第十一話 敗者と廃材
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ドレックを適当な部屋に寝かせ、シルクに見張りを頼んでから優とトワ、キースは再び先ほどの場所へと戻った。三人で坑道の状態を確認したが、鉱石とは違い、こちらは完全に駄目になっていることが明らかになった。
「復旧には時間がかかります」
と言うのがトワの判断だが、それには優も同じ意見だ。とりあえず、日が暮れるまで出来ることをしたあと、彼らは屋敷に戻った。
キースとシルクを帰し、二人っきりの入浴と食事が終わった後、トワは優に若干改まった顔で優に向き直った。
「マスター、提案があります」
「話してくれ、トワ」
「はい、マスター。鉱石の加工をする前にどの固有武装を製作するのかを決めていただければ、と」
トワが言うには、どんな武装を作るかによって最適な手順や加工が変わるとのことだ。
「どんな選択肢があるのかな」
優がそう言うと、トワは急に優に近づき、唇を合わせる。たっぷり一分くらいたってからトワが体を離すと優の前に様々な情報が書かれた画面が現れた。
「製造が可能な固有武装は現状、表示されている通りです」
「なるほど」
目の前に現れた画面には様々な固有武装の名前とその機能が表示されている。中でも優の興味を引いたのものが一つあった。
(何だこれ? 降魔剣?)
優はその詳しい説明を読み始めた。
※※
「あれ?」
次の日の朝、いつも通りキースとシルクを迎えに出た優とトワを待っていたのはキースとシルク、そしてその父親だ。
「な、何か不味いことがあったかな……?」
優は冷や汗をかきながらそう聞くと、キースとシルクの父親はそれを否定し、自分達は鉱山の復旧の手伝いをしたいのだと優に言った。
(これで復旧が早まるな)
優はキースとシルクの父親に礼を言った。ただ、給料を渡すから必ず受け取って欲しいと付け加えるのを忘れなかった。
午前中優がトワと訓練をしている間に獣人達がしてのけた仕事量はすさまじく、午後にさしかかる頃には採掘が再開出来そうな状態にまでなっていた。
「午後から俺も加わるか」
優がそんなことを考えてながら、昼食をとりに屋敷へ戻ると、留守番をしていたシルクがドレックの意識が戻ったと優に教えてくれた。昼食もそこそこに優がドレックの元に向かうと、彼はベッドに腰かけて頭を抱えていた。
「おい、痛むところとかはないか?」
「不遇民に負けた、不遇民に負けた、不遇民に負けた……」
「おーい、聞いてるか-?」
優が具合を尋ねても、ドレックは何かの呪文のようにそう呟くばかりで彼の方を見ようともしない。
「なあ、おいってば!」
「ヒッ!」
優が肩を軽く揺すると、ドレックはまるで悪魔か何かを見たかのような悲鳴を上げた。
「何もそこまでびびらなくてもいいんじゃないか?」
「よ、寄るな!」
そう言うと、ドレックはベッドの端まで移動する。ドレックの眼窩はくぼみ、頬はこけ、まるで死霊のような顔立ちだ。
「そっちが何もしなけりゃ、こっちもしないよ。ったく、一体何なんだ」
「マスターに負けたのがよほど応えたのでしょう。彼は軽いパニックに陥っています」
「なるほど」
トワの説明を聞いて優は頷いた。
「……これはまともに話をするまで時間がかかるかな」
「そうですね。精神改造とか、洗脳とか手っ取り早く済ませる方法もありますが」
真顔で恐ろしい単語を口にするトワにドレックの怯えは更に高まる。優はため息をつきながらトワに首を振った。
「とりあえずそう言うのは無しだ。っていうか、トワは何気にコイツへの対応が容赦ないよな」
「マスターへの数々の無礼、万死に値します」
トワがそう言ってにらむとドレックは更に怯えた。
「まあ、なんだ。また来るから落ちついたら話をしよう」
そう言うと、優はトワを伴って部屋を出た。扉を閉めた途端、ドレックが大袈裟なくらい大きなため息をついたのを聞き、優は苦笑いをした。
「何だか可哀想に思えてきたな」
「マスターは寛大すぎます」
「そうか?」
そんな会話をしながら二人は移動し、トワは固有武装製造のために屋敷に残り、優はキース達と共に採掘へ向かった。
夕暮れまで仕事をした三人が屋敷へ戻ると、トワとシルクの二人が彼らを出迎えた。
「トワ、進行状況はどうかな?」
「順調です、マスター」
そう言うとトワは屋敷の庭で製作していたものを優達に見せた。金属の精製は既に終わり、今は部品の製作に移っているらしい。
「お疲れ様、トワ。完成が楽しみだよ」
「私もです、マスター」
そう言うとトワは自身のアイテムボックスに製作途中の部品をしまう。大きなものがあっと言う間に消えるのを見てキース達は驚いた顔を見せた。
「あ、これは【アイテムボックス】っていう魔法の一種で……」
優がそう説明するが、皆どこかうわの空という感じだ。どうかしたのかと考えながら優が説明を終えると、やがてキースの父親がおずおずと優に質問した。
「あの、領主様。あれは放置なさるのですか?」
「あれ?」
キースの父親の言う“あれ”とはトワの作業の過程で出たらしき廃材だ。
「トワ、あれはどうするの?」
「処分します」
「「「「処分!?」」」」
キース達は今度は動揺のあまり声を上げた。
「え? なんかまずいの?」
「まずいというより勿体ないです、領主様! あれはどう見ても重鋼です。その隣にあるのは赤白金では?」
「えっと、そうなの?」
優の言葉にトワは頷いた。
「どちらも高速詠唱機の装甲や固有武装に使われる高価な金属です! それを処分だなんてもったいない」
「ハルシオンの装甲や固有武装の製作にはもっと固く、マナの伝導率が高い金属を使います。重鋼には用途がありません」
「重鋼に用途がない……」
トワの言葉にキース達はあっけにとられ、言葉が出てこない。
(俺達には価値のないものだが、どうも他の人にとってはそうではないのか)
それならすべきことは一つだ。
「じゃあ、これはキース達に渡してしまうと言うのはどうかな、トワ」
「「「「へ!?」」」」
獣人達の声が重なった。
「確かにそうすれば処分する手間は省けます。なるほど、マスターの世界で言う“りさいくる”ですか」
「ちょっと違うな……けど、まあいいや」
そう言うと、優はキース達に向きなおった。
「じゃあ、そう言うことで」
「ど、どういうことですか!?」
キースとシルクの父親が慌ててそう言うので、優は手を振って二人を制しながら話を続けた。
「えっと、いらないしあげる」
「いらないはずがないでしょう! これだけの量なら家が二~三件立てられます!」
「じゃあ、売り払って新しい家を建てるというのは? 俺には既に屋敷があるし」
「頂く理由がありません!」
「理由……そうだな、ボーナスだ!」
「ぼーなす?」
優がボーナスとは何かを説明するとキースの父親は頭を振った。
「今日働き始めたのにそれはないでしょう」
「じゃあ、そうだな……」
「何か論点がズレている気がします、マスター」
トワにツッコまれて優も気がついた。
「うーむ、どうしよう」
「でしたら領主様、知り合いに鉱石の売買に関わっている者がいますので近いうちに連れて来ましょう」
シルクの父親がそう言うと、優はポンと手を叩いた。
「なるほど、その人に買って貰うということか」
「この種の廃材は固有武装を作る度に生じます。恒常的な処分方法がある方が安心です」
「は、廃材ですか」「廃材……」
キースとシルクの父親がそう言って驚くが、トワはあまり気にした様子はない。てきぱきと撤収の準備をすると、ショックでぼんやりしている獣人達に今日の報酬を握らせた。
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次話は明日の七時に投稿します。時間が微妙にかわるのは僕の生活スタイルのせいですが、もし要望とか、ご意見があれば感想やDLでお願いしますm(_ _)m