状況
教会の中で静かに祈りを捧げる少女がいる。
銀色の髪は、泉に広がる波紋のように、長く光を放ち、
少女の神秘性を際立たせる。
誰に祈り、誰のために祈っているのだろうか。
この流れだと、神様に対してかもしれないけど。
事の真意はそれこそ少女にしか分からない。
すると、少女はゆっくりと立ちあがる。どうやらこちらに気付いたらしい。
少女は振り返ると、息を呑みつつも、慈愛に満ちた微笑みを湛えた。
「初めまして、どのようなご用件でしょうか?」
鈴が鳴るような、儚くて壊れそうな声音だった。
――≪彼≫はこんな少女だからこそ、好きになったのかもしれない。
* * *
「鬼頭、先生……?」
聞き覚えのある名前は、どこか遠くの日々に置いてきた忘れ物に近い感覚だった。
「覚えていないのも無理はない。勇人君、君からしたらあちらでの生活の方が長い」
名前の風習はないに等しい世界だったから。
白衣を着た錬金術師、いや鬼頭先生は『俺』に優しく気遣ってくれる。
「勇人……」
「君の名前だよ。覚えはあるかい?」
「一応は……」
聞き慣れない『勇人』という響きが、『俺』の名前に当たるらしい。
「あの……」
「うん」
「聞いていいですか?」
「勿論だ」
『俺』は少し迷い、状況を整理することから始めた。
「俺の名前は『如月勇人』って言うんですか?」
「ああ、そうだよ」
「年は?」
「十六歳だった筈だよ。ああ、でも来月辺り君の誕生日があるから、
十七歳って言った方が正しいかもしれない」
その後、鬼頭先生は知る限りの情報を教えてくれた。
『俺』の名前は如月勇人。
公立高校と言う学問を学ぶ機関に所属しているらしい。
両親と妹の四人家族で、『俺』は鬼頭先生の患者で、病院によく通っていたらしい。
『俺』は困惑して、尋ねた。
「俺は、どこか悪かったんですか……?」
「そうだね」
穏やかに、鬼頭先生は肯定した。
「珍しい病名でもないけど、だからと言って軽い病気でもない」
「……なんですか、それって」
「――睡眠」
先生は静かに『俺』の病名を告げた。
「睡眠過剰症候群。それが君の病だよ」
主人公の病名はフィクションであり、現実の病名とは一切関係ないので、ご了承ください。




