剣士
見る者を圧倒する大柄で、長身の男。
だというのに、不思議と威圧感を与えないのは、人懐っこい笑顔を常に浮かべているせいか。
彼の名は剣士。
言うまでもないが、勇者と魔法使いと共に英雄となった一人だった。
「ちょっと聞いてよ、剣士」
「なんだよ、また聖女様絡みか」
「またとかいうな。というか、そんなに聖女様絡みで、俺が悩んでいるように見えるのか?」
剣士のからかいに、反論しようとする勇者だったが。
剣士も魔法使いもきょとんとした。
「いっぱいあるだろ。というかほぼ毎日だろ」
「まさか気付いてなかったの? ちゃんと自覚しなよ」
真顔で言い返されてしまった。
そんなことはないと言いたかったが、確かに最近聖女のことばかり考えている。
その自覚は多少なりともあったから、言い返せずに黙り込むしかなかった。
そんな勇者の様子に、二人は笑いながら、
「ごめんってば、勇者」
「仕方ないだろ。聖女様は……」
「はいはい。お前が聖女様大好きなのはよく分かってたから」
「全然謝る気ないだろ……!」
「だって、事実だししょうがないだろ」
「剣士、お前な!」
「はいはい、勇者。抑えて抑えて」
誰のせいだ。勇者は魔法使いを睨んだものの、魔法使いはどこ吹く風だ。
「でさ、剣士。もし勇者が聖女様に告白するならどんなシチュエーションがいいと思う?」
「勝手に話を進めるな」
「そうだな、やっぱり花束を贈ればいいじゃないか? 花を贈られて喜ばない女性はいないだろ」
見かけによらず、剣士は女性によくモテる。
見た目とは裏腹に、女性に優しく、丁寧な物言いするためか、贈り物を受け取ることも少なくない。そのお返しを考えるのも、剣士にとっては日常茶飯事だった。
「いきなり花束なんか渡されたらちょっと重くないか?」
「そうかぁ? オレが贈ったら大抵喜ばれるぞ」
「それは剣士だからだろ……」
「うーん。じゃあ、プロポーズも兼ねて指輪とか!」
「そっちの方がもっと重いだろ!」
魔法使いの嬉々とした提案も、勇者はすかさず却下した。
魔法使いは不満げに「えーっ」と声を上げた。
「なら、勇者は何ならいいのさ」
「だから、俺は……」
「言った方がいいと思うけどな」
剣士は勇者に言った。
「言わずにずっと仕舞っておくにも限界があるだろ」
「相手は聖女様だぞ」
「けど、聖女様も一人の女性だ」
咎めるように言った剣士に、勇者は思わず言葉を窮した。
「聖女様は崇高な存在で、同時に罪人でもある。そんな感覚が誰の中にもあるから、いつまで経っても『聖女』はなくならない。あの方は救われない」
「……」
「むしろ、誰かが言わないといけないんだ。聖女様だって、人間なのだと」
「……」
「勇者。お前が聖女様に気持ちを伝えることで初めて何かが変わるかもしれない。そうは思えないか?」
「それは……」
言われて初めて気が付いた。
俺は聖女のことを考えていると言いながら、その実全く考えていなかった。
罪人として教会に縛られる姿を嘆きながら、一方でこう思っていた。
あの方は聖女だから、教会で神に仕えているから、
自分には遠い存在だから、
崇高な存在だから、
銀色の髪が流れる後ろ姿を仰ぎ見るだけで、
自分は満足していて、
決して彼女に自分から踏み込もうとはしなかった。
「……剣士、魔法使い」
「うん」
「おお」
「悪い、これから迷惑かけるかもしれない。けど……」
勇者は強い覚悟を持って、二人に告げた。
「また力を貸してくれ」
「もちろん」
「当たり前だろ? ま、骨は拾うから、安心して行ってこい」
「言ってろ」
軽口を叩き合いながら、勇者は教会へと再び足を向けた。
今も己の存在を罪として咎めながら、必死に皆のために祈り続ける。
銀色の髪を持つ一人の少女に逢うために。




