第二十話 ふがいない味方と手強い敵しかいない戦場
またまたブクマありがとうございますっ!
最後まで気を緩めずに行きたいと思います!
ファルス帝国の攻撃は完全な奇襲だったにも関わらず、当初の戦局は互角。しかも、時間が経つにつれ、戦況はファルス帝国にとって徐々に悪化していった。
「優、烈がやられた!」
「いちいち報告すんな。俺の知ったことか」
「仕方ないだろ、リーダーなんだから!」
そう言いながらも優は残っている仲間の一部に工藤烈を戦場から遠ざけるように指示を出した。
(攻撃の勢いが落ちれば押し切られる。烈が倒れたからと言ってこちらの火力を落とすわけにはいかないな)
つまり、その分優の負担が増えるということだ。だから、優には細かなことを把握する余裕はないし、透も優の暴言にも形ばかりの抗議しかしない。
「はああ……こいつらこんなに弱かったとはな」
優はコックピットでため息をついた。
「性能差以前の問題です。マスター抜きでは数秒で戦線を突破されるでしょう」
「だよな」
実は仁や透を始めとしたの元クラスメイト達は優に負けた後もこれといった努力はせず、自分の領地から得られる収入で贅沢をするばかり。そんな生活が続いたせいで彼らのマナは濁ってしまったのだ。
「しかし、相手はなかなか強いな。戦っても負けはしないと思うけど、」
「敵の主力は第五世代型高速詠唱機、ジェイゾロフトです。マスターのおっしゃる通り、リンガイア共和国の高速詠唱機はファルス帝国のものより強力です。恐らく詠唱機創造陣の性能が違うのでしょう」
優やトワは知らないことだが、ファルス帝国がリンガイア共和国に戦争をしかけたのはリンガイア共和国が詠唱機創造陣の性能を飛躍的に向上させる技術を確立したためだった。
詠唱機創造陣の性能差はそのまま高速詠唱機の性能差になり、引いては軍事力の差になる。軍事力に差をつけられないうちに戦おうと言うのが皇帝の思惑だったのだが、既にかなりの差がついてしまっているのが現状だ。
「退却した方が良いと思うけど、駄目なんだよな」
仁から渡された書類には命令前に退却することを禁じる旨が記載されている。だが、優が持ち場を放棄していないのはそれとはあまり関係がなく、ただ単に逃げる必要性を感じていないだけだ。
(元々新しい固有武装を試しに来たんだ。それをしないうちに帰るわけにも行かないしな)
ならばさっさと使えばいいのだが、そうしないのは優がこの戦いにあまり乗り気ではないからだ。だが、いかにも敗走しそうな味方を見ているとそんなことばかり言ってもいられない。
「あまり気は進まないけど、新しい固有武装を使うか。元々そのために来たんだしな」
「了解です。詠唱従機、展開します」
トワの声と共にハルシオンの背中についていた円筒が四つに分離し、変形した。
「防御は一機でいい。二機で弾幕を張って、残る一機でかく乱しよう」
「了解です、マスター」
トワがそう言うが早いか、詠唱従機から敵機に向かって無数の白光の弾丸が降り注ぐ。それらを受けたリンガイア共和国の高速詠唱機が一発食らう毎に膝をつき、地に倒れ、爆発する。瞬く間に混乱する敵軍だったが、彼らはすぐに更なるパニックに陥った。
「何だ? 何が起こった?」
突如同士討ちを始めた敵を見て、透を始めとした元クラスメイト達が浮き足立つ。が、優はそんな彼らを一喝した。
「騒ぐな! 今のうちに態勢を立て直せ。これは命令だ!」
優の言葉で透達は我に返り、自分に出来ることを始める。が、突然敵は混乱から立ち直り、優達への攻撃を再開した。
「思ったより混乱が収まるのが早いな」
コックピットの中で優がそう呟くとトワがすかさず戦況の解説を行った。
「他の戦線が崩れ、こちらに敵が集中しています。今まで戦っていた敵が持ち直したのではなく、よそから新たな敵が現れたようです」
「じゃあ、負け戦だな。撤退の指示は?」
「ありません。命令書の指示は変わっていません」
実は優が受け取った書類はこの戦いの総指揮官からの指示が映し出される魔道具になっている。しかし、そんなことは今はどうでもいい話だ。
「マスター、そろそろかく乱のために送り込んだ詠唱従機が限界です」
「戻してくれ。攻撃に回している詠唱従機の片方を援護に回しても構わない。後、バリアを展開してくれ」
「了解しました」
トワがそう言うと同時にハルシオンの傍らで待機していた詠唱従機が前に出て、白い光で出来た壁を生み出す。そして、敵に向けて白い弾丸を打ちこんでいた詠唱従機のうちの一機が敵に向けて突進した。
「先行していた詠唱従機に追いつきました」
トワがそう言った時には既に敵の数がかなり増えており、ハルシオンの前の光の壁に敵の攻撃が当たる場面も出始めていた。
「よし、両機とも帰還。しかし、どうするかな……」
もう味方の姿はほとんど映っていないハルシオンのレーダーを見ながら優はそう呟いた。
※※
「これでは負け戦ではないかっ!」
戦場から遠く離れたアルカサス城でこの戦いの指揮官であるメッチャ将軍はそう言って机を叩く。
「この戦いは帝国による反撃の第一波。勝たねばいかん戦いだそ!」
およそ状況が見えているとは思えない発言だ。机の上に映し出された戦況は何処を見ても敵の存在を示す赤い点ばかり。味方を示す青い点は十機程度しか残っていない。
「しかし味方のほとんどは既に敗走するか、撃破されています。この状況で何を──っ!」
メッチャは自分の命令に口答えした女性士官を殴りつけ、黙らせた。メッチャが知りたいのはこの状況をひっくり返す方法であり、それ以外のことはどうでもいいのだ。
「ロウ賢者からの使命もあったというのにこのままでは俺の責任問題になるっ!」
そう叫んだ瞬間、メッチャは素晴らしいアイデアを思いついた。この戦いの勝利とロウ賢者からの頼まれごとの達成という二つの成果を得ることの出来る起死回生の一手だ。
「俺は天才かもしれんな」
そう言いながらメッチャが指示をとばす。部下はその内容の酷さに青ざめながらも作業に入った。
※※
「優、これからどうするんだ」
烈を下がらせた後、残った元クラスメイト達は優の周りに集まった。
「指示はないが下がるしかないか。俺の詠唱従機が戻ったら撤退だ」
「みんな、撤退だ!」
戦況の悪さに焦っていた透は誤った指示を出す。すると、既に浮き足立っていた皆はわれ先にと逃げ出した。
「馬鹿、そんな逃げ方をしたら!」
優が言うが早いから敵の攻撃が勢いを増す。優がそんな情けない姿にため息をついているうちに二機の詠唱従機がハルシオンの元へ戻ってきた。
「よし、四機ともハルシオンに戻してくれ」
「了解です、マスター!」
だが、詠唱従機がハルシオンに戻る直前、四機のうちの一機が突然爆発した!
「何だ!」
「狙撃されました。敵機の姿を表示します」
優の目の前には大型のバスターライフルを構えた赤い機体が映し出された。それは、バスターライフルを投げ捨てると、真っ直ぐ優の元へと向かってくる。
「第七世代型高速詠唱機、レンドルミンです」
「へえ……」
見たことのないシルエットに優が見入っていると、レンドルミンは突然変形を始め、まるで戦闘機のような形に変わった。
「接近してきます。迎撃しますか?」
変形してからのレンドルミンのスピードは段違い。間違いなく今までにない強敵だが、優はトワに合図をするまで攻撃しないように指示をした。
「何故こうもあっさりと接近させてくれるんだ? ファルス帝国の兄ちゃんよ」
レンドルミンはハルシオンに近づくと再び変形して人型に戻るなり、そう優に問う。すると、優は口元に笑みを浮かべながらレンドルミンのパイロットに答えた。
「わざわざ俺のところに来てくれるのに何故邪魔をしなきゃならないんだ? 俺の詠唱従機を壊したんだ、仕返しはさせて貰うぜ」
「アッハッハッ! 自信たっぷりな兄ちゃんだな。気に入ったよ」
「残念だが、俺はうるさい男は嫌いだ」
「いいねえ。その自信、コナゴナにしたくなってきたよ」
「初めて意見があったな。俺もだよ」
不敵な笑みを浮かべながら優がそう言うと、レンドルミンのパイロットは再び大声で笑った。
「俺の名はロッソ。決闘を申し込むぜ。えっと、お前は」
「俺の名は優だ」
「ユウか。じゃあ、ユウ! 俺と決闘だ!」
「望むところだ」
「おい、お前ら! 戦闘は中止だ」
ロッソが部下にそう命じると共にレンドルミンはエンゲージゾーンを展開した。
読んで頂いてありがとうございました!
次回は朝の七時に更新します。また、読んで頂ければ嬉しいです。




