シャルトファミリア レナへの返り討ち
レナ=ライシャ
「そこの獣人、待ちなさい!!」
シャルトファミリア警備隊を率いる隊長レナは、只今ひったくりを追いかけていた。女性用のバッグを抱えたキャットピープルの男は逃げ足が早い。曲がりくねった道を駆使し軽々と逃げ回る。
(くっ、むやみに魔法を放てば建造物などの被害が・・・)
レナは空に向かって黄色い一筋の雷を打ち上げた。それを見た他の警備隊が集合する。隊員の追跡スキルをうまく使い雷を打ち上げ連携プレーでひったくりを追い詰めていく。
「もう逃げられない。手に持っている物をこちらに渡しなさい。」
そう、シャルトファミリアにかかれば逃げ切れる者などいない。レベルAの冒険者はいないが、連携プレーはガウルゥー一番だ。
黄色の透き通った瞳を強気のキツい目つきでひったくりを睨む。
「まぁーたく絶対逃げ切れないのにね、レナたーん」
同い年のミティーが軽く伸びをしながら空を見上げた。ひったくりはとうとう堪忍したのか警備隊に難なく確保されとっくにギルド管理下の拘束所に連れてかれていた。
「レナたんて・・やめてくれないかな。」
「何でよー、可愛いからいいじゃん!レナたん他の冒険者の間で人気者だよーモテモテでいいなー。」
レナの外見は可愛いと言うより少しS気のある美人さん、冒険者の間では好評で、レナに捕まえて欲しい人が続出するほどだった。だが当の本人はそんなくだらない事など一切興味がない、ただ自分の責務を全うするまで。
「私はホームに戻り報告書を書くから、警備はあなた達が続けておいて。」
「レナたんお疲れ様ー、後は任せて!」
隊長の仕事は正直とても面倒だ、報告書作成に各ファミリアの定期隊長会議、ダンジョン遠征の予定表の作成やら何やら。
「疲れた。」
レナは日頃のストレスで心身ともに参っている。朝からキャットピープルと追いかけっこ、昼ごはんを食べずに報告書作成。少し完璧主義者気味で、やる事は絶対に溜めない、やるなら徹底的に。
彼女は過去のトラウマからあまり他の人を信用できない、たとえファミリアの仲間でも、妹でさえも。仕事上の連携プレー以外は、協力なんてものはしない。協力はする、だが私に協力はしないで、だっていつか裏切るでしょ。
報告書をギルドに提出し、出てくる頃には夕方になっていた。ロバーグにあの冒険者について長話をくらっていた。
『次にウィルという冒険者にあったら強制連行してこい!先日ギルドを介さずにクエストを引き受けた、しかも受付前で!なんて奴だ。』
ロバーグの怒った顔が頭に残る。
あの冒険者についてどうも頭に引っかかる、もしかしたら闇一派の者なのか?私の正体がばれたのか?
そう、彼女もまた訳ありなのだ。
「シャルトファミリア の隊長さん、ちょっと助けてくれないか?」
日も落ち冒険者達はダンジョン帰りに酒場でうまい酒を飲んでいる。夜のガウルゥーはとても賑やか。そんな中、ある男のヒューマンがレナに話しかけた。
「何か?」
「あっちで怪しい奴らが希少アイテムの密売をしているのを見ちまったんだが・・」
希少アイテムの密売は違法だ。レナはすぐに男の後をついて行き、メインストリートの裏側の細い道まで連れて来れられた。
「怪しい取引は・・!」
「お前には散々痛めつけてもらったからな、お返ししないとな。」
怪しい取引と騙しレナをふくろ叩きにする作戦だった。通路の前後に5人ほど、逃げ道は断たれていた。
「何の真似だ、こんな事をして許され・・」
「許されるんだよぉ。」
レナの言葉を被せる様に男は余裕そうに言った。
レナは前後の敵の位置を把握し全て倒す予定だ。男が斧を振り上げたと同時に男の懐に入り渾身の一撃を見舞って、回し蹴り。レベルは圧倒的にレナの方が上だ。
「くっそ、お前らやれっ」
他の仲間が一斉にレナの元へ駆け寄り、攻撃を繰り出す。
その時だった
「白い粉?」
白い粉が空から降ってくる、甘い匂いがし体の力がだんだん抜けていく。
「これは・・眠り粉、いや」
「惜しい、眠り粉と痺れ粉のミックスだ、ははは!」
はなから勝つなんて考えていなかった。5人は囮でもう一人の仲間は屋根から優雅に粉を撒く。普段のコンデションならすぐ察知できたはずだ・・・。自分の失態に怒りが込み上げるが動けない。
体が崩れ視界がゆっくりとぼやけていく、手足は自分のものではない様な感覚に陥る。やがて完全に地面に倒れ込みうずくまる。
「くっ・・」
「高い金をはたいた甲斐があったなーお前ら。殴り潰せ。」
遠くから聞こえる、ああ殺されるのか。今まで多くの冒険者を厳しく取り締まってきた、いつか返り討ちに会う事は覚悟していた。彼らの足音が間近まで迫って来た時だった。
「シューーーーーーーッ、ドゴンッ」
青色の風が急に吹き荒れ、男達が風の中の見えない何かに激突し吹き飛ばされ、その威力に皆動けなくなっていた。そして後方からまた近づいてくる足音を聞きながら気を失ってしまった。
「ライシャ、あなたもお父さんの様な剣士になるのよ。私たち一族が生きている限り正義に尽くすのです。」
記憶の中の母の声、子守唄の様な優しい声、時々家族の夢を見てしまう。朝起きると皆が居て、一緒にご飯を食べる。父との剣技の鍛錬や、それを応援する妹のリーシャ、そして庭で洗濯物を干しながら微笑んでくる母。
お母さん、私はあなたの言葉通りになれないかもしれない、私一人では立ち上がる勇気がない。私は私を守ることしかできない、この血を途絶えない様に・・・
「レナたん!レナたん!レナたん!!」
ファミリアの仲間の声がする。ハッと目を開くとそこにはミティーがレナの手を握り締めながら呼びかけている。
「ここは・・」
「私たちのホームだよ。私たちに反感のある冒険者達に襲われて気を失ったんだよ、気がついてよかったー。」
ミティーはベッドで横になっているレナに目玉をうるうるさせながら抱きつく。
レナが起きたのは次の日の朝だった。
「やっぱり、まだ・・動けない。感覚が・・」
痺れ粉がかなり効いているせいなのか手足がびくともしない。大量の痺れ粉を吸うと大体2から3日間ほどは動けなくなってしまう。
「あ!あの冒険者たちは!?」
「なんかボコボコになってメインストリート脇の道で山積みになってたみたい。」
「誰が・・・」
「それがわかんないんだよねー、レナたんを運んでくれた人には会ってないんだけど、見張りの人が言うには、ローブのフードを深く被った冒険者?がレナたんをホームの門まで運んでくれたみたい。」
昨日の記憶はまるで無い、地面で蹲り足音しか聞こえない。見えたのはあの青色の風?炎?レナは誰かも知らない冒険者に心の中で感謝をした。
レナ・シャルト(ライシャ・ルークス)
かつて世界を轟かせた大剣士の娘。父母ともにファルに殺される。何らかの経緯で改名しガウルゥーのシャルトファミリアの隊長に成り上がった。光や雷を用いた攻撃、戦闘系冒険者。
レベルB




