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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
帰還世界編
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異常性

 目を開ければそこには、


 勇者の故郷が広がっていた。


 はしゃぐ子供。

 狩猟に出かける、男達。


 井戸で水を汲み、洗濯物を片付ける女たち。


 郷愁を誘うには十分すぎる光景だった。


 戻ってきたのだ、もう一度。この世界に。


 ――だけど、


 もう一度目を閉じて、開けてみる。


 ぬるりとべたつく、気持ち悪い感触と、鉄の匂い。

 燃え盛る炎が、村を、死体と化した村人全員を焼き尽くしていく。


 ――殺したのだ、俺がこの手で、


 吐き気や罪悪感はもう、湧いてこない。

 それが異常だと、


 俺が思い知る、最初の出来事だった。



* * *



 目を開けて、故郷が広がっていた時。

 俺は何の違和感もなく、『帰ってきたのだ』と思った。


 ()()()周囲を見た。


 魔法使いと剣士はどこだろうか。


 そう思えば、何故か肩を叩かれた。


「よう、勇者」


 村人だった。


「どうしたんだよ、帰ってきたのか」

「……村人」


 反射的に呼んで、違和感を覚えた。

 だが、何に対してそう思ったのか、分からない。


「久しぶりだな、元気にしていたか」

「……村人」


 また別の誰かを呼ぶと、またおかしな気がした。


「久しぶりに親父さんたちに会って行ったらどうだ?」

「ああ……」


 普通に提案され、それを受け入れそうになって、


「そういえば……」


村人がこんなことを聞いてきた。


「噂の聖女様はどうだった?」

「聖女様……?」

「ああ、お綺麗な御方だと聞いたけど、実際どうだった?」


 ――聖女様。


 銀色の髪を泉のように靡かせる、美しい少女。


 脳裏に過ぎったその顔が、全く別人の顔と重なって見えた。


『勇人』


 銀色じゃない。

 夜のような黒髪と瞳を持つ、

 また話したいと思う少女の名は、


「……梓」


 考えるより先に身体が動いた。


 前を歩く村人二人目掛けて、剣を振り下ろした。

 考えたら駄目だと、頭の片隅で理解していたからだ。


 殺した瞬間、吐き気が一気にせり上がってきた。


 ――吐くな。


 唇を噛み締め、唾を呑み込んだ。


 ――今は吐くな。


 手が震え、死体が転がる様に目を逸らした。


 ――今吐いたら、きっと、


 一気に駆け出していく。


 目についた子供や女や大人や老人も、片っ端から切捨てていく。

 何も考えなかった。


 考えてしまったら、きっと、


 二度と動けなくなってしまう。


 それが分かっていたからだ。


* * *


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 気が付けば、故郷は血の海と化していた。


 返り血に染まった状態で、息を切らし、

 そして、


「……う」


 吐いた。

 まともに立っていられなかった。

 剣を握る手は震えだし、まともに握れる状態ではなかった。


 なのに、


「おぎゃあ、おぎゃあ」


 赤ん坊の泣き声に、びくりと肩が震えた。


 顔を上げれば、泣き声はすぐ近くで聞こえた。


 死体として転がっている妊婦の死体だった。

 ちょうど臨月にさしかかったのだろう。


 胎児を守るようにして膨らんだ胎から、


「……え」


 小さな手が這い出てきた。

 そのまま、転がるようにして、それは生まれた。


 赤ん坊だった。


「おぎゃあ、おぎゃあ」


 泣き叫び、母を求める騒がしくも、可愛らしい姿に、


 心底ゾッとした。


 直後脳裏を過ぎったのは、随分前に思える記憶。


 妊婦の腹が裂かれ、赤ん坊が引き摺り出され、八つ裂きされた光景。


 最初、赤ん坊を引き摺り出したのは『魔女』なのかと思った。

 だけど、違った。


 妊婦の腹を裂いたのは、彼女じゃない。

 赤ん坊だったのだ。


「殺さないと……」


 本能的に理解した。


 これは新たな病原菌が生まれた瞬間だと。


 だから殺さないといけない。


 なのに、切っ先が震え、どうしても赤ん坊を貫けない。

 散々人を殺した癖に。


「違う、これは」


 これは人じゃない。

 

 人を蝕む、病原菌。

 ただそれだけだ。


 きつく目を閉じ、そう思い込み、

 目を開ければ、


 そこには赤ん坊の姿はなく、


 黒く歪んだ泥のような物体が蠢いているだけだった。


 その変化に息を呑み、安堵した。


 ――これなら、殺せる。


 そう思い、剣を振り下ろした。

 それでも何故か、こんな言葉が零れ落ちた。


「……ごめんな」


* * *


 それから、血の海と化した村を歩いた。

 あの赤ん坊と同じ例があるかもしれないからだ。


 幸い、あの一度だけで、他にはその気配はなかった。


「……」


 吐き気はもう、なくなった。


 と言うより、吐き気をなくしたいと思った瞬間、

 ()()()なくなってしまったのだ。


 それはどうしようもなく違和感が付き纏う、感覚だった。


『望んで叶わないことはない』


 錬金術師――先生の言葉を思い出す。


「……」


 ポツリと呟いた。


「燃やしたい」


 一瞬で、村が燃え上がる。


 ――こんな呟きにすら反応して、望みが叶うのだ。

 現実ではありえない光景で、


 なによりここが現実ではないと教えてくれている。


 そんな気がした。


「……行かないと」


 焔に呑まれていく村を背にして、俺は歩き出そうとした。

 瞬間、魔法陣が足元に現れる。


 身構えるより先に、察してしまった。


 ――これは移動魔法だ。


 魔法使いが良く使っていた、術式。


 俺は魔法なんか使えない。

 それでも、移動したいと願った瞬間、現れた。


『お待ちしています』


 儚げな声が聞こえた気がした。

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