魔女
瞬間、勇者が光に覆われた。
多分、魔法使いの移動魔法だ。
「勇者様!」
聖女の声に咄嗟に振り返る。
すると、聖女は真剣な表情で、
「……ご武運を」
心からの言葉だったのか。
それとも『聖女』として告げられたのか分からない。
ただ、彼女の言葉が何よりうれしくて、
「はい!」
勢いよくそう言って、勇者は光の中に包み込まれた。
* * *
次に目を開けた時、待っていたのは惨劇だった。
「なんだよ、これ……」
誰も彼もが死んでいる。
男も女も子供も老人も、赤ん坊すらも皆等しく死んでいた。
中には妊婦さえいた。
だが、妊婦はただ死んだだけじゃない。
腹を裂かれて、臨月に迎えた筈の赤ん坊だったそれも、
母親と同じく、無残な死体となって転がっていた。
「……う」
あまりの血の海に、嘔吐感が襲ってくる。
なんとか震える手足に鞭を打ち、
「勇者!」
呼ばれて、魔法使いと剣士が駆け寄ってきたのが見えた。
「大丈夫!?」
「俺は大丈夫だ……。それより何だよ、これ」
「……救助信号が見えたんだ」
剣士は悲痛な顔つきで呟いた後、魔法使いが話を繋げた。
「ほら、ドラゴンを殲滅した時、私が国全体に魔法をかけたの覚えてるでしょ?」
「ああ、確か……異変察知の魔法だったよな?」
「それが反応して、剣士と一緒に駆け付けたの」
そして、二人は先にこの村に到着し、惨劇を目撃したのだ。
「なんで俺を呼ばなかったんだよ」
「誤作動の可能性もあったの」
「だからって……」
「よせ、魔法使いを責めるのは筋違いだ」
剣士に止められ、勇者は我に返った。
「悪い……」
「気にしてないから。それより……」
警戒心をむき出して、前を指差した。
「あっちから強力な魔力を感じるの」
「敵か」
聞きながら、勇者は確信していた。
剣士も大振りの剣を抜いた。
「急ごう」
三人は魔法使いが指し示す方角を目指した。
* * *
辿り着き、それは確証を得た。
全てが血の海に沈む中、泉のように黒く長い髪。
血よりも深く、濃い黒のドレス。
白い肌。
後ろ姿だけで、顔までは見えなかったが、
それでも十分だった。
――魔女だ。
「お前がこの村を滅ぼしたのか」
聞いていないのか、振り返ることなく
じっとその場で佇んでいる。
「何のために罪のない人達を手に掛けた!」
「…………」
「あんな、惨劇を何故引き起こした……っ」
「…………」
「答えろ! 『魔女』!」
その瞬間、『魔女』はぴくりと反応した。
ゆっくりと振り返り、その顔を見た刹那、
「……え?」
「嘘だろ……?」
「そんな……」
三人は絶句した。
『魔女』は十五、六の年端もいかない少女の姿をしていた。
不気味な程に白い肌も、黒いドレスも、
その瞳の赤黒さと美しい容姿によって完成され、
見る者を全て捕えていく。
その姿はまるで、
「聖女、様……?」
聖女と瓜二つの顔をしていた。




