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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
現実世界編
26/53

気付き

 気付いたことがある。

 例えば、道ですれ違う誰か。

 家族の誰か。友人の誰か。学校の中で笑い合う声の誰か。


 名前すら覚えていない、それどころか知り合いですらない誰か。

 その顔が、あの世界で出会った誰かによく似ていた気がする。


 顔が似ていなくても、仕草や声に覚えがある。

 あの世界で見たことがある。


 睡眠過剰症候群に出てくる世界は、魅力的であると同時に、

 病原菌が見せてくる何かは、患者自身が見聞きにした情報による部分が大きい。


 鬼頭先生が教えてくれた。


 ――なら、腑に落ちる部分がある。


 顔は似ていないのに、勝行の人懐っこい笑顔は剣士に通じるところがある。

 あとは、


「如月勇人」

「!」


 顔を上げれば、眼鏡をかけた神経質そうな顔がこちらを見下ろしていた。


「全く……。きちんと授業を聞いていたのですか?」

「すみません……」

「謝罪は要りません。真面目に授業をよろしいのです」

「はい、分かりました」

「全く……」


 わざとらしいため息を吐きながら、くるりと後ろ姿を見せた。


「席を立ちなさい。そして、四十ページから、私がいいと言うまで読み上げなさい」

「はい」

「全く……」


 立ち上がって、『俺』は教科書を読み上げていく。

 その合間にちらりと、授業を受け持つ教師の顔を見た。


 教師の名前は牧村まきむら信二しんじ

 彼は、聖女様を管理していた神父に似ていた。


 それは聖女様にも当てはまる。

 聖女様は髪や瞳の色は違うものの、九条梓と全く同じ容姿、声を持っていた。


『勇人の好きは私じゃない』

『聖女様のものなんでしょう?』


 梓の言葉が脳裏を過ぎる。

 『勇者』だったころ、聖女様に思いを寄せていた。

 同時に、『如月勇人』は昏睡状態に陥る直前まで、九条梓を想っていた。


 なら、今の『俺』は?


 どちらが本当に好きだった?

 どちらにどちらを重ねていた?


 そもそも『俺』は、誰かを好きになる資格があるのだろうか?



* * *



「どちらを選んで頂けると思いますか?」


 銀色の髪が揺れる。


「あの方は、どちらを選んで下さるでしょうか」


 祈りを込めるように、白く小さな両手を重ね合わせる。


「私を選んで頂けたら、幸せなのですが……」


 可憐さを具現したかのような声で、そんなことを呟いた。


「……あなたは?」


 美しい瞳がこちらを映す。


「あなたは、あの方がどちらを選んで下さると思いますか?」


 その問いに答える前に、


『――梓』


 私の名を呼ぶ≪彼≫の声が聞こえた気がした。



* * *



「梓?」


 心配げに呼びかけてきたのは、勇人だった。


「……」


 一瞬意識が混濁し、ここがどこだと見渡した。


「保健室だ」


 理解する前に、勇人が答えてくれた。


「梓、授業中倒れたって聞いた」


 ――ああ、そうだ。


 教室で、先生に当てられて。

 黒板の前で、問題を解こうとした瞬間。

 急激の眠気に襲われて、それから、


 記憶がない。


「梓……大丈夫か?」


 不安げに見つめてくる勇人に、「大丈夫」とは答えなかった。

 代わりに、別のことを聞き返した。


「勇人、今何時?」

「え、ああ。放課後だけど」

「じゃあ、帰らないと……」


 起き上がろうとすると、勇人が「送っていく」と言った。


「いい。一人で帰れるから」

「そんなふらふらなのにか」

「ふらふらでも、自分の家ぐらい帰れるから」

「梓――」

「勇人」


 心配されるのが嫌なわけじゃない。

 だけど、それでも私は勇人の言葉を遮った。


「授業ちゃんと受けた?」

「受けたけど」

「私が倒れるまで?」

「……そうだけど」

「勇人。授業はちゃんと受けて」


 瞬間、勇人の目が見開いた。

 気付かない振りをして、私は言った。


「病気のせいで、勇人は授業に遅れがちだから」

「……」

「せっかく退院したんだから、挽回しないと」

「俺のことより、梓の方が」

「それを言うなら、勇人の方でしょ」


 断言した。


「私は私で大丈夫。勇人は自分のことを優先して」

「……」

「病気、治ったんだから」


 勇人は黙っていた。

 しかし、ポツリと呟いた。


「俺、頼りないか?」


 独り言にも似た言葉に、私は答えなかった。

 それが答えになるような、そんな気がしていた。

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