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第五話 色々な余裕

ポイントやブクマ、ありがとうございます! 


とぉぉぉっても励みになります!

 朝になり、準備を終えた優達はアルカサス城に向かった。優が約束通りの時刻にアルカサス城にたどり着くと、早速ロウ賢者が彼を出迎えた。


「これはこれは早いお着きで」


 顔や口調には出さなかったが、時間通りに現れた優にロウ賢者は驚いていた。というのも、優の領地はアルカサス城から遠く、ファルス帝国の最新機でも往復するだけで精一杯なのだ。


「あんたにはまた借りが出来たな」


 優はコックピットを開け、ロウ賢者をにらむ。だが、ロウ賢者はそれには取り合わず、優の傍に控えるトワに目を向けた。


「人と見紛みまが魔道人形ゴーレム。一体どんな技術で」


 まるで体の隅々まで見透かそうとするようなロウ賢者の視線にトワが微かに顔を歪ませる。それに気づいた優がコックピットを閉めると、左側から良く知った声が飛んできた。


「優、固有武装ユニークアームズはどうした?」


 リスパに乗った仁がこれ見よがしに右手のバズーカのようなものを見せつける。


「やはり作れなかったか。あんな辺境の領地じゃな!」


「作れなかったんじゃない。作らなかったんだ。ハンデをやらないと戦いにならないからな」


「何だと!」


 仁は声を荒げるが、その怒りはすぐに収まった。


「まあいいや。その余裕、いつまで続くか楽しみだ」

「へえ~」


 何か秘策があるのだろう。自信満々な仁を見ながら優はそう思ったが、不安はない。トワと完全に同期したことで優はハルシオンの性能を何となくに理解していたからだ。それに……


(得意になったところを叩いてやった方が、スカッとするしな)


 優がコックピットで不敵な笑みを浮かべると、トワはニコッと微笑んだ。


「では、決着の場へと向かいましょう!」


 二人の間に立ったロウ賢者が杖を振り上げる。すると、辺りに不思議な光が満ちていく。


「エンゲージゾーンの展開を検知。対抗しますか」


 エンゲージゾーンとは、高速詠唱機スペルランナー同士の戦闘で周囲が破壊されないようにするために作られた戦闘用の空間のことだ。


(まあ、別に場所はどこでも一緒だしな)


 優はそんなふうに軽く考えた。


「いや、いい」

「了解しました」


 光が消えた後、優の目の前に広がっていたのはコロッセオのような円形の闘技場だ。それはまあいいのだが……


「おい、仁。何でそんなとこにいるんだ?」


 仁のリスパは何故かロウ賢者と共に闘技場の観覧席にいたのだ。


「俺と戦う前にまずはこいつらと戦って貰おうか」


 仁がそう言うと、十三体の高速詠唱機スペルランナーが現れた。


「マスター。リスパが五体。第三世代型高速詠唱機(スペルランナー)、ルーランが八体です」


「クラスの奴らか。別に良いけど、何でお前らまで?」


「俺達の目的はただ一つ!」


 優に動揺が見られないことにやや驚きながら、透は大声を張り上げた。


「優、お前が連れているその娘だ!」

「……は?」


 優がコックピットで間の抜けた声を出すが、透は構わずまくしたてる。


「は、じゃねーよ! 尚子さんにその娘、何でお前ばっかり美少女を連れてるんだ。優のくせに生意気だぞ! 恥を知れ!」


「最後の部分はそのまま返すが……つまり、俺と戦ってトワを手に入れたいということか」


「こっち(アールディア)には相手を奴隷にする魔法もあるらしいじゃないか。お前から奪ってしまえばこっちのもんだ」


「お前ってそんな奴だったの? こっちに来て一番の驚きだよ」


 恐らく、透は頭の中でトワを様々な方法ではずかしめているのだろう。そんな元クラスメイトに優はただただ呆れるばかりだ。


「マスター、いかがしますか? この空間では勝者が敗者に一定程度の命令を下すことが出来るようですか」


「ふうん。つまり、勝てばあいつらが俺の言うことを聞いてくれるわけだ」


 そんな会話をしていた姿が隙だらけに見えたのだろう。ハルシオンの左側にいた一体のルーランが機関銃のような武器をハルシオンに向け、トリガーを引いた!


「やった!」

「おい、ずるいぞ、烈!」


 炎弾の嵐が周りの地面ごとハルシオンを襲い、土埃が起こる。それを見たルーランの乗り手、工藤烈は勝利を確信し、他の機体の乗り手は一斉に彼を責めた。何せ、この空間の定義する勝者とは相手に止めを刺した者となっているのだ。


「まあ、しばらくしたら貸してや……グフッ!」


 仲間をなだめるために都合の良いことを言おうとした烈だったが、ハルシオンが背後から突き飛ばしたせいでうめき声を上げた。


「いや、遅いから」


 優は烈の炎弾をかわすついでに後ろへ回りこみ、突き飛ばしたのだ。


「また、【機動強化魔法フィジカルエンチャント】か?」


 烈の周りにいた元クラスメイトの誰かがそう呟く。それを聞いた優は口元に笑みを浮かべた。


「そんなに速かったか? まだ何の魔法も使ってないんだけどな」


「「「!!!」」」


 透達の顔が青ざめる。彼らは自分達の機体とハルシオンとの間には数で埋めようがない差があることにようやく理解したのだ。


「だかな、それでも俺の勝ちだ!」


 透は機体の左手に持たせていたものを優に見せつける。先端にボタンがついたそれは何かの起爆装置のようなに見える。


「お前の機体にはトラップが仕掛けてある! 俺がこのスイッチを押せば自慢の機体も台無しだぞ」


「へー」


 気のない返事をしながら、優は彼らがいつの間にそんなことをしたのかを考えた。


(あ、あの時! ロウ賢者から羊皮紙と指輪を受け取った時か)


 優は自分がハルシオンに戻る際に元クラスメイトの数人が妙な動きをしていたのを思い出した。


(ってことは、ロウ賢者の差し金だろ。トラップとかいうのも奴から渡されたか……)


 この空間といい、トラップといい、随分陰湿なやり方だと優は思った。


「さあ、優! 負けを認めろ。そしたら、機体は壊さずにおいてやる」


「どうしたものか……」


 優がコックピットの中で悩んでいたのは透の言う“トラップ”とやらのことではない。


(ロウ賢者の行動は目に余るな。アールディアでの俺の行動方針は“やられたらやり返す”だ。奴はこいつら以上にほっておけない相手かもな……トワの件もあるし)


「マスター、トワは何もされていません」


 まるで優の心を読んだかのようにトワがそう抗弁する。読心機能がある……とかではなく、ただ単に優の考えを予想しただけだ。


「さあ、どうする?」


 透はなぶるような口調で優に声をかける。おそらく、優が機体とトワのどちらを取るかで悩んでいると思ったのだろう。


「いいぜ、やってみろ」

「は?」  


 思っても見なかった優の返事を聞き、透は思わず間の抜けた声を出した。


「やってみろって言ったんだ。ほれ、早く」

「優しく警告してやったらつけあがりやがって!」


 挑発するような優の口調に透が怒りをあらわにする。


「なら後で後悔しなっ!」


 透がボタンを押す……が、その時には彼の機体にあったはずの起爆装置が何処にもなかった。


「なっ!」

「探し物はこれか?」


 慌てる透に見せびらかすように優のハルシオンは手を開く。すると、そこにはさっきまで透の機体の手の中にあった起爆装置があった。


「これが【機動強化魔法フィジカルエンチャント】を使った俺のスピードだ。な? 最初は使っていなかったのが分かっただろう?」


「あ……え……」


 優が口にした信じられない話に透はあんぐりと口を開けた。最初とついさっきのスピードの差など分かるはずがない。透達にはどちらも認識さえ出来ないスピードなのだ。


「ほら!」


 突きつけられた信じられない事実に、透がただただ呆然としていると急にハルシオンから何かが飛んできた。


「!」


 慌てて避けたが、何のことはない。ハルシオンが投げて寄越したのは、ついさっきまで透の機体が持っていた起爆装置だ。


「返してやる。押してみろよ」

「フフフ……バカか、お前は」


 透は機体を操作し、ハルシオンの動きを警戒しながら足元の起爆装置を拾った。


「何のつもりか分からんが、トラップはロウ賢者から渡された特別製だ。いくら早く動けても関係ないぞ」


(やっぱりロウ賢者が噛んでいたか)


 優は無駄なやり取りから情報を得られたことに思わずほくそ笑んだ。


(じゃあ、前座は早く片付けないとな)


 優は密かにそう考えながら、透を挑発する。正直、優はもう透に関わるのが嫌になっていたのだ。


「御託はいいから早くやれって」

「この野郎っ! 後悔させてやるっ!」


 そう言うが早いか透の機体が勢いよく起爆装置を押した! 

読んで頂いてありがとうございます! 次話は昼頃に投稿予定です。

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