第七話 獣人と魔物
お越し頂きありがとうございます。
またまたブクマ頂きました! ありがとうございます!
「えっと?」
ロウ賢者や元クラスメイト達の件を片付け、領地に帰った優を待っていたのは大勢の獣人達だった。
「領主様が必要なものを持ってこいと命じられたのでお持ちしました」
初日に屋敷で顔を合わせたの獣人がそう言いながら頭を垂れると、その他の獣人達は手にしたものを優へと差しだした。
(これは……)
彼らの手にあるのは食料や雑貨などの生活用品だ。しかし、どれもこれも粗末なもので、領主の館に備蓄されている保存食や置かれている調度品と比べれば明らかに見劣りする。
だが、問題はそこではなかった。
「待て待て。俺はそんな略奪者みたいな命令はしてないぞ。お前達が必要なものがあれば言ってくれって言ったんだ」
優がそう言うと目の前の獣人は困惑した顔をした。
(え、まさか言葉が通じてないとか?)
アールディアに来てから言葉で困ったことがなかったため──ついでに言えば、それが異世界転生のお約束なので──考えたこともなかったが、確かにそう言うこともあるかもしれない。
「違います、マスター。彼らはただ単に自分達の理解の範囲でマスターの言葉を解釈しただけです」
「トワ、それは一体どういうことだ?」
すっかり混乱した優だが、幸いなことに昨夜の同期により優の知識や常識、考え方を理解しているトワには彼に何を説明すればよいかが分かっていた。
「アールディアでは獣人は差別の対象です。マスターの世界でいう“ジンケン”が認められていない存在なのです」
「なっ!」
「したがって、領主が獣人から奪うことはあっても与えることはありません。何の理由もなく傷つけることさえあるのです。マスターが心底獣人達の力になりたいと思っていても、彼らはそれを信じられないでしょう」
「それは……ひどすぎないか!」
優が怒りで声を荒げると周りの獣人達が怯えたように体を硬直させる。
(あ、しまった!)
優は慌てて獣人に謝るが、逆に獣人達の動揺は広がった。
「マスター、帝国の人間が獣人に謝ることはありません」
「分かった。つまり、あり得ないことばかりしている俺は不審者扱いされているということだな」
「ニュアンスは異なりますが、概ねその通りです」
「はあ……」
優は思わずため息をついた。
(俺は領民である獣人達に真っ当な生活をしてもらいたいんだが)
優は獣人達の境遇と自分のことを多少重ねていたため、そんなふうに思っている。
「トワ、どう言えば獣人達に俺の考えが伝わるかな?」
「では、彼らが持って来たものを買い取ってはいかがでしょうか。幸い資金や物資には余裕があります」
「なるほどな」
そう言うと、優は獣人達が持って来たものを受け取り、その代価として金品を渡した。ちなみに優の持つ金品とは、ロウ賢者や元クラスメイトからせしめたものだ。
相当な金額になるため、かなりの荷物なのだが、幸いアルデバランにはいわゆるアイテムボックス──異空間に持ち物を貯蔵する異空間ファンタジーで頻出する便利スキルである──を使えるようになる力があったため、持ち運び自体は楽だった。
「マスター。あまり多く渡すと怪しまれてしまいます。これくらいが限界です」
「そうか、分かった」
優とトワは、しばしばこうしたやり取りを挟みながら獣人に金品を渡し続ける。集まった獣人はそこそこいたので、それらが終わった時には日が暮れようとしていた。
「ふう。これで終わりか」
最後に残った獣人を見送った後、流石に優はそう呟いた。が、一人一人と面と向かって話す機会が持てたことは悪くない成果だろう。
「鉱物資源を掘り出すには人手があった方が効率的です。今回のことはその際の布石にもなったと思います」
「今と同じように働きに応じて金品を渡すということか。なるほど。小さいことから信頼を得ていくということだな」
トワの提案が思ったより先のことまで考えていたことを知り、優は驚いた。
「とにかく今日は休みましょう。夜間は魔物が現れる可能性が高くなります」
「魔物か」
例によって、優の頭の中にアールディアでの知識が広がる。
(魔物とはマナの影響で変質した生き物の総称。凶暴で人を始めとした生き物に襲いかかるものが多い)
(大きな都市などでは軍やギルドの依頼を受けた冒険者が定期的に魔物の間引きを行っているが、ウェルズ地帯のように人の手が入りにくい場所では注意が必要)
魔物は異世界ファンタジーの定番。驚きはしなかったが、トワの言うとおりにした方が無難だろう。優はトワに提案された通り、屋敷に向かい、休むことにした。
次の日、優はトワと共に屋敷の北側にある山の麓へ来ていた。トワが言うにはこの場所に大量の鉱物資源が埋まっているとのことだった。
「マスター、その位置でお願いします」
「分かった」
トワの指示通りにハルシオンの魔法を打ち、穴を開ける。その後、二人は開けた穴をのぞきこんだ。
「どうかな?」
「上々です、マスター。熱が冷めたら試掘しましょう」
そう言うトワの肩には大きなツルハシがある。他にはスコップなどいかにもそれっぽい道具が彼女の傍に転がっていた。
(ミスマッチ感が半端ないな)
どれもこれも細身の美少女に似合いそうなものではないが、トワの姿は何故か絵になる。いや、何故かというか……
(まあ、美少女が持てば何でもオッケーってだけだな)
顔立ちもそうだが、トワはプロポーションも整っている。確かに他に必要なものなど思いつかないくらいだ。
「マスター、どうしました?」
「い、いや別に」
優はハッと我に返り、やや焦りながらトワが差しだした飲み物を受け取った。近くの岩に腰掛けてそれを飲んでいると、急にどこからか悲鳴が聞こえてきた。
「何だ?」
「三時の方向です」
優が駆けだすと、トワも遅れずに追従する。
「間もなく着きます」
トワの言葉通り、それからすぐに二人は現場にたどり着いた。そこにいたのは血を流した獣人の男の子とその子をかばおうとする獣人の女の子。そして……
「魔物か!」
優の目の前には土で出来た狼のような生き物が数匹いる。どうも新しく現れた優達を警戒しているようで様子をうかがうようにつかず離れずの距離を保っている。
「サンドウルフを五体確認」
トワはそう言うが、優の目の前には三体しかいない。だが、その疑問は口にしなくてもトワに伝わっていた。
「ニ体は土と一体化しています。サンドウルフは土と同化することにより姿を消すことが出来ます」
「厄介だな、それ!」
優はアルデバランを呼び出し、抜刀した。トワは素手だが、それらしい構えをとっている。優よりも様になっているところを見ると、武闘家としての機能もあるのだろう。
「来ます」
トワがそう警告するや否や、二匹のサンドウルフが同時に優に飛びかかる。子どもを背にした優はアルデバランの力で光の壁を作り、その攻撃を防ぐ。思わぬ迎撃に姿勢を崩されたニ体のサンドウルフが地面に転がるとすかさずトワが急所を蹴り抜いた。
「やったか」
白目をむいて動かなくなるサンドウルフを見て、優が呟く。優の目に映るサンドウルフは離れた場所にいる一体のみだ。
(後一体か)
安心したからか優は見えていないサンドウルフを忘れてしまった。そして、その気のゆるみがピンチを招いた。
「マスター!」
トワに言われて振り向くと更に二体のサンドウルフが優に向かって牙をむいていた。アルデバランを振ってとっさに放った光弾が運良く一体に当たるが、もう一体は止まらない。
(やられるっ!)
サンドウルフの牙に無防備に体をさらす優。だが、それが優に届くことはなかった。
「なっ!」
優をかばったのはトワだ。だが、彼女は左腕に傷を負いながらも怯まず掌打を放ち、サンドウルフを打ち倒した。
「トワ!」
「大丈夫です、マスター。それより残りを」
そうトワに言われ、優は残った一体に視線を戻す。だが、サンドウルフは既に戦意を失っているらしく、優に背を見せて逃げ出した。
「戦闘終了です、マスター。お疲れさまでした」
「いや、傷は大丈夫なのか?」
優の言葉にトワは一瞬小首を傾げるが、すぐに笑顔を見せた。
「お気遣いありがとうございます。トワは魔道人形ですから自己修復します。それより、あの子の手当てを」
「あ、ああ」
そう言うと、優は獣人の子どもの方へ近づいた。アルデバランはしまい、手を上げて害を与えるつもりがないことを示しながらだ。
「大丈夫か? よかったら簡単な手当てをさせて貰いたいんだが、いいかな?」
読んで頂いてありがとうございました!
次話は六時頃に投下予定ですのでよろしければご一読くださいm(_ _)m