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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
帰還世界編
37/53

渇望

「なんで、お前なんだよ」


 言葉は詰っているのに、その声は辛そうだった。



* * *



「何百面相してるんだよ、掃除中だぞ」

「……勝行」


 学校の掃除中、俺は声をかけられた。


 幼馴染みの平野ひらの勝行かつゆきだった。


「何がっかりした顔してんだよ」

「……してたか?」

「してたな」

「……悪い」


 一瞬、肩を叩かれた瞬間、梓かと思ったのだ。

 反射的に振り返り、勝行だと分かって、


 落胆に近い感情が広がったのは否定できなかった。


「九条さんか?」


 びくりとした。


「分かりやすいな、図星かよ」

「……悪い」


 笑う勝行に、俺は目を逸らした。

 何となく気まずく思った。


「喧嘩でもしたのか」

「喧嘩……」


『早く仲直りしてよね、兄さん』


 和葉の言葉を思い出す。

 仲直りと言われても、喧嘩したわけじゃない。


 むしろ、


「喧嘩の方が楽だったな……」

「なんだよ、急に」

「いや……」


 言い淀んでから、俺は言った。


「振られた」

「……は?」

「振られたんだよ、梓に」


 言葉にすると、ずしりと重みがのしかかってくる。

 そこまで重くないゴミ袋が、急に重くなった気がした。


「……冗談だろ?」

「冗談じゃない、俺は」

「冗談だろ」


 先程よりも強い口調で、勝行は俺の言葉を遮った。


 様子がおかしい。そう思い、振り返れば、憎悪にも近い眼差しが、俺を見ていた。


「あり得ないだろ、お前が振られるなんて」

「何言って、」

「お前が振られるわけがない」


 胸倉を掴むような勢いで、勝行は断言した。


「でないと、オレが、」


 吐き出すように、勝行は言った。


「オレが振られた意味がない」

「どういう意味だよ、それ……」

「言葉のままに決まってるだろ」


 真意を明かさず、勝行は俺を睨みつけた。


「オレがお前が羨ましい」

『オレは、お前が羨ましい』


 一瞬、前に聞いた言葉を思い出す。


「オレは誰かを羨んだことなんかなかった」

「……」

「羨まれることはあってもな」


 傲慢にさえ感じる言葉だが、勝行の場合は妙に納得してしまう。

 彼は何でも持っていたからだ。


「だけど、勇人。お前は別だ」


 睨みつけてくる強い眼差しは変わらない。

 なのに、同時に憎悪とはまた違う、感情にすり替わっていた。


「お前は俺が欲しいものを持ってる」


 理不尽なものを見るような目だった。


「正直、意味が分からないんだ」


 俺を睨みつけながら、何故か別のものを見ているような様子だった。


「なんで、お前なんだよ」


 答えをもらえず、途方に暮れているような、

 そんな声だった。


「…………」


 正直、なんと言えばいいのか分からなかった。

 目の前にいる幼馴染みは、俺に答えなんか求めてない。


「俺は、」


 だけど、何故かこんな言葉を口にした。


「俺はお前が羨ましかった」

 

 勝行からすれば、何の意味も持たない言葉かもしれない。

 何度も向けられた言葉かもしれない。


 それでも言わずにいられなかった。


「俺は何にもなかったから、なんでもあるお前が羨ましかった」


 ほとんど覚えていないはずなのに、何故かそんな感情があった。

 それだけは覚えていた。


「……過去形なんだな」


 ぽつりと、勝行が呟いた。

 顔を上げれば、勝行と目が合った。


「今は羨ましくないのかよ」

「今は……」


 首を傾げた後、俺は言った。


「今は勝行が近くに感じるな」

「なんだよ、それ。やめろよ気持ち悪い」


 失礼な言い草をされた直後、掃除の終わりを告げるチャイムが鳴った。


「やべえ、掃除道具片付けないと」


 勝行の言葉に、俺は我に返った。

 そういえば、俺もゴミ袋を持ったままだった。


 慌てて、片付けに向かおうとした直前、


「なぁ、」


 勝行に声をかけられた。


「なんだよ」

「今更だけどさ……」

「?」

「俺の名前、覚えてるんだな」

「は?」


 本当に今更な話だった。


「覚えてるに決まってるだろ」

「……そうか」

 

 どこかほっとした様子で、勝行は、


「なら、よかった」


 笑っていた。


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