第十九話 大規模反攻作戦とやら
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「大規模反攻作戦、だと?」
優は屋敷を訪れたドレックとクローネ、リアの話を聞いて首をかしげた。
「我がファルス帝国は今までリンガイア共和国に連敗に連敗を重ねていた。その理由の一つが、先日優殿が下した『リンガイアの凍姫』なのだ。故にこの機会に一気に攻勢に出れば劣勢を覆せる!」
「なるほど。敵が弱った今なら勝てるってことか」
優はあまり興味なさそうにそう言った。優がファルス帝国によい印象を持っていないこともあるのだが、今までのお返しとばかりに弱った敵に襲いかかるというのは彼の好みではないのだ。
(やり返すならもっとやり方があるだろうに)
優にとって小手先での勝利では相手に復讐したことにならないのだ。
「で、俺にも参加しろということか」
優は手元にある羊皮紙に目を落とした。ドレックが持ってきたそれには皇帝のものであることを示す印が押されている。
「まさか。ただ、優殿も参加して貰えれば……といったところでしょう」
そう言ったのはクローネの後ろで控えていたリアだ。三人の中でリアだけは優があまり乗り気でないことを感じていた。
「優殿の武名を上げる絶好の機会ですぞ!」
優はドレックが興奮気味にそう言う姿に苦笑しながらトワの方を向いた。
「トワはどう思う?」
「ドレック殿の協力で固有武装の生産、高速詠唱機の整備に必要な設備が整っています。本来ならセレネースの補修を優先したいところですが……」
そこまで言われると優にはトワの言わんとすることが理解出来た。
「なるほど。新しい固有武装を試す機会になるということか」
「はい。ですが、どうしてもという訳ではありません。マスターのお気持ち次第で構いません」
つまり、トワは優の思いにそって動くということだ。
(セレネースの補修か新しい固有武装の実験、どちらを選ぶかか)
優は少し考えた後、結論を出した。
※※
「ここが工房?」
「はい、固有武装の生産や高速詠唱機の補修を行う設備です」
トワは工房に運び込まれるセレネースを見ている優と尚子にそう説明した。
「急げばマスターが出撃するまでに頭部の補修が終わります。固有武装の再生産までは難しいですが」
「無理しないで。とりあえず機体が動けば留守番をするには十分だから」
「お気遣い感謝します、ショウコ」
そう言うと、トワはニコッと笑った。どうも優の知らないところでトワとショウコは打ち解けたらしく、互いの呼び方も変化している。
「ドレック殿が派遣してくれた付与魔術師も真面目に働いてくれていますから大丈夫です」
そう言うと、トワは工房の中で設備を触っている魔術師達を指す。彼らは優と継続的な関わりを望むドレックの意向で派遣されているのだ。
「獣人達にもあの仕事が出来たらよかったのにな」
優は工房の周囲を警備する獣人達を見ながらそう言った。実は当初、優はドレックの付与魔術師達を獣人達の教育係とするつもりだったのだ。
「確かにそうですが、基本的に獣人にはマナの操作は不向きです。彼らにはもっと適した仕事があります」
「リンガイア共和国でも獣人の魔法師は見たことはなかった。それにしても優くんは何でそんなことを?」
「別に。俺はここの領主だからな」
優がそう言って誤魔化そうとするが、トワはそんな彼の思いを知ってか知らずか尚子に説明を始めた。
「獣人達が出来る仕事を増やしたいとお考えなのです。マスターはファルス帝国での獣人の非人道的な扱いを正すことを望んでおられます」
「ファルス帝国での獣人の扱いの酷さは私も聞いてる……優くん、優しいのね」
「そんなんじゃないって」
自分の考えに感激する尚子が向ける視線がむず痒く、そっぽを向く優。だが、しばらくすると、優は何かに気づいたようにトワの方を向いた。
「そう言えば、さっき“基本的に獣人にはマナの操作は不向き”って言ってたけど、例外もあるってことか?」
「その通りです、マスター。獣人の中にはマナを感じ取る感覚が発達した種族もいます。しかし、そうした種は他の獣人と比べ身体能力が低いのでひっそりと隠れ住んでいることが多いです」
「そうか……」
獣人の社会的な地位を上げるのも中々難しい。優はトワに促され、次に説明を受ける予定になっている採掘場へと向かった。
※※
キースの父親が仕切っている採掘場も上手くいっていた。廃材である重鋼や赤白金の産出も順調なため、オースも仲間と一緒に大張り切りで商売に取り組んでいる。そのおかげで、順調に収入が上がっており、財政を任せているシルクの父親からは収入が他の領地の三分の一程度にはなっていると報告をうけた。
「嬉しそうね、優くん」
「まだまだだけど」
夕食後、優と尚子はまったりとしていた。ちなみに屋敷の管理はキースとシルクの担当だ。管理と言っても掃除等は他の獣人の協力が得られるため、実際は優やトワから要望を聞いたりといったことがほとんどなのだが。
「明日の朝出発だよね」
「ああ」
不意に心配そうな声を出す尚子に優はいつも通りの調子で応える。それに力を得たのか、尚子は不意に優に顔を寄せ、すがるように懇願した。
「無事に帰って来てね」
「当たり前だ」
優は尚子の不安を払うように力強くそう言い切る。そんな自信に満ちた優を見て、尚子は少しほっとした表情を浮かべた。
「大丈夫だとは思うけど……リンガイア共和国はファルス帝国よりも強力な高速詠唱機が──」
優は尚子が言い終わる前に体を抱き寄せ、キスでその言葉を塞ぐ。突然の出来事に尚子は一瞬驚きで目を大きくするが、彼女はすぐに優に体を任せた。
「もう、いつも乱暴なんだから!」
そう口では文句は言いつつも、実は満更でもなかったらしく、尚子は顔を赤くしながらそっぽを向いた。
「心配するな。ハルシオンは最強だし、トワもいる」
「そうね……うん、そうよね」
まだ自分に言い聞かせるような部分はあるものの、もう尚子の瞳に不安の色はない。それを確認した優は少し改まって尚子に向き合った。
「それより俺は尚子の方が心配だ。セレネースの補修はまだ完璧じゃないし……」
「一応言っておくけど、私、優くん以外には負けたことないよ。これでも高位者なんだから」
「いや、尚子が弱いと思っているわけじゃないんだけどな」
優が鼻の頭をかきながらそう弁明すると、尚子は急に笑顔を浮かべた。
「ウソだよ。今のはからかっただけ。心配してくれて嬉しいよ。だから早く帰って来てね」
「ああ、分かった」
※※
次の日の朝、尚子や獣人達に見送られながら出発した優は戦場で思いがけない相手に遭遇した。
「げっ、優じゃねーか!」
そう言われて振り返ると、そこにはかつてのクラスメイトの一人、中村仁がいた。
「あ、高速詠唱機直ったんだな。おめでとう」
「馬鹿にしてんのか、優!」
「え?」
「お前が俺の高速詠唱機を壊したんだろうがっ!」
「そうだっけ?」
優にとって見れば既に終わった話だが、仁にとってはそうではない。優の言葉によって仁の怒りはヒートアップした。
「言っとくがな、単に修理したわけじゃない。高品質の重鋼と赤白金を使って強化してあるんだ。今度は負けないぞ」
そう言って仁は自分のリスパを指さした。仁の言う『強化』の影響なのか、優が見たときよりも機体は一回り大きくなっていた。
「喧嘩を売るなら買ってやるが、こっちの都合に合わせてくれよ。正直お前の優先順位は高くない」
「ナメやがって!」
仁は優の胸倉を掴もうと手を伸ばす。しかし、傍らにいたトワがそんな無礼を許すはずもない。優が気づいた時には仁はトワによって尻餅をつかされていた。
「くそっ、何をっ!」
「止めとけ、仁」
仁は悪態をつきながら立ち上がるが、少し離れたところでその様子を見ていた透が割って入り、彼を制止した。
「忘れたのか、俺達の部隊のリーダーが誰なのか」
「ぐっ!」
「そういや俺はどこで戦うのか聞いて来ないとな」
もはや二人に興味を無くした──実は最初からほとんど無かったのだが──優が踵を返そうとする。が、透はそんな優の背中から声をかけた。
「待てよ、優。お前の持ち場は俺が聞いている」
「は? 何でだ?」
透の思いがけない発言に優は思わず足を止めた。もはや何の関係もないはずの彼らが自分の行く場所を知っているというのが予想外だったのだ。
「今回、お前は俺達のリーダーだからだ。で、俺が副隊長」
「はあ?」
今度こそ状況は優の理解を超えた。
読んで頂いて、ありがとうございました。
次話は夕方六時に更新できたら……無理でも明日の朝には更新します。