自信
「付き合う?」
「そう」
「俺と、梓が?」
「そうだけど」
「…………」
思考が停止した。
「なんでだよ」
いや、そんな疑問が零れた。
「なんでって……」
「俺は梓のことが好きだ」
「それは、聞いた」
「隣にいたい」
「……それも聞いた」
「だけど、梓は違うだろ」
隣にいられるのなら、形にはこだわらない。
恋人じゃなくても、友人でもいい。
「梓は俺のこと、好きじゃないだろ」
振り向いてもらえてない状態で、『恋人』なんて、
「いくらなんでも飛躍しすぎ――」
「好きよ」
「……え?」
「勇人のこと、好き」
一瞬、自分の耳を疑った。
「好きだから、隣にいたい。付き合いたい」
「………」
「それって飛躍しすぎ?」
目が合った。すると、視線を逸らされた。
その仕草が照れているからだと気づく。
「え?」
今度は別の意味で混乱した。
「なんで」
「また、『なんで』?」
「だって、俺の告白」
「嫌だったから」
断っただろという前に、被せられた。
「『他の人』と重ねられてるかもしれない。
そんな状態で受け入れるほど、私はお人好しじゃないから」
聖女様のことを言っているのだ。
「だけど、そうじゃないって分かったから」
少しだけ顔を上げた。
その瞳の中に、俺が映った。
「………っ」
心臓の鼓動が一気に速まっていく。
「そもそも」
梓はため息を吐いた。
「自分の命を賭けてまで、誰かを助けようなんて思わない」
そこまでお人好しじゃないと、梓は断言した。
「全部勇人だから」
「梓」
「勇人だから、助けたかったの」
真剣な眼差しだった。
「勇人の告白だから、返事を言いたかったの」
息を呑んだ。
「ただそれだけだったの」
「……そう、か」
「勇人?」
「聞いてるから、大丈夫だ」
「伝わってる?」
「伝わった」
「なら……」
先程の勢いを失い、若干の不安が声に乗った。
「引いた?」
「引いてない」
「本当に?」
「本当に」
ゆっくりと息を吐いた。
「ただ、俺と同じで驚いただけだ」
「同じ? 勇人と?」
「ああ」
梓を助けると決めた時。
聖女様を殺すと決めた瞬間。
「先生にも言ったけど、」
守りたいとか、助けたいとか、
そんな深い考えはなくて、
ただ、俺は、
「梓と話せなくなるのが嫌だったんだ」
梓は目を見開いた。
「それが梓を助けた理由だ」
「……そっか」
驚いた様子で、数度頷いた後、
「勇人も、私と同じだったんだ」
嬉しそうに笑って言った。
「なら、勇人」
「なんだよ」
「余計に私と付き合わない?」
――振り出しに戻ってしまった。
「好きなら、付き合っても問題でしょ?」
「それは、そうだが」
「まだ、何かあるの?」
視線をさ迷わせた後、俺は言った。
「俺には、自信がない」
「……」
「自信がない俺が、梓の彼氏なんて、」
「大丈夫よ、勇人」
梓は断言した。
「自信がないなら、持てばいい」
「え……?」
「これから、私の側で」
突拍子もない言葉だった。
「すぐに持つ必要もない。ゆっくりでいいから」
「梓……」
「私が、側にいるから」
――甘えてばかりだ。
――情けないとも思った。
同時に、嬉しいとも思った。
「……梓」
「何?」
俺にはまだ、自信がない。
だけど、自信を持ちたい。
「好きだ」
「……うん」
「俺と、付き合ってくれ」
「……うん」
拙い告白に返事をくれる。
「私も、勇人が好き」
俺を好きだと言ってくれる君の為に、今度こそ、
「これからよろしくね、勇人」
持ちたいと、そう思った。




