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最弱の勇者は、最強の魔女に世界を壊される。  作者: ぺんぎん
現実世界編
24/53

拒絶

「勇人?」


 ハッと我に返れば、勝行が怪訝な顔をしていた。


「お前、大丈夫かよ?」

「ああ、悪い。大丈夫だ」

「ホントかよ……?」


 心配されるのが、妙に居心地が悪かった。


「……あ」


 長い黒髪が目に映る。

 彼女だ。


「梓……」

「…………」


 眠そうに目を擦りながらも、梓と目が合った。

 黒い瞳に自分が映っただけで、何故か心臓の音が早くなる。


 だけど、


「…………」


 梓は何事もなかったかのように、『俺』と勝行の横を通り過ぎていく。

 その姿が酷く苦しく感じた。


「お前ら……喧嘩でもしたのかよ?」

「…………別に」


 勝行の言葉に、『俺』は答えられなかった。



* * *



「俺はなんで生きてるんですか……?」


 滑稽な話だ。

 世界の為の行動が、結果的に自分の首を絞めていたなんて。


 にもかかわらず、生きていることが不思議でならなかった。


「彼女のおかげだよ」


穏やかな瞳が、眠る少女に向けられる。


九条くじょうあずさ君。彼女のおかげで、君は命を取り留めた」


 どういうことなのか。また聞こうとして、

 脳裏を過ぎる姿があった。


「……魔女、ですか……?」

「ああ、そうだ」


 あの世界を滅ぼさんとした、最強の力を持つ『魔女』の姿。

 それが眠る少女と重なった。


「彼女は『魔女』として、君の『あの世界』に現れた」

「現れたってどうやって……」

「…………睡眠過剰症候群の患者を救う手立ては他にもあるんだ」


 それが『俺』と彼女が被っていたヘルメットに隠されていたらしい。

 

 あれはただのヘルメットではなく、

 第三者と患者の脳――意識を繋げることができる仕組みが備わっていた。


「これを被るだけで、第三者が患者の意識、夢の中に入り、干渉することができる」


 第三者は患者に近しい者であればあるほどいい。

 患者の世界に入り込みやすく、また患者がその相手を意識しやすくなるからだ。


「患者にとって病が見せる世界は魅力的だ。だから、干渉することで逆に思わせればいい」


 ――素敵だ、魅力的だ。素晴らしい。

 ――この世界は、患者じぶんにとって都合が良い世界だ。


 患者を救うには、その認識を覆す他ない。

 第三者は世界に干渉し、患者の都合の悪いことを次々を行っていく。


 つまり、第三者が患者に都合のいい世界を生み出す病原菌を殺していく。

 それによってその世界の均衡は崩れ去り、やがて壊れていく。


 壊れる世界を嫌えば、患者は半強制的に昏睡状態から目覚めることができる。


患者おれが、あの世界の中で、『魔女』を討てなかったのは……」

「明晰夢のようものだよ。『あれ』が現実だと思っている君よりも、夢だと思って行動する彼女の力の方が強い」


 夢の中で願いが叶うのは、干渉してくる第三者にも適用される。

 もっとも、その願いに溺れたら帰ってこれなくなるリスクもあるが。


 だからこそ、この世界は夢だと割り切り、

 その力を逆に利用し、病原菌が生み出す世界を壊したいと望む。


 たったそれだけで、病原菌は殺されていく。


「何より君が彼女の存在を意識してくれたのも大きい」

「俺が?」

「そうだよ」


 どんな感情であれ、世界を壊していく存在を認識すればするほど、

 その存在の力は強くなっていく。


 何故ならそれは、『俺』が九条梓という『現実』を直視しているのと

 殆ど変わりないからだと告げられた。


「だからこそ、君は戻ってこれた」

「俺は……」

「全ては彼女のおかげだ」



* * *



 それから『俺』は、『梓』が起きるまで待ち続けた。

 こうしてみれば、普通の少女と何ら変わりない。


 長い黒髪が流れる様は、『魔女』を彷彿とさせた。


 守られていた。

 ずっと、敵だと思っていた相手が、実は自分を救おうとしてくれた。


 そんな状況をすぐに呑み込めるほど、混乱が収まっていない。

 そもそも、彼女は何故、『俺』を、


「助けてくれたんだ……?」

「聞きたいことがあったから」

「!?」


 独り言に答えが返ってくるなんて思わなかった。

 ヘルメットを着けたまま、ゆっくりと彼女は上体を起こした。


 ヘルメットが外される。

 綺麗な黒い瞳と、目が合った。


「……梓」

「勇人、久しぶり」


 嬉しそうに笑う彼女は、他の誰かを彷彿させた。


「元気? 体調は? 大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫、だ……」

「そう、よかった」


 妙に緊張してきた。

 一方でこのやり取りがどこか懐かしさを覚えた。


和葉かずはちゃんも心配してたのよ」

「…………和葉?」

「勇人の妹よ」

「妹……。妹がいたのか、俺……」


 そうだ、あの世界で何度も『兄さん』と呼ぶ声を思い出す。

 あれがもしかして、俺の――


「勇人」

「……っ。な、なんだよ」


 『勇人』と呼ばれる度、びくりとした。

 違和感がそうさせているとかではなくて。

 むしろ、逆のような――


「勇人は覚えてる?」

「え」

「私に告白したこと」


 ――告白。

 瞬間、思い出す。


 初めて夢を見た時、『俺』は誰かに告白していた。

 

 好きだって。

 あれは彼女に向けた言葉だったのだ。


「あの告白の返事だけど……」

「ああ……」

「断るわ」

「…………え?」


 冷たい水を一気にかけられた気分だった。


「私は勇人の気持ちには応えられない」

「……な、んで」


 無意識にそんな言葉は零れ落ちた。


「それは……」


 一瞬躊躇する素振りを見せた後、梓は言った。


「勇人の『好き』は私じゃない。『聖女様』のものでしょう?」

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