第二十六話 クロザリル
ブクマありがとうございますっ!
ロボものと言えば巨大兵器ですよね!
優と尚子がハルシオンの元へ向かうと、ジーニアが彼らを出迎えた。
優達はアルカサス城までハルシオンとセレネースで移動してきたのだが、セレネースは明らかに悪目立ちするし、ハルシオンも似たり寄ったりなので、人に見られると騒動のタネになる可能性が高い。そのため、トワの提案でどちらの機体もジーニアが魔法で見えなくしていたのだ。
「ユウ様、何かあったんですか?」
「ちょっとな。心配いらないよ」
そう声をかけて優がハルシオンに乗り込むと、コックピットには既にトワが乗り込んでいた。
「トワ、実は」
だが、優の唇はトワのキスで塞がれ、それ以上何も言えなくなった。
「状況は把握しました。ショウコに対する非礼、万死に値します」
優は怒りで瞳を燃やすトワに一つ頷くと、ハルシオンを起動した。
「ほう、逃げなかったことだけは褒めてやる」
優がアルカサス城の上空に上がって暫くすると、ポルトロンとヒルダのものと思しき高速詠唱機が姿を見せた。
(リスパとロナセンか。だけど、どちらも見たことがない固有武装だな)
ポルトロンの声がしたリスパは機体よりも長い錫杖のようなものを持ち、頭巾のようなものを被り、背中には大きなバックアップを背負っている。そして、ロナセンの方も同じような大きなバックアップにクローネが使っていたものよりも小型の盾と片手剣、それに脚にはブーツのようなものをつけている。
「お前らにどう思われようと知ったことじゃないが……逃げる理由も必要もないな」
「なにぃ?」
「俺がこれから考えるのは勝ち方だけだ。信じられないくらい格下なんだよ、お前らは!」
「よくもわたくしを格下呼ばわりしましたわねっ!」
「こ、この不遇民風情がっ! 言わせておけばっ!」
ポルトロンのリスパは手にした錫杖を振るう。すると、先端の輪に繋がっていた輪、遊環が雷を纏いながらハルシオンに向かって射出される。
「ああ、こういう攻撃ね……」
リスパが放った輪は不規則な軌道を描いて飛ぶため、回避が難しい。が、既に【感覚機能強化】をかけている優にとってはそれも無意味。優は難なく降魔の剣でそれらを叩き落とした。
「だから見えてるって」
直後、ヒルダのロナセンがハルシオンの背後から振るった剣を優は片手で掴み、奪い取る。勇には最初から忍び寄るロナセンの動きが見えていたのだ。
「下らないな……こんな力しかないくせに俺に喧嘩を売ったのか?」
「はあ!?」
「あ、悪い。これが全力なのか。俺に喧嘩を売るくらいだからもっと強いのかと思ってたんだ」
「一撃防いだくらいでっ!」
ヒルダがそう叫ぶと同時に、ロナセンのブーツ状の固有武装からロケットのような火が幾つも噴射された。大小様々なそれが不思議な動きをさせるせいで、ロナセンが何体もいるように見える。
「さらにっ!」
ロナセンがハルシオンの周りを飛ぶ。すると、ハルシオンは十数機のロナセンに取り囲まれてしまった。
「不規則な動きで残像を生む……アニメでしかみたことないな。流石異世界だ」
「後悔しても遅いぞ!」
声と共に何もなかったはずの空間から先ほどのリスパが放った雷を帯びた輪がハルシオン目がけて飛んで来た。
(リスパが被っていた頭巾みたいなものは姿を隠す能力がある固有武装なのか)
勇がそんなことを考えていると周りを囲むロナセンが一斉に剣を上げた。
「前後左右からわたくしの剣、上下からポルトロン様の【多重雷環】、逃げ場はないですわよ!」
ロナセンの集団はハルシオンに向けて突進する。恐らくポルトロンの雷環の着弾に合わせたタイミングで攻撃するつもりなのだろう。
(確かにタイミングはぴったりみたいだけど)
残念ながら、ロナセンの動きはハルシオンのレーダーを騙すことは出来なかった。優にはロナセンがどこにいるのかが分かっているため、先ほどと同じように迎撃することは簡単だ。
(だけど、それで俺の完全勝利と言えるのか?)
優は目の前の二人が尚子に浴びせた言葉を思い出す。ポルトロンとヒルダは自分の大切な人に酷い言葉を浴びせた人間だ。これ以上ないくらい徹底的に叩きのめさないと気が済まない。
(こいつらが自分達の無力さを感じる勝ち方……)
その時、優の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「トワ、降魔の剣を第二形態に」
「了解しました」
トワはその言葉で優の考えが分かったらしく、ニッコリと笑顔を見せた。
「降魔の剣、第二形態、『紅朱雀』を展開」
※※
(勝った!)
ロナセンのコックピットでヒルダは舌なめずりをした。
(あの男にはわたくしの位置は分からない! わたくしの剣を躱すことも出来ない! したがって、ただただ無抵抗に倒れるのみ!)
この高速詠唱機を破壊し、自分がこの生意気な新子爵を踏みつけるところを見れば、あの女達も泣いて許しを請うだろう。そして、その瞬間、彼女達のあの美しさは消える。自分の美は再び唯一無二のものとなるのだ。
(あなた達の泣き顔、今から楽しみだわ)
ヒルダの顔が愉悦に歪む。だが、数秒後、ヒルダの想像は全て打ち砕かれることになる。
※※
(吾輩は孤高。故にお前には吾輩の姿が見えないのだ!)
自分の姿を消す固有武装、死神の影法師は自分にぴったりだとポルトロンは感じていた。
(弱者は卑怯だとか、大きな戦果がないとかやっかみを言う。が、吾輩はこの戦法で帝国三大騎士にまで登り詰めたのだ)
姿を隠して死角から攻撃するポルトロンはどんな戦いでも傷つかなかった。姿が見えなければ、相手は何もしようがない。敵が自分に触れることさえ出来ないことは、ポルトロンの自尊心を大きく満足させた。
(吾輩の強さ、偉大さ、それを身を持って教えてやる!)
数秒後、彼は自らの弱さと卑小さを嫌というほど思いしらされることになる。
※※
「降魔の剣、第二形態、『紅朱雀』を展開」
トワがそう言うと共に降魔の剣の刀身に羽根を広げた朱雀の姿が現れる。
「行くぞっ!」
そう言う優の虹彩は鳥のものに変化している。今、優の目には【感覚機能強化】を二重にかけた時以上のものが見えているのだ。
「【飛光刃】!」
降魔の剣の刀身に現れた朱雀の羽が一斉に光りだす。その光は優の言葉と共に白い閃光となって優の敵へと襲いかかった!
「「!!!」」
ポルトロンとヒルダが何か言葉を発する間もなく、降魔の剣が発した閃光が全てを貫く。ロナセンの残像、【多重雷環】、ロナセンとリスパが身に付けていた全ての武器、それら全ては白光に貫かれ、破壊された。
「力の差が分かったか? じゃあ、止めを刺してこの国ともおさらばだ!」
「「!!!」」
姿を隠そうが、増やそうが、優の前では全てが無意味なのだとポルトロンとヒルダは理解した。何故なら優はそれら全てを破壊することが出来るのだから。そして、その気になれば、優は今の攻撃で自分達に止めを指すことも出来たのだと。
「待て、ウェルズ卿!」
優の攻撃を止めたのは皇帝だ。何らかの魔法を使っているのか、優にはまるで皇帝が間近にいるかのようにはっきりと声が聞こえた。
「優でいいよ。俺はもうお前らに愛想が尽きた」
「一体どうする気だ!」
「どうってなあ……とりあえずもうお前らの言うことは聞かない」
「戦争には協力しないということか!?」
「お前らが勝手に始めた戦いだろ? もともと俺を頼るのが筋違いなんだよ」
「ならば仕方ない」
何かがゆっくりとその体を持ち上げる。それはアルカサス城を囲うようにとぐろを巻いた蛇のような姿をしていた。
「ファルス帝国最後にして最強の機体、第零世代型高速詠唱機クロザリルで──」
「デカっ! これも高速詠唱機か?」
「話を聞け!」
自分の話を遮る優に皇帝は激怒するが、優はどこ吹く風だ。
「そう言えば、エンゲージゾーンに転移してなかったけど、流石に今からでもしておいた方がいいか」
優が機体を転移させていなかったのは、アルカサス城が多少損傷するくらいは構わないと思っていたからだ。が、目の前の敵の大きさを考えると、“多少”では済まなくなる可能性が高い。
「心配するな。とっておきの場所へ案内してやる!」
皇帝がそう言うと同時にクロザリルがエンゲージゾーンの展開を開始した。
「マスター、行きますか?」
トワがそう聞いたのは、優はこういう場面では毎回相手の土俵で戦おうとするからだ。
「勿論だ、トワ。せっかく招待してくれるんだ。どんな場所か見てみないとな」
「了解です、マスター!」
クロザリルの展開したエンゲージゾーンに入って最初に優の目に入ったものは城壁。そして、その後ろからクロザリルがハルシオンをのぞきこんでいた。
「どうだ、驚いたか?」
山のようにそびえ立つ城壁につけられている大小様々な砲台が一斉にハルシオンに照準を合わせる。
「ああ。ここまで自分にだけ有利なエンゲージゾーンを用意した奴はあんたが初めてだ。ある意味感心するよ」
エンゲージゾーンは元々周囲に被害を出さないためのもの。したがって、本来互いにとって有利不利がない環境であるべきなのだ。とは言っても戦いなのだから、結局なるべく自分が有利な環境を用意するのだが、ものには限度というものがある。
「何て言葉遣いだ! 陛下の御前だぞ!」
ポルトロンのリスパが城壁の後ろから姿を見せる。その手には皇帝から渡されたのか、さっきまでとは違う固有武装がある。
「いや、もうそう言うのはやめたから」
「やめた? それはどういうことですの!?」
ヒルダのロナセンが指をハルシオンに突きつける。ちなみにロナセンもまた先ほどとは違う固有武装を持っている。
「いや、例えばウェルズ地帯はファルス帝国から独立!みたいな」
「「「独立っ!」」」
三人の声が裏返る。
「よく分かったよ、ウェルズ卿。つまり、そなたは儂を舐めておるのだな」
皇帝は怒りで声を震わせた。が、優はどこ吹く風といった調子だ。
「や、それはどうだろう? 案外舐めているのはそっちかもよ」
「やかましいわ!」
それと同時に城壁の砲台が火を吹き、それに少し遅れてリスパとロナセンからも攻撃が放たれた。
「まあ、無駄だけどな!」
降魔の剣の朱雀が再び翼を広げる。すると、さっきの数倍の閃光が辺りに放たれた。
「あれ、終わったか?」
ハルシオンの放った白い閃光は砲台や砲台、リスパとロナセン、クロザリルを貫いていた。特にクロザリルはその巨体のせいで十や二十ではきかない数の攻撃を食らっている。誰がどう見ても行動不能だ。
「終わったと思うか?」
だが、驚くべきことに瓦礫と化したクロザリルの中から皇帝の声がした!
読んでいただきありがとうございました!
次回でいよいよ最終回です! 最後まで飛ばしていきます!




