見るにヒューマンの少年は6歳ほど。

「これくらいなんだけど、お願いできませんか冒険者様・・・」

 両手いっぱいに5枚のコイン。それを見た中年冒険者は盛大に笑い飛ばして腹をさすりながらその場を去った。


「だ、誰か、お願いです。お母さんと妹が・・・」

 

 その場で膝が崩れ大粒の涙を出している。

 俺は不意に自分の姿を重ねてしまった。君のお母さんと妹を救える冒険者がここにいるよ、守ってあげられる冒険者がここにいるよ。俺はその男の子の前に片膝をつき、少年の頭に手を置き問いかける。

「君のお母さんと妹はどこ?俺で良ければ引き受けよう。」


 少年は僅かに希望がさしたかのような瞳でこちらを見て、勢いよく立ち上がり子供ながら正確に状況を伝えてきた。

「僕たちはガウルゥーに移住しようと向かってたんだ。だけど、モンスター除けの石の効果が切れちゃって・・・でっかいモンスターが・・でっかいモンスターが襲ってきた。僕たち大きな木の根元の隙間で隠れてたけど、僕このままじゃダメだと思って・・モンスターが僕に気づかない隙に走ってきた。」

 

 少年は嗚咽しながら状況を説明し、とうとう泣き出してしまった。


「君はとても勇気のある男だ。俺をその場に連れていってくれ。」

 ウィルは今までのような素っ気ない口調ではなく、勇気ある少年を称えるような口調で言った。隣にいたマシューは静に頷き、俺を送り出した。

 俺はその子を抱き上げガウルゥーの大門を抜け、少年の案内するところまで疾走した。


「ちょっとあれって、冒険者登録してない人だよね?しかも登録期限過ぎてるし、ギルドを介さないクエストを受けて・・これペナルティーもんじゃなーい。」

 プンプン怒るキャットピープルの受付嬢を同僚がなだめる。


「別に冒険者登録してなかったら一般人じゃん、一般人同士の助け合いでいいだろ、もっと頭を柔らかくー。」

 マシューは受付嬢のキャットピープルと少し距離を取りながら、口に右手を添え大きな声で言い返す。それを聞いた受付嬢は毛並みを逆立てて、カウンター上に上がり飛んで来ようとするが、それも隣の席の同僚に下半身を掴まれ失敗するものだった。

 そんな光景を見てドワーフ達が髭を摩りながら穏やかに笑う。


 その後受付嬢のキャットピープルは同僚の拘束を抜け出し、マシューに渾身の猫パンチを見舞ったのはまた別の話。



「冒険者さま!あそこの大樹の盛り上がった根元です。」

 確かに一体のモンスターが大樹の幹で待ち伏せをしていた。巨体で二足歩行、尖った爪が特徴の討伐レベルC級モンスター。正直よく生き延びられた。


「君はここにいて。」

 俺は少年を下ろし、気配を消しながらモンスターに近づく。右手で短剣に魔力を流し込み一気に飛び上がり、モンスターの頭部を何の操作もなく跳ね落とした。


「少年のお母さんと妹さん、もう出てきても大丈夫ですよ。俺はガウルゥーの冒険者です。」

 根の隙間から二人が顔を覗かせこちらを伺う、震えていた。

「お母さん!シェリー!」

 3人はお互いに硬く抱きしめ会って感動の再会を果たしたのだった。

 俺もあの少年の様に勇気ある者だったら、何か変われたのかもしれない、違う未来があったのかもしれない。少しくらい森の中で昔の出来事を憶った。この家族を救えてよかった。 

 ウィルは昔の自分やファルや母さんを見ている様だった。この家族を救う事で自分が助かった気がした。


「冒険者様、少ないですが・・これ報酬です!助けてくれてありがとうございました。」

 小さな掌いっぱいにコインを持ちどうか受け取って欲しいと迫ってくる。少年のお母さんも鼻をすすりながら頷いてくる。この人たちは決して裕福ではないはずだ。なのに何の惜しみもなく、こんなお尋ね者の俺に・・・


「貰えないよ、このお金を貰ってしまえばギルドの人間に捕まってしまう。俺は冒険者登録をまだしていないんだ。ギルドの目の前で俺たちは取引しただろう?後で問い詰められてしまう。」

 俺は膝を折り暖かい表情を作って返答した。

「ガウルゥーに移住すると聞きました。護衛しますので一緒に参りましょう。」


 人を救うは暖かい。


既に太陽は落ち風が少し肌寒い中、ウィルは3人を優しく包み込む様に青の防御壁をドーム状に張りガウルゥーへと戻った。

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