背中
「兄さん、何やってるの?」
図書館に行こうとすれば、声をかけられた。
振り返れば、見知った顔がこちらを見下ろしていた。
「……和葉?」
――如月和葉。
俺の妹であり、高校では、俺と梓の後輩にあたる。
同時に、魔法使いによく似た相手でもある。
「なんだよ、急に呼び止めて」
「梓さんのこと」
「梓がどうしたんだよ」
和葉は梓を慕い、ことあるごとに『俺』に対して、告白を促していた。
そんなところもまた、魔法使いによく似ていた。
「兄さん、聞いてるの?」
「……ああ、聞いてる」
「聞いてないでしょ、その顔は」
ため息を吐きながら、「帰り道」と呟いた。
「一緒に帰ってるんでしょ」
「荷物持ちだけどな」
梓が倒れた日から、俺は梓の荷物を持つようになった。
具合が優れない梓の荷物を持ち、家の近くまで見送る。
それが『俺』の日課になっていた。
「荷物持つのはいいけど、なんで後ろにいるの?」
「後ろ?」
「梓さん」
和葉が仁王立ちになって睨みつけてくる。
「なんで兄さん、梓を置いて先に歩いてるの?」
「それは、」
「歩調合わせてあげなよ、兄さん」
言われてなくても分かっている。
最初は、具合の悪い梓を置いて、先に歩くのはどうかと思った。
――梓は『俺』の後ろを歩こうとする。
歩くのが早いのかと思った。
だけど、そうじゃない。
『勇人が先に歩いていていいよ』
そんなことを言って、あくまでゆっくりと歩く。
『なんで後ろ歩くんだよ?』
『なんとなく、後ろ歩きたくなったから』
『……俺の真似か?』
『そう、勇人の真似』
冗談で言えば、笑って返される。
『思ったんだけど、勇人の後ろ姿って初めてかも』
『そうだったか?』
『そうだよ』
何故か感慨深そうに、梓はしみじみと言った。
『いつもは私が前を歩いてたから』
そう言われたら、『夢』で見た光景は、いつも後ろ姿を見る視点ばかりだった。
あの後ろ姿は、梓のものだったのかもしれない。
『勇人の見ていた光景って、こんな感じだったんだね』
何気ない言葉だった。
傍から見れば、青春の一部を切り取った言葉に聞こえたかもしれない。
だけど、その言葉に、『俺』の中で何かが込み上げてくる。
『……梓?』
『何?』
振り返って、声をかければ、梓がいる。
『……いや、呼んでみただけだ』
『何、それ』
笑う梓はやっぱり、『俺』の後ろを歩いていく。
声をかけて、何気ない会話をして、時々振り返って。
梓がいることを確認する。
それもまた『俺』にとっての日課の一部になっていた。




