告白
「なんか……」
「何?」
「前にもこんなことがあった気がする」
薬品の匂いがする、清潔な部屋。
傍らには、椅子に腰かける梓の姿。
あれは、いつだったのだろうか。
「私も」
ポツリと梓が呟いた。
「私も、そんな気がする」
夜を切り取ったような、黒い瞳。
その中に、俺が映っていた。
「梓」
「何?」
「好きだ」
飾らない言葉を口にした。
「戻ってきたら、言いたかったんだ」
「……」
「梓が、好きだ」
「……」
唐突すぎたせいだろうか。
梓が黙ったまま、動かない。
「梓――」
もしかして、聞こえなかったのだろうか。
不安に駆られたまま、名前を呼べば、
「私、記憶がないの」
そんな事実を告げられた。
「生活に支障はないけど、色々覚えていないみたい」
「……そう、か」
「それでも、覚えてることがある」
梓の目が真っ直ぐに俺を見た。
「勇人、私は聖女様みたいにはなれない」
二度目の拒絶は、どこか不安を孕んだものだった。
「誰にでも優しいわけじゃないし」
「……」
「誰にでも公平なわけじゃない」
「……」
「慈愛とか、そんな言葉から程遠いし」
「……」
「それでも、勇人は私が好きだって言える?」
「好きだ」
三度目の告白だった。
「誰かに似てるから好きなんじゃなくて、梓だから好きなんだ」
俺は自分に自信がない。
だとしても、この気持ちには自信がある。
「梓だから、好きになったんだ」
息を呑む音がした。
「……そう」
どこか気まずそうに、梓は目線を逸らした。
「言いたいのはそれだけで、あとは……」
「?」
「隣を歩きたい」
「……隣?」
梓はきょとんとした。
「後ろじゃないの?」
「後ろじゃない」
「ずっと後ろだったのに?」
「そうだけどさ……」
「?」
「歩いてみたくなったんだ」
「……私の隣を?」
「ああ」
俺は梓の言葉に頷いた。
「ずっと、梓の隣を歩きたかったんだ」
梓の目が見開いた。
「だから、隣歩いていいか?」
「……いいけど」
「いいのか?」
「いいに決まってる」
断言して、梓は嬉しそうに笑って言った。
「私も、勇人の隣を歩きたかったの」
その笑顔は鮮烈で、思わず視線を逸らした。
「……そうかよ」
「けど、勇人」
「なんだよ」
「一つ、条件出していい?」
「は? 条件?」
勢いよく視線を戻せば、目が合った。
「隣歩くのに、条件出すのかよ……」
「大丈夫。常識の範囲内だから」
「何が大丈夫なんだよ……」
そういえば、九条梓はこういう奴だった。
「なるべく俺が叶えられる範囲で頼む……」
「分かった」
頷いて、梓は言った。
「勇人」
「ああ……」
「私と付き合って」
「ああ……」
げんなりしていて、その言葉を理解し遅れて、
「…………は?」
理解してから数秒後。
間抜けな声を発していた。




