闇一派カダーヴァの出現
マシューとダンジョン探索を終えてそれぞれの住処に帰宅する。退院後マシューに家の住所を知られ、毎日の様に俺の家にやって来る事になった。俺も少しずつだが、仲間への恐怖心を克服しようとしている。
空はとっくに闇夜に包まれ、メインストリートはダンジョン帰りの冒険者で賑わっていた。俺はメインストリート脇の細い道を通って部屋へ向かう。道端ではならず者が屯っていて空気が悪い、喧嘩の怒鳴り声や物を割る音も日常茶飯事。
「へぇ、彼の行った通りだ。ウィル・アルテイナ」
「!?」
心臓を鷲掴みにされた気分だ。瞳孔が一気にしまって体が硬直する。聞いたことのない声、男の割には声が高く、嘲笑ってくる様な口調。
「ここの二階に住んでるんだ〜、貧乏臭っ。」
長い前髪の間から建物の二階を見上げた後、ウィルに目を向ける。
「お前は誰だ?なぜ俺を知っている。」
俺は張り詰めた口調で探りを入れた。この男からは殺意は感じない、レベルは低くない・・。それに複数の視線、四方八方から見られている!
「俺が誰だか知る必要はない。あのデカブツは良く暴れてくれた〜、すぐに君を見つけられたよ。」
「あれはお前たちが仕組んだのか?なぜ俺を探す。」
「君をよく知る者に頼まれてね。ひとつ頼まれてくれないか?」
男は俺に近づきニヤついた顔を一瞬で真顔に戻し、俺の肩にゆっくりと手を置く。
「ライシャ・ルークスを知っているな?あいつから手を手引け。そして君もこちらの世界に来い。」
男はまたニヤついた顔に戻り、舌舐めずりをする。
俺はとっさに男の胸ぐらを掴み手に青い炎を纏わせた。なぜ俺を探す、俺をよく知っている者とは誰なんだ?聞きたいことか山ほど生まれた。
闇一派?
「彼女とはどういう関係だ?お、お前は闇一派なのか?」
「いかにも、俺は闇一派カダーヴァの遣いだ。ああ、あの女に聞いたのだろう。」
「君は知る必要はない。ああ、だが一緒に来てくれれば教えてやろう。俺たちに加われば、君のキュウルを世界に知らしめる事ができるぞ?皆、君達のキュウルを前に跪く。」
その一言にウィルは強い殺意を放出し、眼帯をしているにも関わらず、全身を強い呪力で満たした。人をも溶かす殺人的な呪力。その呪力の強さに胸ぐらを掴まれている男は脂汗を流す。
「お前はあいつを知っているな、何処にいるかを言え。言わなければ呪力で骨まで溶かす。」
ウィルは怒りで別人の様になり、男を掴み上げた。
「俺はお前たちに加わらない。あいつが俺に用があるのなら、直接会いに来いと伝えろ。・・・」
男は命の危機を感じ、左手の人差し指を上げ、その合図で隠れている者か一斉にウィルに向かって攻撃を仕掛けた。おまけに部屋まで潰されウィルの周りは大惨事になった。
素早く防御魔法を発動し怪我などはなかったが、その反動で男が逃げ、爆発音を聞いた警備隊がこちらに向かってくる。
「捕まったら長くなる・・・」
俺は警備隊が到着する前に屋根伝いで男を探し回った。気配はある、だがその気配がどの方向なのか分からない。自分の息の音しか聞こえない、その場に立ち尽くし辺りをグルグル見回す。
ファルとカダーヴァは繋がっているのか?カダーヴァを追えば、そこにはファルがいるのか?
ライシャとカダーヴァはまたどういう関係なんだ。
頭がいっぱいだ。
『姉妹は泳がせておく。いずれ俺とお前が渡り合えるようになったら、探しに行こう。』
ファルはライシャをまだ狙っている。
彼女の瞳が脳裏に浮かんでくる。そしてその輝きが失われていく事を想像した。復習対象にも関わらず、バカで小さな俺はその瞳に答えを見つけそうになっていた。
はっきりした。
あいつを探す事を一度は諦めた、でももう諦めない、俺は今を守りたい。
「必ず・・必ず兄さんを探し出す。どんなに時間が掛かろうとも・・」
「隊長、部屋の中には誰もいませんでした。住人は外出中だったみたいです。今大家さんに誰が住んでいるのか聞き込み調査中です。」
「わかった。ここ周辺には誰も近づけるな。」
シャルトファミリアはすでに整備と調査を行なっていた。被害の大きさからシャルトファミリアでは手が足りず他の警備隊ファミリアが応援に来ていた。
建物の二階部分は跡形もなく破壊されていて、もし人が中にいれば間違えなく即死。
「隊長、大家のお婆さんが眼帯をした長身の冒険者が借りていると、槍を背負っている様です。」
「またあいつか・・・」
レナは驚かなかった。多分心の何処かで予想がついているのかも知れない。闇一派とやはり関わりが・・・
「あなた達はここの整備を続けなさい。眼帯冒険者の方は私が探しに行きます。」
「レナたん、大丈夫?なんか色々考え事あるみたい・・・」
ミティーはレナと仲がよく、レナがいつも何か考え込んでいると直ぐに感じ取れてしまう。レナを支えようとするがいつも空振り・・
「大丈夫だ、ありがとう。」
冒険者は皆各ホームに戻り、街が寝静まろうとしている。
俺はヨルガンファミリアホームの前に立っていた。
「シャーロットに用がある。入れてほしい。」
「申し訳ないが、見ず知らずのものを通す訳にはいかない。」
門番が槍で門を守り、通そうとしてくれない。
「俺はファミリア勧誘を受けている、話をしに来た。名前はウィル、伝えてくれ。」
俺の粘り強さに面倒臭そうな反応をした後、何も言わずに俺を通してくれた。
「珍しいお客様だな、ウィル君。さっきの爆発に関係してたりして。」
「いかにも。俺の部屋が破壊された。」
シャーロットは飲みかけた紅茶を思いっきり吹き出して、爽快に笑った。
「君は話題が絶えないなぁ。何が起こった?」
「カダーヴァ。ファルと繋がっている闇組織みたいだった。俺を引き入れようと探し回っていたらしい。先日のモンスターの一件も奴らが関与しているみたいだ。それに・・・ライシャ・ルークスと何らかの関係があるみたいだ。」
”カダーヴァ”と言う単語にシャーロットは強張った顔をする。
「奴らが関与していたか。私は君の兄さんがカルマンを殺す前にこの闇組織と接触したのではないかと睨んでいたが、やはりそうだったか。」
「なぜ・・・」
「詳しい事は分からないが、カダーヴァは何としてでもルークス家の血を途絶えようと狙っているらしい。」
何の事情でライシャは命を狙われているのかは分からないが、ライシャのいる所のファルが来るのは間違えない。
「ダンジョン内が怪しいな。未開拓領域に身を潜めているのかも知れない。カダーヴァは私達と同レベル、いやその上を行く者も知るかも知れない。」
「ならば俺は近々未開拓領域に近づいてみよう。」
ダンジョンの未開拓領域に行くと軽々しく言うウィルだが、そこまで行くにに最低でも一週間を要する遠征になる。
「君は馬鹿か。君は強い、だがダンジョンは未知、君より遥かに強いだろう。今度私たちの遠征に加わればいい。未開拓領域までは行けないが、近くまでなら探索できる。」
「いいのか・・・」
「まあ今日はここで休め、空いている部屋を使うといい。今出て行っては行く宛はないだろうし、シャルトファミリアに見つかっては厄介だ。」
ガウルゥーはとっくに夜中を迎えていて、警備隊も住人達もそれぞれの住処へ帰っていったのだ。
「カダーヴァ・・・」
屋根の上に立ち月を見上げながらレナはそう呟いた。
次回ウィルはレナに捕まります!!!




