第二十一話 決闘
またまたポイントを頂いてしまいました!
いつもありがとうございますっ!
「これは……」
敵の展開したエンゲージゾーンは空。そのあちこちに浮島のように浮遊した地面があるだけで、上にも下にもいわゆる“大地”と呼べるようなものはない。
「つまり、空中戦がしたいって訳か」
「その通り!」
優の目の前にいるレンドルミンのコックピットの中でロッソは機嫌良さそうにそう答えた。
「じゃあ、いつでもいいぜ。来いよ!」
優が挑発するとレンドルミンは変形し、ハルシオンへと突っ込んだ。その矢のようなスピードは優にとって未体験のものだったが、何より凄かったのがその加速だ。ものの数秒で最高速度に到達するレンドルミンの動きは反応することは勿論、目で捉えることさえ不可能な代物だ。
「ぐっ!」
が、攻撃を受けたのはやはりレンドルミンだ。【感覚機能強化】を使った優の動体視力とハルシオンのスピードがあれば捉えられないものなどない。
「まさか、飛行形態のレンドルミンの突進を見切るなんてな」
「どうした、これで終わりか?」
「いやいや、今、マジで褒めてるところだぜ? もうちょっとないのか。こう……“お前のスピードもなかなかだぜ”みたいな熱いセリフがさ」
「何で敵同士でそんな無駄な会話をしなきゃ行けないんだ?」
「ロマンだよ。意味を見出せない決闘なんて空しいだけだろ?」
「下らない」
優は降魔の剣を呼び出し、その切っ先をロッソに突きつける。それを見たロッソはため息をついた。
「せっかちな奴だ。仕方ない、やるか!」
レンドルミンは人型に戻ると、両腰に下げていた剣を抜く。完成した固有武装であることを示す刻印が鍔についているのを見て、優は不敵な笑みを浮かべた。
「それがお前のとっておきか」
「そうだ。俺の最強の固有武装、虚空剣だ」
「待ってたぜ。それを壊してこそ、やり返したって言える」
「……意外だな。この見てくれに文句を言ってくるかと思ったのだが」
レンドルミンが左右に握る剣の刀身にはあちらこちらに大小様々な穴が空いており、お世辞にも格好いいとは言えない。
「見てくれだけでギャーギャー言う奴は嫌いだ。最もそれが大した力を持っていなかったら、その時は改めて文句を言うけどな」
「なかなか言うな、ユウ。まあ、その点については心配はいらないぜっ!」
レンドルミンが突進しながら虚空剣を振るう。それはまるで疾風のような速さと切れ味でハルシオンに迫るが、優にはその軌跡が見えている。紙一重でかわしながら攻撃しようと降魔の剣を振るう。が……
「何っ!」
なんと、攻撃を受けたのは優の方だった。レンドルミンの動きも虚空剣の軌跡も見切っているにも関わらず、である。
「俺の攻撃を見切ったつもりだったか? これが俺の本気のスピードだっ!」
再びレンドルミンが虚空剣を振るうと予想外……というよりあり得ない場所からハルシオンへ攻撃が放たれる。
(俺には見えていない速度で移動して攻撃している? 俺が見ているのは残像だとでも言うのか!?)
一瞬そんな考えが優の脳裏を過ぎるが、彼は即座にそんなあり得ない仮説を却下した。
(いや、最初に飛行形態で突進してきたときのスピードがあいつの最速だ。この攻撃はスピード以外のネタがあるはずだ)
ハルシオンに防御体勢を取らせながら、優はレンドルミンの握る虚空剣をにらむ。
「マスター、虚空剣の能力については既に分析済みです。確認されますか?」
「いや、今はいい」
答えに飛びつきたい気持ちがない訳では無いが、虚空剣の能力がロッソの切り札である以上、優はその答えを自分で見つけ、裏をかかないと勝利だと言えない気がしたのだ。
「了解しました」
勿論トワにはそうした優の気持ちが伝わっている。そのため、トワは優が虚空剣の能力について何らかの答えを見出すまでいつまでも待つつもりだ。しかし、幸いにもそれからすぐに優は閃いた。
「そうか! 分かったぞ、トワ!」
※※
「流石に打つ手なしか」
防御体勢をとるハルシオンを見ながらロッソはコックピットでそう呟いた。
「高速詠唱機の操作については俺と互角。だが、戦闘技術は向こうが上だし、機体の性能は笑えるくらい向こうが上、か」
ロッソは言動から受ける軽薄な印象とは裏腹に冷静な判断力を持つランナーだ。したがって、この短い戦闘だけで互いの力量差を理解していた。
「だけど、それでも俺の勝ち。それだけの力が俺の固有武装、虚空剣にはある」
そろそろ勝負を決めようと虚空剣の出力を上げたその時、突然ハルシオンは防御体勢を崩し、無防備に手足をダラリとさせた。
「なんだ、諦めたのか?」
ロッソはその豊富な戦闘経験から強気な奴ほど窮地に弱いということを知っていた。
「まあ、それでもあんたは良くやったよ、ユウ。命くらいは助けてやるよ」
ロッソは自分のマナを注げるだけ注ぎ、虚空剣の出力を引き上げていく。今までの攻撃はハルシオンに効いていないようだが、最大出力の攻撃を急所に叩きこめば話は別。そして、ロッソは既にハルシオンの急所を見抜いていた。
「ガードの厚い左胸。そこにいるんだろ、ユウ!」
ロッソは虚空剣を振り抜いた!
※※
ハルシオンのコックピットにある計器がレンドルミンにマナが満ちるの感知し、警告音を出す。それを聞きながら、優は目を閉じた。
(どうせ見えないから目は閉じた方がいい)
同時に優は体の力を抜く。勝負を決めるための敵の全力の攻撃を前に優は不思議なほど冷静だった。
レンドルミンが虚空剣をハルシオンに向かって突進する。その時、優が待っていた音がした!
(ここだっ!)
優はハルシオンに回避行動を取らせる。まるで何かが見えているような行動にロッソは驚きを隠せなかった。
「ユウ、まさか、気づいたのか!」
「ああ。お前のレンドルミンの属性は風。そして虚空剣は物理攻撃と共に風の斬撃、カマイタチのようなもので攻撃する固有武装だな!」
見える斬撃と見えない斬撃の双方を一度に繰り出す。それが虚空剣の力だ。
「そうか、防御体勢を取るのを辞めたのは諦めたからじゃなく、虚空剣の風切り音に集中するためか!」
「そうだ」
会話をしながらもロッソは攻撃を止めない。見える攻撃と見えない攻撃、その二つを回避することは簡単なことではない。が、コツを摑み、【感覚機能強化】で感覚が研ぎ澄まされている優にとってはどうということもなかった。
「くっ!」
降魔の剣がレンドルミンの右手にあった虚空剣を叩き折る!
「まだ一本あるぞ!」
ロッソは負けじと虚空剣を振るう。だが、ハルシオンはそれを易々とかわし、降魔の剣でレンドルミンを狙う。
「!!!」
真っ直ぐ急所を狙う鋭い斬撃にロッソは死を覚悟する。が、優の降魔の剣はレンドルミンの喉元で止まった。
「まいった。俺の負けだ」
ロッソの口から自然とその言葉が漏れる。優が降魔の剣を引くと同時に彼らは元の戦場へと戻った。
「俺は捕虜か。まあ、仕方ないな。何処にでも連れていけ」
「やだね」
そう言うと、優はロッソに背を向けてた。
「は? お前何してるんだ?」
「帰るんだよ。見て分かるだろ?」
「いや何で」
ロッソは優の考えが分からず、混乱した。決闘で自分に勝利したにも関わらず、命を取らないどころか捕虜にもせずに帰る……一体何をしたいのか分からない。
「俺はお前に詠唱従機を一機壊され、俺はお前の虚空剣を一本たたき折った」
「ああ、そうだ」
ロッソは頷いた。これは単なる事実なので理解できる。
「つまり、俺はやられたことをやり返した訳だ」
「まあ、そうだな」
ここになると何故そんな子どもじみた理屈が出てくるのか、少し首をかしげてしまうが、まあまだ許容範囲内だ。しかし、次の言葉で優の思考はロッソの理解の外に飛んでいく。
「だから気がすんだ。もうすることないし、帰るわ」
何でだよ!
とロッソは内心突っ込んだ。この上なく有利な立場を得ながら、それをあっさりと捨ててしまう優が信じられなかったのだ。
「ま、待て!」
ロッソは思わず今にも飛び立とうとする優を引き止めた。
「俺はこの戦いの総指揮官だ」
「そうなのか」
「俺はお前に負けた。だから今回は軍を引く、それでいいか?」
何故ロッソがそんなことを言いだしたのか、それは圧倒的な力を持ちながら自分の利益に無頓着な(に見える)優が彼には非常に器の大きな人間に見えたからだ。
勿論、これはただの誤解だ。死を覚悟した直後に思いがけない慈悲を与えられたという特殊な環境に、ロッソの思いこみの激しさが合わさって生み出された有り得ない結論だ。
だが、優から返って来たのはさらに非常識な言葉だった。
「いや、いいよ。ここでの戦いはファルス帝国の負けだ」
何て器の広さ!!!
ロッソの思考が更にねじれていく。もはやロッソには優が高潔な精神を持つ伝説の英雄に見えて来てしまう。
「それは行けません。古来より指揮官同士の決闘で戦いの勝敗をが決まるのが習わし。末席と言えど騎士の名を抱く私がそれに反することは出来ませぬ」
妙なスイッチが入ったロッソは口調さえおかしくなる。
「分かった。じゃあ、勝手にしろ」
優がそう言ったのは面倒くさくなったからだ。が、そうとは知らないロッソはまるで自分が優に騎士として認められたような気になり、一気にテンションを上げた。
「全軍、全ての戦闘を停止っ!」
ロッソの声は魔法でこの場にいるリンガイア共和国の全軍の耳に届く。
「俺はファルス帝国の総大将、ユウ殿に敗れた。従って、この戦いは我々の負けだ。総員、撤退!」
司令官の突然の命令に戸惑いながらもリンガイア共和国の高速詠唱機は次々と退去していく。程なく戦場に残ったのは優と透を始めとした元クラスメイトだけになった。
「何なんだ、一体」
あきれた顔をしている優とは対照的に、透は喜びを爆発させた。
「勝った! 勝ったぞ!」
「は?」
優は意味が分からずそう言ったが、今回ばかりは透の方が正しい。戦っていた敵が引いたのだ。理由はともかく自分達の勝ちだと認識するのが当然だ。
「敵は逃げ出した! 俺達の勝利だ!」
「いや、あいつらは何か勘違いしただけだから」
優は透に事情を説明しようとしたその時、何の前触れもなく地面に亀裂が走り、足元が崩れ始めた!
読んで頂きありがとうございました!
次回は昼の十二時に更新します!




