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緑の乙女はなびかない  作者: たかむらかおる
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クラリスは知らない

 クラリスは知らない。

 自分がどれほど貴重な存在であるか。彼女の作り出す装飾品(緑の乙女)が、森や林や花を失った王都において、どれほどの価値があるか。

 彼女が今までに作った作品は、実は最近まで国外向けに輸出されており、王都には卸されておらず、そのせいで発見が遅れていた。

 加工されてもなお、空気を浄化する機能がある。唯一無二の製品を惜しげもなく輸出しているなんて、と、隣国からの賛辞を受け初めてその存在を知るなど、王族の恥以外の何物でもなかった。

 この国、グラスオールは、空気の汚染が進んでいる。特に王都は酷い。工業都市として名をはせた国の中心には、森どころか木の一本、花の一輪さえない。いくら植えても育たないのだ。

 石炭を燃やし排出される煙は王都の上空にいつまでも滞留する。雨の日には、それが雨粒と一緒になり、地に降り注いでくる。

 国王も、分かってはいるのだ。

 石炭を止めれば、王都にも緑が戻ると。しかし、国の経済の主要産業である工業製品は、石炭を燃やさなければ作れない。国の経済を止めることは、国民の死に直結する。

 そこに、まるで光が刺すようにもたらされた緑の乙女の存在。

 身に付けるだけで、辺りの空気を浄化し、室内に置けば観葉植物程度ではあるが木々が育つという事実。

 クラリスは知らない。今や、彼女の存在は、王子よりも国王よりも重要であると言うことを。

 この世界には、はるか昔加護と呼ばれるものがあった。人々は自然と共に生き、精霊の力を借りることで加護という力が使えたのだ。加護は、人や物に精霊の力を込めることを言う。

 しかしいつしか精霊は消えて、加護を使える者はいなくなってしまった。文献によると、500年ほど前までは加護を使う存在が確認されていたという。

 クラリスはおそらく500年ぶりに現れた加護使い。精霊の力を借り、それを物に込めることが出来る存在。

 この国、グラスオールは豊かな国だ。東西南北にそれぞれ異なった産業を持つ都市を抱え、その中心地である王都では武器など鉄製品を製造し他国へ輸出している。

 しかしその反面、食料品や衣料品など生活必需品の多くは他国からの輸入に頼っている。王都は特に、食物が育たないからだ。

 王も、王族も、貴族も、後悔している。こんなにも、石炭が空気を汚染するなど誰が予想出来ただろう。

 愚かだ。誰も彼も。現状に甘んじて、何の手も打てず、降ってわいた僥倖に縋り付く父王を尊敬など誰が出来るだろう。

 彼女の存在は、今はまだ王と王太子である僕しか知らない。今ならまだ、守ることが出来る。

 どんな形になるかは分からない。彼女が納得する方法で、出来ればそう願うが、そうならない可能性も高い。

 であれば、一番いいのは、彼女が僕を必要としてくれること。

「彼女です。上手くやってください」

 僕の影が囁く。

 立派な斧を勢いよく振りかざす彼女が、例の。

 予想よりもたくましい姿に思わず頬が緩む。ひどく素朴な衣類に身を包んだ、女性。年は確か同じ17だったはずだ。髪は栗色のストレート。頬は林檎のように赤く、わずかなそばかすが愛らしい。

 僕はあえて音を立てて歩き、よろめき、倒れる。彼女に見つけてもらう為に。

 ああ、彼女は気づいたようだ。僕の存在に。

 僕は奥歯に仕込んであった薬を噛み潰した。意識が急激に遠のいていく。彼女が訝しんでこちらに向かってくる。

 ああ、すでに、こんなにも愛しい。

 緑の乙女。僕の、僕だけの。




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