Prologue Ⅳ ーGMー
「きっと、後悔、するよ?」
そのぞっとする低い声に、俺は背筋が凍るような得体の知れない恐怖心を抱いた。
が、それは直ぐに鳴りを潜め
「……ああ、別にこの館を追い出す訳じゃないよっ? 」
無邪気な声が続いた。
「まあ今日は自己紹介でもしてさっさと寝たら? きっと休んだらこのボクに向けられてる理不尽な苛だちだって消え失せるかも知れないし。…多分。
部屋は暖炉の両脇にある階段を登った先に、ちゃんと人数分あるはずだよ。君等の好きに使えばいいさ。
あとボクのことは気軽にGMなり好きな風に呼ぶといいよ。
じゃあ、もう今日は散々な目にあったからボクはそろそろ失礼させてもらうとするよ。」
プツッ、という切れる音がして食堂は一瞬、静寂に包まれたが、すぐにまた独特な機械音と慌てた口調が聞こえてきた。
「あと一つだけ言い忘れていたよ。自己紹介をするなら、くれぐれも自分の職業については言わないようにね」
ただそれだけ言って、食堂はまた静かになった。
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ーーー
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「あの、とりあえず、自己紹介します?」
俺からそんな言葉がでたのはGMと名乗る少女が話し終わった数分後だった。
「ええそうですね。いつ帰れるようになるかも分からない状況ですし、何よりここに泊まるということはあの狂ったルールのゲームへの対応を考えねばなりませんから。」
そう返したのは俺の右斜めに座っている初老の男だ。
「そのことについてだがーー」
中央の男が荷物をまとめながら
「俺は降りさせてもらう。」
と言った。
それは話し合いに参加しない、ということか? お互い初対面だから足並みは揃え辛いだろうが、今は協力すべきだ。
「どういうつもりですか?」
「俺は今すぐこの館から出て行く。」
俺は窓をチラリと見たが相変わらず雪は降り続き、明かり一つ無い闇が広がっていた。
「そんな…! 無理ですよ。外はもうとっくに日が落ちて真っ暗なんですよ? 吹雪だって止んでも、弱まってもいないじゃないですか。第一、夜間に一人で山を歩くなんてーー」
「雪山を歩いて来たのはお前だけだろうが。」
あ、--そうだった。
俺は完全に忘れていた。いや、実感できていなかった。
ここはもう、俺の知る場所ではないということを。
恐らく俺たちはまだ、心のどこかで信じていたんだ。元来た道を戻れば見覚えのある場所に戻ると…。
そしてここも自分が知っている場所の近くだと…。