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モンスターの大群と緊急事態

「くっそ、何でモンスターが大群作ってんだよ!?」

「しらねぇよ、イレギュラーだこれは。早く逃げろっ」


 ある冒険者パーティはダンジョン内でモンスターの大群に遭遇した。ダンジョンでは稀にあること、もし遭遇してしまったら赤い煙玉を打ち上げてギルドに知らせる事が義務付けられていた。だがこの冒険者達は逃げるので精一杯、知らせる事なんてすっかり忘れていた。


「助けてくれ、モンスターの群れに追っかけられている!」

 冒険者はダンジョン入口の管理員に勢いよく助けを求めたが、その職員もまた近くに迫っているモンスターの群れを見て青ざめる事しかできなかった。


「まままずい、早くギルドに・・門を突破されてしまう。」

 モンスター除けの魔法はあんな大群にはもはや通用しない。何とか正気を取り戻した職員は煙玉を空高く打ち上げ助けを被った。



『カランカランカランカラン』


「鐘の音?」

 ウィルはダンジョン内にいた。緊急事態を知らせる鐘の音を聞き入れ、すぐに引き返す。


『ギルドから連絡、ダンジョン内でモンスタの大群が発生、たった今ダンジョン入口を突破し住居区並びにメインストリートへ向かっている模様。各ファミリアはギルドの指示に従いモンスターを討伐。その他冒険者は住民の避難を優先。』


 突然の放送に街中の人々は立ち尽くし、放送を聞くだけであった。


「シャルトファミリアです、みなさんガウルゥー広場へ避難してください。モンスターがダンジョンを突破し、こちらに向かっています。」

ガウルゥーを象徴する観光地、歴史ある広場は時に避難所と化す事があった。


「隊長、もう西の方で被害が出ています。重症者です!」

「モンスターの数は?」

「何匹か散らばってしまいましたが、群れはぱっと見50匹以上。他の隊員が討伐中です。」


シャルトファミリアもギルドの指示により、モンスター討伐兼住民の避難と護衛をしていた。


『ガガガァーーー』

『キャーーーー』

モンスターの鳴き声と住民や下級冒険者の悲鳴が交差する。


「急げ、犠牲者を出すな!」

 レナの指示熱が入り、やがてメインストリートにもモンスターが侵入して来たのだった。



「サッ」

「シュッ」

「スパッ」

 ローブのフードを深く被った冒険者が、青色の風で颯爽とモンスタを斬り殺す。そう、ウィルは西側の住居区からメインストリートまでの道のりで目に付くモンスターを全て討伐していた。

「あれは・・・」

 フードの奥の片目で覗き見る様に群れを見る。群れの中心に赤い大蜥蜴の様なモンスター、爪はドリルの様に鋭く、多くの下級冒険者を叩き飛ばしていた。

「推定討伐レベルB・・・」


「おい同業者、協力プレーで行こう。あの中心のデカブツを討伐しよう。」

「協力は必要ない。」

 ウィルは吐き捨てる様に言い放ち、その場を後にする。


 やがてデカブツはメインストリートに入り、自分の縄張りの様に堂々と歩く。ウィルや他の冒険者は逃げをくれた住民に襲いかかるモンスターの処理で、なかなかデカブツに辿り着けないでいた。


「レナたん、ボスみたいなのが来たよ!」

 ミティーとレナは細々したモンスターを他の隊員に任せ、直接デカブツに攻撃を仕掛けに行った。

 電気魔法で足元を狙い、右手の剣で切り裂く、距離を取った後に再び同じ様に攻撃。デカブツの脚の硬い皮膚は次第に切り開かれ態勢を大きく崩した。


 ウィルはその光景を見ていた。

「大剣士・・・」


 俺のできない事をやっている。俺が信じないものを信じている。レベルBでもあいつと戦えば、俺は負けるだろう。


 初めて目の当たりにする彼女と()()()()()、無敵そのもの、見ればよくわかる、だからあんなに信用されているのだ。


 その時だった。

「ぐぁあああ!」

「ミティー!」

 ミティーは後方部から襲ってくるモンスターに一瞬気を取られ、デカブツの爪の餌食になってしまった。腹部には一本の爪痕、そこから血が滲み出てくる。

 デカブツは爪についた血をなめ、態勢を低くしレナと向かい合う。それに反応しレナも一撃で終わらせてやると、構えをとる。


 討伐推定レベルB、そしてレベルBの冒険者。


 レナは自分の黄色い電気魔法で体を覆い、デカブツ目がけて一直線に突っ込んだ。デカブツもそれに反応し一直線に突っ込む。切り裂かれた脚など無視し、渾身の一発でレナを狙う。


 剣を引き一瞬で突き刺そうとする時だった。

(何!?)

 デカブツは単純に突っ込むと見せかけ、衝突寸前で動きを止めただった。

(フェイント?これでは・・・)

 もう体は言う事を聞かない、タイミングが崩れる、スピードに身を任せすぎて突く以外に何もできない、これでは相討ちに・・・。

 モンスターのドリルの様な爪が頭上から振り下ろされる。


そして、


 レナの視界前方に一瞬青い炎を帯びた短剣が写る、それがまた一瞬にして人間に変わる。

「ガーディアン」

 そう風の様に唱え、ローブのフードを深く被った冒険者は魔法を発動させた。

 モンスターはウィルの防御魔法により反動で跳ね飛ばされ、建造物の壁に叩きつけられ瓦礫の下敷きになる。


「くっ・・・」


 モンスターを跳ね飛ばした、しかしウィルの腹部には一本の細い剣が貫通し血が流れ出ていた。フードの奥で瞳が揺れる、電気魔法で体が痺れているウィルはその場で片膝を着いて動けないでいた。


「はっ!」

(どうしてっ、どうやって一瞬でここまで・・・、青い炎・・短剣、私は・・・・)

 レナはもう思考停止状態。自分の剣が目の前の人の腹部を貫通している事しか頭にない。


「抜いて・・くれないか・・」

「な、何を。」

「抜けっ・・」

「あ、あなたは自分が何をしたのかをわかっているのか?止められなかった事は見っててわかったはずだろっ」

 

 一向に剣を抜かないレナにウィルは体の重心を前に傾け、自ら抜こうとする。


「グググァァァァア!」

 デカブツが瓦礫から起き上がりこちらに向かってくる。それを止めようと下級冒険者が攻撃を仕掛けるが無駄であった。そんな時だった、ウィルの目の前に見慣れた背中が立ちはだかった。何かを守る背中、腕を大の字に開き通せん坊をする。


「マシュー・・何の真似だ・・・やめろ・・うっ」

 嗚咽まじりに声を絞り出し、お前では止められないと訴えた。マシューはウィルの言っている事を無視し、講習会の参加賞である短剣を構える。


 一瞬だがアレンの背中に見えた、広い背中、皆を導く背中。白いモヤの様なものがかかり幻覚を見る。だがモンスターの足音で一気にモヤが晴れ現実に引き戻される。ウィルは思いっきり重心を前にし、レナの剣を引き抜いた。冒険者を突いてしまったレナはまだ放心状態、自分の世界に入っていた。


 アレン、力を貸してくれ。ウィルは背に背負っている一本の美しい槍に手をかける。手をかけると同時に槍が反応し、中心にある空色の石が光り出した。


 槍とウィルの魔力が共鳴し青い炎を纏う。痺れる体を無視し槍を力一杯デカブツに向かって投げ飛ばす。空間を切り裂く様な槍はデカブツの鳩尾を素早く貫通し、やがて後方部の地面に突き刺さった。デカブツは致命傷を負い煙の様に消えていく。


 そしてウィルの気が失われるのと同時に槍の輝きも消えていった。


12部では”ウィルにとって仲間とは何か”について書こうと思っています。少し熱の入る部分になると思うので、お楽しみにしていて下さい。

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