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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
帰還世界編
44/53

条件

「大丈夫ですか?」


 こちらの身を案じる声が耳に届く。

 無理矢理起き上がり、体勢を整えようとする。


 だが、身体が悲鳴を上げ始め、うまく力が入らない。


「無理はされない方が……」


 染み渡るような優しさが聞こえる。


 目の前に聖女様がいた。


「……!」


 その身体を剣で貫こうとした瞬間、

 俺の身体は壁に叩きつけられていた。


「大丈夫ですか?」


 変わらぬ慈愛をもって、聖女様は尋ねてくる。

 一瞬で、壁は修復され、綺麗な形へと戻っていく。


 教会の中はどこも綺麗だった。


 壁が壊れようが、凹もうが、割れようと、罅が入ろうが、


 一瞬にして、元通りの姿へと戻っていく。


 だが、俺はぼろぼろだった。


 どんな動きも、攻撃も、

 彼女には一切届かない。


 殺そうとする度に、逆に傷だらけになっていく。


「……っ」


 もう、起き上がる力すら残っていない。

 それでも起き上がろうとすれば、


「大丈夫ですか?」


 何度目か分からない言葉が、聞こえてくる。


 顔を上げれば、こちらを心配げに見つめる視線と目が合った。


「勇者様」

「……」

「もう、立ち上がらない方が……」


 黙れ。

 音にならない声が洩れる。


 起き上がることをやめれば、

 きっと楽になる。


 だけど、どうしてもできなかった。


『分かった』


 そう言ってくれたから、止めるなんて考えられなかった。


「ですが……」


 聖女様はどこか言い辛そうに、


「勇者様が頑張れば頑張るほど、『彼女』の身が危うくなるかもしれません」

「―――え?」

「『九条梓』」


 はっきりと、その名前を口にした。


「私は今、『九条梓』の中にいますから」

「……」

「力を振るう程、『九条梓』の身体を蝕んでいく」


 『それが今の私ですから』と申し訳なさそうに、呟いた。


「ですが、私は死ねませんので、このままだときっと、」


 その先は言わせなかった。

 痛みも忘れて、斬りかかった。


「……っ!」


 壁に叩きつけられた。

 激痛が襲う。


「勇者様」

 

 こちらを案じ、諭すような声だった。

 壁は、綺麗になっていく。


「……っ」


 激痛が襲い、起き上がれない。

 いや、起き上がれなくなってしまった。


 殺すどころか、逆に傷を負っていき、

 挙句、このままだと、逆に梓の命が脅かされてしまう。


 その事実に、動けなくなった。


「……なんで」


 どうしたらいい。どうしたら、彼女を、


「勇者様」


 労わりに満ちた声が、


「私を選んで頂けませんか?」


 そんな条件を突き付けてきた。


「は……?」

「勇者様が私を受け入れてくださるのでしたら、九条梓から手を引きます」


 微笑みをもって、聖女様は告げてくる。


「私は勇者様さえいれば他に何も望みません」


 打開策を、妥協案を、


「ですから、勇者様。どうか、」


 自分の死を受け入れろと、


「私を選んで頂けませんか?」


 手を、差し伸べてきた。

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