第十三話 勝利か圧勝か
お越し頂きありがとうございますっ!
早いものでそろそろ折り返しです。主人公はラストもぶれずに無茶をやっているので、良ければもう少しお付き合い下さい。
「ま、まだだ」
騎士が剣と盾を投げ捨ててから数歩下がると、少女が慌てて騎士に駆け寄り、回復魔法で傷を癒す。
「貴様、ランナーだろう?」
「ランナー?」
「ランナーとは高速詠唱機を持つもののことだ。勝手なことを言うが、続きは高速詠唱機を使いたい」
「いいぜ」
「私達が負けたら言うことを聞こう。だが、貴様が負ければ私のルールに従って貰う」
そう言うと、騎士と少女が両手を合わせ、詠唱を始める。優はトワと合流するとハルシオンを呼んだ。
「エンゲージゾーンを展開します」
ハルシオンに乗り込むとトワがそう宣言する。キース達や彼らの住居へに影響を出さないためだ。
エンゲージゾーンの展開が終わった時、優の目の前には見たことがない高速詠唱機が立っていた。
「我が国最新鋭の第四世代型高速詠唱機、ロナセン。流石に驚いたようだな」
「第四世代型? 新しく開発されたということか?」
というが早いか、今までのように優の頭の中にその答えが浮かんでくる。
(高速詠唱機は詠唱機創造陣から生み出されるが、詳しいメカニズムは分かっていない)
(どんな機体が生み出されるかはその搭乗者、ランナーと詠唱機創造陣の相性によって決まる)
(従って、少しでも性能のよい高速詠唱機が生み出されるように詠唱機創造陣を調整したり、ランナーとなる人を厳選したりする)
思ったよりも高速詠唱機の開発には苦労が多いらしい。
(なら、ハルシオンは俺とあの詠唱機創造陣の相性が良いから生まれたってことか)
優はハルシオンを生んだ直後に爆散した詠唱機創造陣を思い出した。
(ひょっとして惜しいものを失ったかも知れないが……今はこっちに集中だ)
優は思考を切り替える。目の前の高速詠唱機のカラーは黒。手にはさっき騎士が持っていたような大盾と剣を持っているほか、背中には翼と多数のエンジンのようなものがついたバックパックを背負っている。
(あれはひょっとして!?)
優の脳裏にあるロボットアニメに出て来る機体が連想される。それと同時に、ロナセンが動いた。
「早いっ!」
ロナセンが剣を構えると、その切っ先から雷光が発射される。今まで出会った中では最も強く、最も速い攻撃だ。
「けどっ!」
だが、ハルシオンの機動性なら躱すのはさほど難しくはない。優は次々に放たれる電光をかわしながらロナセンに近づき、拳を振るう。スピードで圧倒的に勝るハルシオンの放つパンチは相手の機体が反応出来ないはずだったのだが……
「くっ!」
ロナセンの頭部に拳が触れる瞬間、優は上空から自分に向けて放たれた電光を察知し、ハルシオンを後退させた。
「あれは……やっぱりそう言うことか」
見上げた先には優の世界でいう戦闘機が飛んでいた。それもロナセンが背負っていたバックパックにそっくりなやつだ。
「今のをかわすか……」
騎士が驚いた声を上げる。
「ドレック様を決闘で破ったという話、あながち噓ではないかもな」
「はあ?」
優の返事はまるで相手を小馬鹿にしたようなものになるが、それも仕方がないだろう。何せ騎士の主張は優にとってただの言いがかりなのだから。
「だが、清廉潔白なあの方の怒りを買う理由がお前にあったことには変わりがない!」
そして、再び騎士から出た言葉も言いがかり。優の怒りは高まるばかりだ。
「言っときけどな……俺はお前にやり返すために戦ってるんだ! お前がどう思おうと知ったことか!」
ロナセンとバックパックが再び合体するのを見てから優はハルシオンの指で指鉄砲を作る。隙をつくのは簡単だが、そんな勝ち方では優は納得出来なかった。
(オースをあんな目に合わせたんだ。こいつらのプライドをへし折らないと気が済まない!)
優は怒りと共に詠唱した!
「【灯火】!」
ハルシオンの指先から放たれた光がロナセンの盾に直撃する。リスパを一発で倒した魔法だが、ロナセンの盾はかなり頑丈らしく、すぐには破れない。
「おそらく防御に特化した固有武装でしょう。あと三十秒で貫通できます」
「三十秒か」
三十秒なんてあっという間だ。それで自慢の固有武装が破られたら、それはそれでショックだろうが……
(なんか違うな。それじゃ、物足りない)
優がコックピットの中でそう思った時、トワが優の方を向いた。
「マスター、まだ一部の機能しか使えませんが、ハルシオンの固有武装、降魔の剣が使用可能です」
「そうか! 流石トワだ!」
喜ぶ優にトワが最高の笑顔を見せる。思わず見とれそうになるのを必死に堪えながら、優は【灯火】の発動を中止した。
「凄まじい威力の魔法だが……ふふふ、耐えきったぞ! 今度はこちらの番だ!」
勝ち誇った騎士の声がロナセンから発せられるのを聞き、優はニヤリと笑みを浮かべた。
(そうだ。こういう顔した奴を真正面から叩きつぶさなきゃ、力を見せつけて倒さなきゃ、やり返したことにならないな!)
優が求めるのはただの勝利ではない。圧勝なのだ。
「いや、あれは攻撃魔法じゃないから幾らでも維持できるが」
「戯れ言を! 私を馬鹿にしているのか!」
「それはお前が判断しろ。言っただろ。お前がどう思ってるとか、どう考えているとかは関係ないんだよ」
そう言うと、優はハルシオンの右手を天にかざした。すると、トワのアイテムボックスからハルシオンの固有武装、降魔の剣が転送された。
「なっ……どんな魔法だ」
「さあな」
「それは固有武装か。だが、まだ刻印がないということは未完成だろう? そんなものをどうする気だ」
「うるさいな。いいからかかってこいよ。別にこのまま倒してもいいけど、後で“まだ奥の手があったのに~”とか言われると腹が立つ」
「こいつ……言わせておけばっ!」
騎士の怒りと共にロナセンから大量の蒸気が漏れる。そして、盾を前に突きだしたロナセンの表面には赤い幾何学模様が浮かび始めた。
「この技、発動に時間がかかるが、攻防一体となった私の最強技、鋼玉突撃だ。その機体、粉みじんにしてやる!」
「いいねえ。そう言うのを待ってたよ……だがな、粉みじんになるのはお前の機体だよ」
優がそう言うが早いか、ロナセンがハルシオンへと突進した。砲弾のようなスピードで迫るロナセンに触れるだけでも大ダメージは確実。ましてや直撃しようものなら確実に大破してしまうだろう。
(まあ、ハルシオン以外の機体ならな)
優は高速で飛んでくるロナセンに向かい、降魔の剣を構えた。
「馬鹿な! 気でも狂ったか!」
騎士がわめくのも無理はない。高速で迫る硬い盾に叩きつけられる剣がどうなるかなんて考えるまでもない。だが、そんな常識に反し、降魔の剣はロナセンの盾に触れるや否や、それを安々と切り裂いた!
「なっ!」
信じられない展開に騎士の顔が青ざめるが、身を引くことはおろか、減速することさえ出来ない。降魔の剣はそのままロナセンを斬り進み、真っ二つにした。
「ば、馬鹿な!」
それが騎士の最後のセリフとなった。爆発こそしなかったが、真っ二つになった機体では立つことさえままならない。ロナセンが地面に倒れると、ハルシオンの作ったエンゲージゾーンは消え、優達は元いた場所へと戻った。
「何だ、あの機体は!?」
「それよりあの剣だ! ロナセンを両断って何で出来てるんだよ」
戦闘の経過を見ていた騎士の部下が口々に騒ぎ立てる。実はハルシオンのエンゲージゾーンは騎士の部下やキース達獣人も観客として引き込む力があったのだ。理由は勿論、ドレックとの戦いの時のように人質を取られないようにするためだ。
「領主様、カッコイイ!」
いつの間にか、優の元へと駆けつけていたキースが歓声を上げる。キースにつられるようにして来ていた彼の父親とオースはそこまではっきりと感情を出しはしなかったが、同じ気持ちらしい。彼らは慌てて救護へ向かう騎士の部下を晴れやかな顔で眺めていた。
読んでいただきありがとうございました。
次話は夕方か明日の朝です。また、活動報告やツイートでお知らせしようと思っていますので、よろしくお願いします。