第十五話 まさかの再会
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実は第十五話から第十七話までは当初から構想が固まっていました。
「り、領主様。これは?」
屋敷の応接間にはキース、シルクとその父親、さらにはオースがいる。ことの顛末を話すために優が呼んだのだが、問題はそこではない。問題なのは、獣人達の前に置かれた大量の金貨だった。
「この間の重鋼と赤白金は処分してしまったらしいんだ」
「それはそうでしょう。あれだけの品ですから、用途はいくらでもありますし、欲しがる者も多いでしょう」
オースは優にそう言いながらも混乱していた。優の話は全く当たり前の話なのだが、目の前の金貨との繋がりが分からないのだ。
「で、代わりに代金を貰ってきた」
「なる……ほど」
オースは何故自分が呼ばれたのかがどんどん分からなくなってきた。
「で、領主様。我々へ何かご用がおありなのでしょうか?」
首を傾げながらそう言ったのはキースの父親だ。そのハッキリとした物言いにオースは驚くが、この辺りは優との付き合っている期間が違うからだろう。
「話が長くてごめん。つまり……」
人間が獣人に謝った!
通常ならあり得ないその事態にオースは言葉を失うが、彼への衝撃はこれだけに留まらなかった。
「山分けしようと思って持ってきたんだ」
ここに至っては話がオースのキャパを完全に超えてしまった。しかし、この場にいる他の獣人は違う。そのことに、オースは更なる衝撃を味わうことになった。
「またですか、領主様。でも一番多く取って下さいよ」
そう言うと、キースの父が一部を優に返しながら金貨を受け取るのを見たオースは卒倒しそうになった。
「ほら、オース」
卒倒寸前になっているオースの元にシルクの父親が金貨の山を取り分けた。
「しかし、何に使おうかな」
金貨の山を前に優がぼやくと、トワがすかさず助言した。
「マスター、採掘施設の拡充に使いましょう。鉱物が効率的に採れれば重鋼なども大量に出てきます。余りものとはいえ、重鋼は売れるので収入になります。それを働いてくれた獣人達に還元しつつ、必要なものを作っていきましょう」
「なるほど。どんどん領地が豊かになって、獣人達の生活も楽になるな」
「人手がいるのでしたら領主様の元で働きたいという者に声をかけてきましょうか?」
「いいのか! それは嬉しいな」
まるで対等の立場で話す仲間を前にオースは徐々に理解した。新しい領主はいろんな意味で今までの常識が通用しない相手なのだと。
※※
「ではユウ殿、よろしくお願いします」
「いつでも来い!」
優がハルシオンのコックピットからそう答えると、クローネのロナセンが突進する。が、優は紙一重でそれを避ける。その結果、ロナセンはハルシオンに無防備な背中をさらしてしまった。
「これで俺の勝ちだ」
そう言うと、優はハルシオンの手刀をロナセンの首元に軽く触れさせた。
「参りました。まさかこうまで容易く見切られるとは……」
クローネは悔しそうにそう言うが、瞳は生き生きしている。そんなクローネの声を聞き、リアはあきれたようにため息をついた。
彼らがしているのは模擬試合だ。約束の金品を持って来たクローネはそれを優に渡した後、優との再戦を希望したのだ。
「じゃあ、今日はこの辺で…」
「いえ、まだまだ行けます。もう一本お願いします」
このように優にその気は全くないのだが、クローネが強く希望したため、断り切れないのだ。
(まさか日暮れまでこんなことを続ける気じゃないだろうな……)
優がコックピットでげっそりした顔をしたその時、ハルシオンとレーダーが反応した。
(なんだ?)
レーダーに反応した何かは高速で優達の方へ向かってくる。
(これはっ!)
優がその何かの正体を知った時、クローネも遅れてそれに気がついた。
「何かがこっちに!?」
「戻るぞ」
優がハルシオンのエンゲージゾーンを解いたのと、相手が優の元にやって来たのはほぼ同時だった。
「あ、あれはまさか……」
「知っているのか、クローネ?」
優達の目の前にいたのは見たこともない高速詠唱機だ。白を基調としたカラーリングと優美に広がったスカートが特徴の機体は今まで見た高速詠唱機とは見るからに違う。
「あれは明らかに我が国の高速詠唱機ではありません。もしかすると、最近戦場で暴れ回っているというリンガイア共和国の機体ではないでしょうか? 機体名は確かセレネース……」
「機体の名前以外に分かっていることは?」
「後は氷弾を放つ魔法を使うということくらいしか分かりません。何せ我が国の高速詠唱機は遭遇したが最後、あっという間に全滅させられているのです。その手並みから『リンガイアの凍姫』という二つ名までついています」
「『リンガイアの凍姫』ね」
優は宙に浮かんでいる高速詠唱機、セレネースを見上げた。近づいてきたスピードだけを見ても今まで戦ってきた機体と違うことは分かる。
「おい、そこのお前! 何の目的で俺の領地に入ってきた」
仮にも敵国の高速詠唱機が友好的な目的でやってくるはずがないとは思いながらも優はそう尋ねた。
が、セレネースからの返事は優の予想を超えたものだった。
「領地? ……って言うか、その声! 優くんなの?」
「は? その声は……」
セレネースから発せられたのは、元の世界での優の恋人、花村尚子の声だったのだ。
「何で優くんがアールディアに……」
「こっちの台詞だ!」
「それよりも何で高速詠唱機に」
「成り行きだよ。それより尚子さんは何で」
「何でってそれは……」
その瞬間、ロナセンがセレネースに向かって幾筋もの電光を放った。
「落ちろっ、『リンガイアの凍姫』!」
だが、クローネの叫びも空しくロナセンが放った電光はハルシオンに届くことなく消え失せた。
「遠距離が駄目ならこの技でっ!」
ロナセンが盾を前に構える。優との戦いで最後に見せた技、鋼玉突撃を使うつもりなのだろう。
「やめろ、クローネ!」
優がそう叫んだ瞬間、ロナセンは飛び出した! 砲弾のように飛ぶロナセンは細身のセレネースを簡単に押しつぶすかに見えた。が、結果は逆だ。ロナセンはセレネースが片手を添えただけで完全に勢いを殺され、そのまま地上に落下した。
「止めて! 私に構わないで!」
「何だと! 国境を侵したのは貴様だぞ!」
「違う、そうじゃないの!」
尚子の声に焦りが混じる。まるで何かに怯えるように。
(何か様子が変だ。だいたい俺は尚子さんがあんな風に叫ぶのだって見たことがない)
「お前の言い訳なんぞ知るか! 討たれた味方の恨み、今私が晴らすっ!」
クローネがそう言うと、ロナセンはバックアップについた砲塔からひときわ大きな電光を放つ。それは先ほど同様セレネースの目前で消失するが、攻撃はこれで終わりではなかった。
「貰ったっ!」
電光を打った瞬間にバックアップを外し、背後に移動したロナセンが腰に差していた剣を振るう。さっきの電光は囮だったのだ。
「やめて、これ以上はもう……嫌っ、嫌っ! いやぁぁぁっ!」
セレネースから尚子の苦しそうな声が響く。それと共に、機体からまるで陽炎のように赤黒い光が立ち上った。
「これは!? くっ!」
ロナセンの斬撃が赤黒い光に阻まれる。そして、セレネースのスカートから小さな何かが射出された。
「死ね」
尚子のものとは思えない冷たい声が辺りに響くと、ロナセンの周囲から無数の氷弾が襲いかかる。
「あああっ!」
氷弾はその一つ一つがロナセンの装甲を貫通し、深刻なダメージを与える。それが止んだ時、ロナセンには蜂の巣のように無数の穴が空いていた。
読んで頂いてありがとうございました。
次話は昼頃に投稿します。一つ目の山場なので勢いよく行きたいです!




