第十二話 あなたを傷つける奴は俺の敵だ
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次の日、シルクの父親は言っていた通り、知り合いを連れて来た。
「あ、あなたは」
シルクの父親が連れてきたのは優が屋敷で最初にあった獣人だったのだ。しかし、驚いたのは向こうも同じだった。
「まさか私のことを覚えて下さっていたとは。光栄です、領主様」
獣人はオースという名乗った。オースは主に鉱石を扱う行商人で、他国に出向くこともある知識人。その知識をかわれて領主とのやり取りを任されていたらしい。
ちなみに他国はファルス帝国ほどは獣人に対する差別がひどくないため、能力があれば何とか商売ができるようだ。
「とにかくお話を聞きましょう。私がお役に立てるかどうかはその後の話です」
改めて優の話を聞き、出された品を見ると、オースは先ほどよりもさらに驚いた。
「この純度なら誰でも喉から手が出るほど欲しがるでしょう」
ただ、獣人は立場が弱いので本来よりも安い金額でしか買い取って貰えないこともあるらしく、優にこう助言した。
「これだけの品なら、私に託されるよりも皇帝に献上した方が利益になりますよ」
皇帝に献上して気に入られれば相応の謝礼が入るというシステムらしい。勿論、くだらないものを出せば死罪になることもあるのだが。
(皇帝ねえ……)
皇帝といって優が思い出すのは、あの横柄な態度だ。頭を下げて、“お納め下さい”などと言いたいはずもない。
「いや、皇帝は気に入らないから嫌だ。よろしく頼む」
「そ、そうですか」
オースは優が大っぴらに皇帝に文句を言うことに目を丸くしながらも悪い顔はしなかった。獣人達は帝国や皇帝への不満や恨みを溜め込んでいるのだ。
ともあれ、重鋼と赤白金をオースに引き渡した優とトワはやはりまだ錯乱しているドレックと面会した後、屋敷の外れで訓練を始めた。
※※
それから数日後の朝。やはり優はトワとの訓練を行っていた。
「ハッ!」
「!!!」
優の竹刀がトワの手首にヒットする。残心をとった後、トワはまぶしい笑顔を見せた。
「流石です、マスター! この短期間でここまでとは」
「十回勝負で二本しか取れていないんだからまだまださ」
そう謙遜しながらも反面、実は嬉しい気持ちでいっぱいだ。
だが、すぐにそんな優の充実感を打ち砕くような出来事が起こる。
「領主様、大変だ!」
約束の時間より早く来たキースはドアを開けるなりそう叫んだ。
「どうしたんだ、キース」
「オースのおっちゃんが! とにかく早く!」
優はキースに急かされるままに走り出す。キースは子どもとはいえ、れっきとした獣人なので、優にはなかなかきついペースだ。
「オースさん、これは一体!?」
「りょ、領主様! 何故?」
連れて行かれた先はオースの家だった。優の姿を見てキースの父親が驚く。だが、それよりも優の注意を引いたのは傷だらけのオースだ。しかも、ぐったりとして意識がない。
「領主様!」
「分かってる。【応急処置】!」
言葉にならないキースの要望に優は行動で答える。【応急処置】を何度かかけると、オースの傷は跡形もなく消えた。
「わ、私は……」
オースはそう声をだすが、まだ意識はぼんやりしているようで何度か頭を振っている。が、その視界に優が入ると、慌てて平伏した。
「領主様、申し訳ありません」
「え?」
突然の謝罪に優が目を白黒させていると、オースは恐る恐る事の次第を話し出した。
「実はお預かりした品を盗まれまして……申し訳ありません!」
「いや、いいよ」
「「「え?」」」
耳を疑うような優の言葉に獣人達が驚くが、これは序の口だった。
「それよりあなたにそんな傷を負わせた相手は誰だ?」
「え? いや、何故そんなことを?」
「勿論やり返すためだ。それ以外に何がある?」
「や、やり返す、ですか?」
オースの声は震えていた。優が口にしたことは、獣人が傷つけられ、踏みにじられることが当たり前のアールディアでは決して有り得ないことだからだ。
「俺のために働いてくれていたあなたを傷つける奴は俺の敵だ。やり返すのは当たり前だ」
「な、な、なんと……」
オースは優になんと答えたらよいか分からず、ただただ優の顔を見つめている。すると、突然、トワが警告を発した。
「マスター! こちらに近づいてくる一団があります。数は二十人弱です」
「分かった。行こう」
優は獣人達に“また後で”と言い残し、トワの案内に従う。すると、彼の前に鎧をガチャガチャと着込んだ一団が現れた。
「何者だ!」
優の姿を見てひときわゴツい鎧を着込んだ騎士が優に向かってそう叫んだ。
「何者とはなんだ。俺はここの領主だ!」
優がイライラしているのは、早くオースに傷を負わせた犯人を追いたいからだ。
「非礼はお詫びする。だが、我々は勅命を帯びていることをご理解頂きたい」
お詫びするなどと口にする割に、あまりそんな態度は見られない騎士にトワは眉をひそめる。だが、優が気になったのは別のことだった。
「勅命?」
「いかにも。先日消息を立った三大騎士、ドレック様の捜索だ」
騎士はどれだけ大事な任務か分かっただろうと言わんばかりの態度だが、優にとってそこは重要ではない。重要なのは……
「良かった。迎えが来たか!」
「迎え……よもやドレック様の居場所を知っているのか?」
「知ってるも何も屋敷にいるよ。是非連れ帰ってくれ」
「貴様は一体何を言ってるんだ」
「何って……」
そう問う騎士に優は事情を説明したのだが……
「貴様がドレック様に傷を負わせたのか!」
「ケンカ売られたんだから仕方ないだろ! しかも、その後治療したし」
「開き直りを! 征伐してくれる」
「やなこった。ただの正当防衛だろ」
騎士が剣を抜くのに合わせて、優もアルデバランを構える。とは言ってもこの時点ではさほど優の戦意は高くなかったのだが、次に騎士が言った言葉で全てが変わった。
「てっきり獣人の仕業かと思い、怪しい奴を懲らしめたが……よもやこんなところに犯人がいたか」
「何だと!」
優の視線が鋭くなるが、騎士はそれに気づかず、会話を続けた。
「こんなに堂々と犯人が歩いてるだなんて思うわけないだろう?」
「そこじゃない。オースを傷つけたのはお前の仕業か!」
「オース? 確かそんな名だったかな。身分に合わない高価な売り物を持っていたから怪しいと思って調べたが中々口を割らず苦労したな」
「お前っ!」
「おまけに往生際の悪いこと、悪いこと。盗品の疑いがあるから預かろうとしたが、“預かり物だがら”と言うことを聞かなくてな。脅すつもりが深手を負わしてしまった」
優が怒りにまかせて切りかかるが、騎士は手にした剣で難なく防ぐ。すると、その背後から髪をアップにした小柄な少女が姿を現し、優に杖を向けた。
「!!!」
「マスターっ!」
杖から電光が走るのを見てトワが悲鳴を上げるが、優が【光壁】を張る方が早い。電光は優の生み出した光の壁に阻まれて四散した。
「防がれたっ!」
「焦るな、次だ」
騎士が杖を持つ少女を庇うように盾を前に出す。その隙のない構えを見て、優も少し冷静さを取り戻した。
「行けっ、【灯火】!」
優は弧を描く軌道で【灯火】を放ち、少女を狙うが、その全てを騎士の盾が防ぐ。少女が攻撃、騎士が防御と役割を分担しているようだ。
(コンビネーションか、厄介だな)
トワに教わった戦闘術、ライトアーツは一体多数を想定したもの。こういう状況への対処法もあるのだが……
(一番いいのは逃げること。どうしても闘うなら二人のリズムを崩さないと)
トワも同じことを考えているはずだ。そして、優が逃げを選ばないことも分かっているだろう。
(俺の役目は……)
優はアルデバランの刀身に手を添え、詠唱した。
「【閃光】!」
「くっ!」
閃光弾のような光の洪水を直視し、騎士の姿勢が崩れる。優は騎士の横に回りこむと再び【灯火】を放った。
「やらせん!」
騎士はそう吠えると盾から手を離し、腕につけた籠手で優の【灯火】を受けた。
(防がれるとは思っていなかったけど、これでいい!)
優はアルデバランを構え、二人との距離を詰める。優の標的は……
「かはっ!」
悲鳴を上げたのは騎士だ。不十分な視界の中、少女を守ることに神経を注いでいた騎士は自分を狙う優の攻撃に対処出来なかったのだ。
「俺の勝ちだ」
優は鎧をバターのように切り裂いたアルデバランを騎士の喉元に突きつける。少女は優に杖を向けるかどうか迷っていたが、結局杖を手放した。
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次話は昼頃に投下します!