目覚め
「今日は何食べる?」
『君』は振り返らず、『俺』に聞いてきた。
「夕飯、入らなくなるだろ」
「入ったら問題ないでしょ?」
屈託なく、言い返す『君』の後ろ姿を見つめた。
夕暮れ時の姿は妙に様になっていて、見惚れると同時に若干呆れた。
「なんで夕飯の話してるんだ……」
「お腹が減ったからに決まってるでしょ」
断言して、『君』は『俺』に聞いてきた。
「『 』は? お腹空かないの?」
「俺は……」
帰り道。
夕飯と家族が待つ家。
『君』の後ろ姿を見つめながら、歩く道のり。
「俺は……」
もう少し、『君』と一緒に話して歩いていきたい。
そんな本音を呑み込んで、笑いながら、誤魔化した。
「じゃあ、何買って帰る?」
「そうだな……」
考える『君』だったけど、何か思いついたかのように立ち止まった。
同じように、『俺』も立ち止まる。
振り返る『君』は嬉しそうに笑いながら、
「じゃあ、」
その後なんと続けたのか。
覚えていない。
覚えていないけど、多分『俺』は、
『君』が笑ってくれるなら、なんでもよかったのだ。
* * *
「勇者!!」
ハッと目覚めれば、全身に痛みが走った。
見上げれば、魔法使いが心配げにこちらを見つめていた。
「まほう、つかい……っ」
「無理にしゃべっちゃだめ」
ベッドに横たわる勇者に、魔法使いはそう言った。
「起こしてごめん。でも魘されてから」
「そうなのか?」
「うん……」
魘されるほどの悪夢を見たのだろうか?
覚えていない。ただ、目覚めは特段悪くなかった。
むしろ、夢を見ていた時、『俺』は――、
「無理もないよ。剣士があんな、」
「剣士? そうだ、剣士は!?」
「……」
魔法使いは悲痛な顔つきで静かに首を振った。
「そうか……」
そうだ。あの『魔女』に剣士は殺されたのだ。
怒りが湧いてきた。
少なくとも、あの瞬間は。
しかし、今は怒りが何故か湧いてこない。
あんな表情をした『魔女』が目に焼き付いて離れない。
「勇者、騙されないで」
「え?」
「いくら聖女様と同じ顔をしてても、相手は『魔女』よ」
殺意にも近い敵意をむき出しに、魔法使いは断言した。
「あいつは剣士を殺した」
「分かってる」
「きっと聖女様と同じ姿なのも、何らかの策だと思うの。だから用心しておいて」
「……分かった」
魔法使いの主張は正しい。
勇者も頭では理解していた。
なのに、警戒しないといけない。
その感覚を覚えなかった。
「……」
「剣士の葬儀、明日執り行われるってさ」
「……」
「魔女に壊滅させられた村の人々の供養も」
「……分かった」
参加するとだけ伝えれば、魔法使いは席を外した。
食事を持ってきてくれるらしい。
その姿を見送った後、勇者は目を閉じた。
先程見た筈の夢はもう覚えていなかった。




