歪み
先程うっかり19話と同じ内容を20話に更新してしまいました。
申し訳ございません。直したため、引き続き読んで頂けたら幸いです。
「また……」
絶望にも似た声が、耳から素通りしていく。
見渡せば、死体が次々と溶けていく。
異様な光景だった。
「……」
前まで、これも『魔女』の仕業だと思い込もうとしていた。
だけど、これは――
「魔女のせいよ」
「!」
見透かされたように、魔法使いが断言した。
「全部全部、魔女のせいよ」
「そうだろ、勇者」
魔法使いだけでなく、剣士も詰め寄ってくる。
「俺は、」
死体の山が築かれるのは、辛い。
絶望すら味わってしまう。
悲しい。
無力感が襲ってくる。
「「勇者」」
二人の言葉に頷くべきだ。
それが一番正しい筈だ。
なのに、『俺』は、
「……っ」
それでも頷けなかった。
何かがおかしい。
ずっとそう思ってきた。
魔女に出会ってから、錬金術師の忠告を聞いてから、
夢を見るようになってから、
剣士が生きていると知ってから、
何かがおかしい。
なのに、何も違和感を感じない。
当たり前に、『ここ』にいる自分が、何故かおかしく感じてしまう。
「「勇者?」」
呼びかけられ、殆ど無意識に顔を上げかけた時。
ふと、違和感の一端に気が付いた。
「なあ、俺の名前って何だっけ?」
「え? 何言ってるの?」
「勇者だろ」
「違う」
反射的に納得しかけて、意識的に否定した。
「それは俺の『称号』だろ」
「え?」
「俺は、勇者になる前、何ていう名前だった?」
二人は黙った。
「……なんでそんなこと聞くの?」
「勇者でいいだろ」
「よくないから言ってるんだ」
二人の言い分に、『俺』は必死に言い募った。
「ドラゴンを倒す前、俺達は故郷に住んでいた」
「……そうだけど」
「なら、俺もお前らも、名前がないとおかしいだろ」
ドラゴンを倒すために、故郷を旅立った。
三人で旅に出た。国王に、授けられた称号を胸に抱いて。
胸が熱くなるような思い出も、今は焦燥感しか生まれない。
名前よりも、勇者という呼び名がしっくりくるようになった。
だが、自分の名前を忘れる筈がないのに。
『俺』は自分の名前を覚えていなかった。
「魔法使い、剣士、教えてくれ」
二人を目の前にして、『俺』は必死になって尋ねていた。
「俺の名前は何だった?」
二人は答えなかった。隊員すらまともに声を上げなかった。
異様な雰囲気に気付き、再度『俺』が口を開きかけた時、
「……勇者じゃない」
「え?」
「捕まえて」
能面のような声だった。
何が起きたのか分からない。
あっという間に隊員達に取り囲まれた。
「何――」
「黙れ」
押し潰されるような圧迫感。
剣士に取り押されたのだ。
「く、あ……」
苦しい、何が、
「あんたは勇者じゃない」
魔法使いが感情の乗らない声で、勇者を見下ろしていた。
「だから殺さないと」
「なに、を」
「剣士、早く勇者を殺して」
「了解」
息ができない。
動けない。
何が、起きて、なんで、こんな、
切っ先が突き付けれる。
――殺される。
「じゃあな、勇者」
軽い声と、剣が『俺』の首を切り落とす、筈だった。
「あ……」
黒が顔中にべったりと流れた。
剣士が倒れる。
剣士が溶ける。
「はあ、はあ……」
呼吸を乱す中、長い黒髪が目に映る。
「ま、じょ……」
「……」
空はどこまでも澄んでいるのに、その姿は夜を思わせた。
なのに、不思議な程、『俺』はその姿が、
酷く懐かしいものに思えた。




