Prologue Ⅱ ーマネキンの主ー
「さあ、知らないわ。勝手に泊まってけばいいんじゃない?」
暫くして、そんな素っ気無い返事が食卓の端、玄関の扉近くにいる女から発せられた。女はなにやら忙しくスマホを弄っているようだった。
「あの…ここの家主は…」
「そっちも知らない。あと私、この家の住人じゃないから」
そのとき、ザアァァァッという音が部屋中に響き、
「やあやあ皆さん、ご機嫌如何?」
などという不気味でふざけている声が大音量で俺の鼓膜を刺激した。見れば、おおよそが耳を塞いだり、顔を顰めたりしている。
「おおっと…、いきなり驚かせてしまったみたいだね。今ちょっと直してるからーー」
少しずつ音を小さくしたりして音量調節をしている声はマネキンの方から聞こえてくる。少女が話しているような高くて、楽しさを滲ませた声。
「あーー、あー。うん、こんな感じかな。では改めて! ミラーズホロウの館に、ようこそ!!
それから一晩と言わず、この吹雪が止むまで何日でもここにいてもらって構わないよ。
但し、ここにいる限りは君等にはあるゲームをして貰わなければならないけどね。
まあ、話は長くなるから取り敢えず座ってよ、席は全員分あるでしょっ?」
最後の言葉は、俺に向けられたものだろう。他の9人は既に着席していて、席は残り1席となっている。最後の席はーーあ、やっぱりマネキンの傍か。そりゃあ誰だってこんな気味悪い物の近くに座りたくないよなぁ、俺も含めて。
しかも変な声まで鳴る仕様だし。
心底気が進まないが仕方がないのでそこに座した。
「それじゃあ、ルール説明始めるよ。といっても、ルールは簡単。自分が生き残ればいい。そうすれば自分の勝ちになる。
まあもっと詳しく説明すると、この中に人狼が二人いるのさ。人狼っていうのはね、夜中になると狼の様な姿に変わって人を喰い殺してしまう人達で、早く見つけ出して殺さないと逆に毎晩1人ずつ食い殺されてしまうんだよ」
何を言っているんだこの子は。まるでファンタジーの世界から飛び出して来たかのようなことを言って。妄想癖でもあるのか…?
そう思っているのは俺だけではないようだ。
「おい、ここに泊まるためのゲームだと思って黙って聞いてりゃ何だ?このふざけたルールは。俺たちに飯事でもさせるつもりか?大人を馬鹿にするのも大概にしろよ、ガキが」
そう言いながら食卓の真中らへんに座っていた男が苛立ちながら音を立てて立ち上がった。
「ガキかぁ…、でも今ここに雁首を揃えてる君等だってみんないい年こいた迷子じゃない?」
男は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、俺にはそれが目に入らなくなるくらい気になることがあった。
君等……?
ということは、遭難したのは俺だけじゃなくて…
「もしかして…ここにいる皆が登山中に遭難したのか…?」
「「は?」」
全員の口とマネキンから同じ言葉が洩れた。
別世界妄想少女にも同じ反応を取られた俺はただ
「へっ…?」
という呟きを洩らすことしかできなかった。