Prologue Ⅴ ー別離ー
だからこんなにこの状況への危機感が違う。
きっとあの男は歩いてすぐに町に着くような場所か街中からここに来たんだろう。北海道からきたという、あの若い女のように。
本当に歩いて帰れるだなんて思っているんだ…。
「せめて明日、日が昇ったらにしませんか? その方がずっと安全ですから。」
「お前はそんなに俺を意味の分かんねえゲームに参加させてえのか!? それともあの気が狂ったガキを矯正でもする気か? 俺は無理だと思うねえ。それにそんなことするくらいなら今から夜通し歩いた方が余っ程早く帰れんだろ。」
そして男は何も無い場所に向かって怒鳴った。
「おい、GM、居るか!!?? 聞こえてんのか!!?? このガキ!! 気違ーー」
「ああ、居るとも。聞こえてもいる。そんな大声出さなくてもね。そして次からはもっと周囲に…というよりボクに気を使った呼び方をしてほしいものだね。」
マネキンから、少し苛立ったような声が聞こえた。
「気軽に呼べっつったのはそっちだろ。それに、お前もそう思ってんなら、俺がお前を呼ぶのはこれで最後にしてみねえ?」
「…話は聞いてたよ~? あまりお勧めはしないけどねー。まあ、でも止めはしないよ。僕等は来る者拒まず去る者追わず、だからさ。
にしても、そんなに重要な用事があるのかい? 君は外見にそぐわず厳格な性格をしているんだねえ。」
「別に早く帰りてえんじゃなくて、こんな薄気味悪いとこに居たくねえんだよ。」
「そう? 残念だよ。」
「とりあえずどう進めば他の家がある?」
「この館を出てすぐに右へ曲がって、それからずっと真っ直ぐ歩き続ければいずれ村が見えると思うけど、到底たどり着くとはーー」
「ああ、分かった。」
すると男は俺に寄って
「そんな難しいことじゃねえと思うぜ?」
と言ってから館を出て行った。
あの男はそう言っていたが…
…俺の考え過ぎなのか? 確かに、ここが俺の知る雪山で無いならこれは逆にチャンスだ。雪山より遥かに人里に降りれる可能性が高い。
…いや、『降りる』ですらないのか。この家に住む少女は吹雪が止むまでいつまでも居ていいと言っていたが、明日少し吹雪が収まったら、俺もどこか村を目指して歩こうか。
それから暫くして、暖炉の左にある通路からガタガタという音がした。