条件
「大丈夫ですか?」
こちらの身を案じる声が耳に届く。
無理矢理起き上がり、体勢を整えようとする。
だが、身体が悲鳴を上げ始め、うまく力が入らない。
「無理はされない方が……」
染み渡るような優しさが聞こえる。
目の前に聖女様がいた。
「……!」
その身体を剣で貫こうとした瞬間、
俺の身体は壁に叩きつけられていた。
「大丈夫ですか?」
変わらぬ慈愛をもって、聖女様は尋ねてくる。
一瞬で、壁は修復され、綺麗な形へと戻っていく。
教会の中はどこも綺麗だった。
壁が壊れようが、凹もうが、割れようと、罅が入ろうが、
一瞬にして、元通りの姿へと戻っていく。
だが、俺はぼろぼろだった。
どんな動きも、攻撃も、
彼女には一切届かない。
殺そうとする度に、逆に傷だらけになっていく。
「……っ」
もう、起き上がる力すら残っていない。
それでも起き上がろうとすれば、
「大丈夫ですか?」
何度目か分からない言葉が、聞こえてくる。
顔を上げれば、こちらを心配げに見つめる視線と目が合った。
「勇者様」
「……」
「もう、立ち上がらない方が……」
黙れ。
音にならない声が洩れる。
起き上がることをやめれば、
きっと楽になる。
だけど、どうしてもできなかった。
『分かった』
そう言ってくれたから、止めるなんて考えられなかった。
「ですが……」
聖女様はどこか言い辛そうに、
「勇者様が頑張れば頑張るほど、『彼女』の身が危うくなるかもしれません」
「―――え?」
「『九条梓』」
はっきりと、その名前を口にした。
「私は今、『九条梓』の中にいますから」
「……」
「力を振るう程、『九条梓』の身体を蝕んでいく」
『それが今の私ですから』と申し訳なさそうに、呟いた。
「ですが、私は死ねませんので、このままだときっと、」
その先は言わせなかった。
痛みも忘れて、斬りかかった。
「……っ!」
壁に叩きつけられた。
激痛が襲う。
「勇者様」
こちらを案じ、諭すような声だった。
壁は、綺麗になっていく。
「……っ」
激痛が襲い、起き上がれない。
いや、起き上がれなくなってしまった。
殺すどころか、逆に傷を負っていき、
挙句、このままだと、逆に梓の命が脅かされてしまう。
その事実に、動けなくなった。
「……なんで」
どうしたらいい。どうしたら、彼女を、
「勇者様」
労わりに満ちた声が、
「私を選んで頂けませんか?」
そんな条件を突き付けてきた。
「は……?」
「勇者様が私を受け入れてくださるのでしたら、九条梓から手を引きます」
微笑みをもって、聖女様は告げてくる。
「私は勇者様さえいれば他に何も望みません」
打開策を、妥協案を、
「ですから、勇者様。どうか、」
自分の死を受け入れろと、
「私を選んで頂けませんか?」
手を、差し伸べてきた。




