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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
帰還世界編
33/53

姿

「聖女、様」

「はい、勇者様」


 震える声で呼べば、『聖女様』は嬉しそうに微笑んだ。

 あの世界の中で一番、貴女のことを考えていた。


 あなたがどうすれば自由になるのか、笑ってくれるか。

 ――幸せに、なってくれるか。そればかり考えていた。


 今も会えないと思っていた人に会えたら嬉しい。

 嬉しい筈なのに、俺は、


「……ですか」

「え?」


「梓は、どこですか」


 そんな言葉を呟いていた。


「……勇者様」


 『聖女様』は愁いを帯びた表情で、俯いた。


「私に会いたくなったのですか?」

「それは、」

「私は勇者様にこうしてお会いできたこと、とても嬉しく思っております」


 『聖女様』はゆっくりと顔を上げ、俺に近付いてくる。

 とっさに身構え、後ずさろうとした俺の手を、『聖女様』はそっと握ってきた。


「!」

「勇者様、どうかまた私に会いに来てください」


 慈愛と悲哀を併せ持った瞳と、目が合った。


「私、待っていますから」

「聖女様……」

「――勇人?」


 直後、切り替わる。

 そうとしか言えないぐらい、あっさりと。


 『聖女様』は、『梓』になった。


「勇人、どうしたの?」

「あず、さ……」

「何?」


 何かを言おうとした。けど、音にもならず、そのまま何も言えなかった。

 そんな俺に何を思ったのか、梓がポツリと呟いた。


「……そんなに似てる?」

「え」

「私。聖女様と」


 頭を殴られたような衝撃が襲った。


「勇人は聞いてるんでしょ? 私の今の状態」

「……ああ」


 梓は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの対睡眠過剰症候群用のヘルメットは、

 いくつものルールを順守しなければならない。


 とはいえ、ある意味拍子抜けするような規約ばかりだった。


 無茶をしない。

 深追いしない。

 現実と常に意識し続け、夢に呑み込まれない。

 

 睡眠過剰症候群の患者のためというよりも、

 ヘルメットの使用者の安全を優先する項目ばかりだった。

 

 そんな中で特に念押しされる項目が存在する。


 ――決して可能だと考えても、患者のために自己を犠牲にしない。


 患者は夢を現実だと考えている。

 万が一夢で重傷を負えば、脳が現実で負った傷だと誤認し、

 そのまま帰らぬ人になるケースがある。


 その傷をなかったことにすることが、ヘルメット使用者にはできる。

 ただしそれは絶対に()()()()()()()()()()()()()


 重傷を負ったと思うなら、患者を見殺しにする必要性があった。

 それが深追いしてはいけない項目に該当する。

 

 現実だと考える患者の意識とリンクしすぎてしまい、

 結果、多少なりとも脳にダメージを負ってしまう。


 その隙を病原菌は見逃さない。

 ただでさえ、ヘルメット使用者によって、患者の世界は滅茶苦茶になり、

 病原菌に不都合な世界に成り果てている。


 そんな危機状況を脱するために、病原菌は新たな宿主を求める。


 それが、患者と近しく、更にダメージを負ったヘルメット使用者になるのだ。

 

 患者と近しければ、

 患者と同じような価値観や交友関係が近い可能性があるからだ。


 そのため病原菌は古い宿主を捨て、新たな宿主に移る。


 結果、ヘルメット使用者は睡眠過剰症候群に陥ってしまうのだ。


 ――梓は今、そんな状態に置かれている。


「なんであんなことしたんだよ……」

「……」

「俺なんか見殺しにすればよかっただろ」


「勇人ならできたの?」

「え……」

「勇人なら、私を見殺しにできる?」

「それは、」

「私はできなかった」


 断言した後、梓は言った。


「聞きたいことがあったから」

「……前にも言ってたな」

「教えて、勇人」


 梓は真っ直ぐに俺を見て、問いかけた。


「私に告白したのは、本当に私の為?」

「え、」

「それとも聖女様と間違えて?」

「なんで、そんなこと聞くんだよ」


「だって、勇人言ってたじゃない」


 告白した直後、そのまま倒れてしまい、意識朦朧とする俺は、

 抱き起こそうとする梓に言ったらしい。


『――聖女様』


「――って」


 殴りつけられたような衝撃を受けながら、ぐわんぐわんと梓の声は響き渡る。


「あの日からずっと気になっていたの」


 梓の目は、真っ直ぐに俺を捉えていた。


「教えて、勇人」


 投げかけられる問いかけに、俺は、


「結局、勇人の好きは、誰のもの?」


 答えられないままだった。

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