第三話 固有武装と領地
来て頂きありがとうございます!
赤い警告文は来てません! 以外と大丈夫なのかな?
優が攻撃しようとしたその時、辺りに大きな声が鳴り響いた。
「お待ち下さい、不遇民様! このままでは詠唱機創造陣が破損してしまいます!」
言われて見てみれば、確かに仁のリスパがもたれかかっている詠唱機創造陣はあちこち歪み、煙を上げている。優は気にしていなかったが、確かにこのまま攻撃すれば、破損する可能性は高い。だが……
「それと俺に何の関係があるんだ?」
ロウ賢者はそれを聞いて目をむいた。何せ詠唱機創造陣を用意するには莫大な金と人手がかかるのだ。更に今は戦争中。詠唱機創造陣を一つ失うだけで戦局は大きく不利になる。
「こいつにはまだ借りがある。それを返すことが最優先だ」
「ならば改めてその場を設けましょう。それに相応しい場を」
「そんなもんいらん。今やれば済む話だ」
思ってもみなかった優の頑固さにロウ賢者は頭を抱える。が、だてに賢者と言われているわけではない。すぐにこの場を切り抜けるための方策を見つけ出した。
「では、領地を差し上げましょう。領地は高速詠唱機の運用に不可欠ですからな。固有武装もなしに決着とはいただけません」
ロウ賢者は、高速詠唱機はそれぞれ専用の武装──固有武装──を装着することで発動する魔法を調整するものがほとんどなのだと語った。
例えば同じ火の魔法でも散弾にして使いたい者もいれば、レーザーのようにして使いたい者もいる。それを可能にするのが、固有武装で、そうした工夫こそが戦いを左右するのだという。
「マスター、固有武装を生産できれば戦闘力が格段に上昇します。領地を受け取っておかれることを推奨します」
銀髪の少女は優にそう告げる。同期により、優は少女が自分に忠実で不利になるような言動はしないことを知っていた。したがって、優は彼女に一つ頷くと仁のリスパから視線を外した。
「で、俺の領地とやらはどこになるんだ?」
「こちらです」
そう言うと、ロウ賢者は杖をかざす。すると、見たこともない地図がまるでホログラムのように写し出された。
「これは我々ファルス帝国の地図です。不遇民……いえ、あなた様の領地はここで如何でしょう」
ロウ賢者の言葉と共に地図の一部が赤く塗りつぶされる。だが、この提案が妥当なものかどうかは分からないため、優は銀髪の少女に視線で問うた。
「地質データを分析。当該領地に埋蔵されている鉱物を推定……マスター、充分な資源を得られることが確認できました」
優はそう答えた少女に再び頷き、ロウ賢者に向かって返事をした。
「分かった。そこでいい」
「では、機体から降りてきて頂けますかな。お渡ししたいものがあります」
そう言われて優が座席から腰を浮かせる。すると銀髪の少女が剣のようなものを手渡した。
「アルデバランです。お持ち下さい」
受け取ると共にアルデバランと呼ばれた剣は優の体に吸い込まれるように消える。それがどういうもので、どう使えばいいのかも既に優は知っていた。
(これは鍵のようなもの。しかも大気のマナを使って魔法が使えるようになる護身用の魔道具か。けっこう格好いいな)
このタイミングで優に護身用の魔道具を渡したということは、少女は外に危険があると判断したのかも知れない。
「貰うもんを貰ってちゃっちゃと行くか」
そう言って優が外に出ると、少女も後に続く。
「出てきたぞ」
「一人じゃないぞ! 誰か連れてる」
「何者だ?……てか、可愛い!」
優がトワと共に姿を見せると外にいた元・クラスメイトや作業に当たっていた人々はまたたく間に騒ぎ立てる。
「うるさいな……」
「黙らせますか?」
優が小声で呟いた愚痴に少女が素早く反応する。だが、優にはその手段があまり穏当とは言えないことが理解出来たため、小さく首を振った。
「優っ! 覚えていろよ!」
負け惜しみを言いながら、担架で運ばれていくのは仁だ。本来なら何か嫌味でも言ってやるところなのだが、彼の姿をみるなり、優は爆笑した。
「アッハッハ! 仁、何だ? その格好!」
機体から出た仁はぴっちりとしたボクサーブリーフのようなものしか身に付けていなかったのだ。
「馬鹿野郎! これは高速詠唱機を動かす時に着る専用のスーツだ。てか、何で優は着てないんだよ!」
「何でって……」
そこで思わず少女とのキスを思い出し、赤面しかけるが、そんなことを思い出している場合ではない。
「さあな。お前には関係ないよ。でも、ま! 似合ってると思うぜ」
「ぐっ! コノヤロウ!」
仁が顔を真っ赤にしながら担架で運ばれていくと、ロウ賢者が数名の男を従え、優の元へとやってきた。
「ユウ様、それは?」
「?」
ロウ賢者の言う“それ”が何を指すのか分からず、優は内心首を傾げる。が、ロウ賢者はそれには構わず、話を続けた。
「魔道人形……しかも、極めて精巧なもの。一体どこでそのようなものを」
ロウ賢者はそう言いながら、杖を銀髪の少女の体に押し当てた。あまりに無遠慮なその仕打ちを反射的に止めようとした優だったが、その瞬間、優の脳裏に魔道人形についての知識が浮かんできた。
(魔道人形は通常喋れないため、まず敵意の有無を調べるのは一般的……か)
腹部に突き立てられた杖が胸部にある膨らみへと上がっていっても、銀髪の少女は気にした様子はないし、ロウ賢者の表情にも色めいたものは見られない──最も未知の技術に内心冷や汗をかいてはいたが。
(まあ、理屈では分かるけど、ジジイが女の子にイタズラをしているようにしか見えないな)
ファルス帝国では……というより現在のアールディアでは人と見分けのつかない外見をした魔道人形は作れない。したがって、ロウ賢者の行動が不審者のそれに見えるのはひとえに銀髪の少女が有り得ないくらい高い技術で作られているのが原因だ。
とは言え、ところ構わず体を這うロウ賢者の杖にトワが悶え始めると流石に優は制止した。
「止めろ!」
ロウ賢者の杖が爆散する。驚いた一同が優を見ると、その手にはアルデバランが握られていた。
「何をするのですか、優様!」
「それはお前の方だろ! というか、絵的にやばいわっ! 気付け!」
「絵的……?」
ロウ賢者は優の言葉はあまり理解出来ていないようだったが、言わんとしたことは分かったらしく、渋々手を引っ込めた。
「で、どこでそれを?」
「俺の機体のガイドだそうだ」
「ガイド? 確かに高速詠唱機には“ガイド”と呼ぶ補助機関が存在しますが、通常それらは高速詠唱機のパーツでしかありません」
ロウ賢者はそこで言葉を切って優の言葉を待った。つまり、優の傍にいる魔道人形は何なのだと問いたいのだろうが……
(んなこと言われても)
まあ、分かったところで素直に話すわけでもない。したがって優は自分の用だけを済ませることにした。
「それより俺に渡すものがあるんだろ?」
そう言うと、優はさっさと渡せと言わんばかりに左手をロウ賢者に向けた。
「こちらです」
そう言いながら、ロウ賢者が優に渡したのは一枚の羊皮紙と指輪だった。
「ユウ様があの地域、ウェルズ地帯の領主であることを示す書状と領主の印です」
準備が良すぎるような気がしたが、おそらく機体を製造した後は領地を渡すような流れになっていたのだろう。その相手が優だったのかどうかまでは分からないが。
「再戦は明日の昼にしましょう。領地へ向かい、準備されてはいかがでしょう」
「ああ」
そう言うと、優は踵を返し、銀髪の少女を伴って機体へと向かった。その動きを見て、数人の元クラスメイトがバタバタと動いたのが気になったが、とりあえず放置した。
「ユウ様、よき時間を」
ロウ賢者はそう言いながら優を見送ると、ニヤリと笑った。
読んで頂き、ありがとうございました。
次話を今日中に投下するかは今、悩んでいますが、明日の朝には確実に投下します。また読んで頂ければ嬉しいです。