Prologue Ⅲ ー奇怪な現象ー
どういうことだ…?こんなところ俺が登っていた山で遭難でもしない限りたどりつけないだろ…。でも山の中腹にこんな立派な館があるなんて聞いたことがない。俺はどこまで歩いたんだ…。ミラーズホロウ?そんな地名だって知らない。
俺の頭は疑問で埋め尽くされていった。
「……ぁ……の…えっと…私…私は道路を歩いてきました。……普通に。」
声を上げたのは今まで俯いていた気の弱そうな若い女だった。
「それは、どこの…?」
近くに街があるのか? 俺は一抹の希望を託した。
「…えと…その…私の家のすぐ近く…北海道の道路です。
……買い物に行こうと歩いてたんです…。…そしたら……雪がちらつき始めて……風が強くなって…吹雪いてきたんです。……それで……辺りが真っ白になって…道に迷いながら……とりあえず歩いていたらここに着いて…ました…」
その発言に一同はざわめいた。互いにどこから来たか確認し合う者、困惑し周囲を見渡す者、密かに笑う者…
雪で辺りが見えなくなってからは俺と大体同じ行動をしているようだが…
北海道…?
それは俺が朝から晩まで歩き続けたって辿り着ける距離じゃない。況して直線距離で互いに端から歩いたとしても海の上を歩いて渡ったことになる。そんなことがありえるはずがない。
そして再び場が静まったとき、向かいに座っている若い男が挙手し仰々しく話し始めた。
「皆さんは…! 本当にこれが現実だと思っているのですか!? こんな非現実的なことをありありと見せつけられて…!! これは夢です! 夢でない筈がないのです!! それならば、今すべきことはーー」
「ちょっと待ってくれないかな」
心なしか先ほどより若干ボリュームアップした少女の声響く。
若い男の熱弁は少女の音量調節によって容易く遮られた。
マネキンから声は続く。
「それは随分と『早計』って言うんじゃないかなぁ? それにさ、そういうこと、もう少しボクに聞いてくれったって良いんじゃない?」
「はぁ? お前が信用できるかよ」
中央の男がまたマネキン少女に食って掛かっていた。
「信用できないだなんて酷いな…。傷つくじゃないか…。
……まあ、生憎とボクは言われ慣れているけどね!
それにしても、さっきから君はボクを邪険にして、周りもそれを静観、まるでボクが苛められているみたいだよ。全くボクのことを一体何だと思っているのさ?」
邪険……なのか? 当然の反応のような…
「妄想少女」
「頭おかしい」
「虚言癖」
「……頭の…ネジが一本…二本外れてる……?」
「……………………………………………………。」
少女は暫くの沈黙の後、
「……そうかい、分かったよ。頭のネジが1、2本外れてて虚言癖があって頭おかしい妄想少女の言うこと何てどうせ信じちゃくれないだろうけどね、ボクは割と今まで君等の身に降りかかる不可思議な出来事を懇切丁寧に説明しようという意欲に溢れていたんだ。
なにせ君等は極寒の吹雪の中、ずっとこんなところまで歩いて来てくれたんだから!
そりゃあ疲れただろうね。ボクも分からなくはないよ。予定だって狂っただろうしね。
でもそれでボクに当たるのはよしてくれないかな。
そうじゃないと…きっと、後悔、するよ?」