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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
帰還世界編
43/53

無傷

「聖女様」

「はい、勇者様」

「聖女様は知っていたのですか?」


 微笑む聖女様に向かって、俺は尋ねた。

 聖女様は微笑むばかりで、答えようとしなかった。


 構わず、俺は言った。


「この世界が俺の病気で、その副産物で、妄想で、」

「……」

「貴女は俺の病気そのもので、」

「……」

「そもそも、この世界が俺自身を殺そうとしていた」


 今も、九条梓を殺そうとしている。


「その事実を、貴女は、知っていたのですか?」

()()()


 即答だった。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 どこか自嘲気味な様子だった。


「知ったのは、ごく最近でしたから」


 聖女様は微笑みをもって、事実を告げている。

 そんな様子だった。


「どういう意味ですか」

「……」


 聖女様は答えず、俺のことだけを見ていた。


「――ところで」


 聖女様は話を変えてきた。


「私を殺さなくてもいいのですか」


 本題だった。


「待っている方がいらっしゃるのでしょう?」


 聖女様の態度は変わらない。

 変わらないのに、気配が変わった。


「大丈夫です。勇者様」

「何を、」

「私は死んだりしません」


 神に祈りを捧げるように、両手を合わせる。


「絶対に」


 安心させるような笑みだった。


「……試してみないと分かりません」

「はい、試してみて下さい」


 それが合図だった。

 震える手で剣を握り締め、駆け出した。


 聖女様は動かない。


 切っ先が彼女の首に届く、直前。


 ガシャンと、ガラスが割られる音がした。


「え……?」


 何が起きたのか分からない。


 気付けば、俺は、聖母を模した天井のステンド硝子に叩きつけられていた。

 そのまま、ガラスの破片と共に、床に落下する。


「大丈夫ですか?」


 美しいガラスの破片が散らばる中、儚い声が耳に届く。

 顔を上げれば、聖女様が心配げにこちらを見つめていた。


「……っ!」


 痛みに耐え、距離を取り、剣を握り締める。


「……」


 聖女様は何も言わず、床に散らばる硝子に目を向けた。


「……勇者様のことですから」

「?」

「勇者様はきっとご自身が壊したものに心痛めている筈です」


 細い指先が破片に触れる。


「ですが、問題ありません」


 そのまま、そっと破片を両手で包み込み、


「壊れたのでしたら、」


 聖女様はふっと微笑んだ。


「直せばいいだけの話ですから」


 瞬間、あり得ないものを見た。


「え――」


 散らばった破片が次々と浮いていき、

 天井に元通りのステンド硝子の聖母を形作っていった。


「……」


 痛みも忘れ、ただただその光景に息を呑んでいた。


「これで問題ありません」


 聖女様は目を細めた。


「勇者様、周囲の修復はお任せください」


 冷や汗が背中を伝っていく。


「ですから、勇者様は何度でも、」


 目の前にいる少女は間違いなく、


「私を殺しに来てください」


 病気の根源そのものだった。


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