加護
魔女討伐隊が招集され、出陣される日。
隊員達は一人一人、聖女の加護を受けた。
「貴方に祈りを捧げます」
銀色の髪に、紅の瞳。
その上、聖女の背後を照らす窓の光が一層、その姿の神秘性が増す。
「ご武運を」
言葉はあまりに簡潔で、ともすれば呆気ないものだったが、
聖女の加護は神の加護を受けられることに等しい。
だからこそ、罪人と言われようが、聖女の姿に涙する者さえいた。
勇者もまた聖女の加護を受けた。
「ご武運を」
「はい、御身の為この身を捧げます」
その日、交わした言葉はそれだけだった。
だが、それだけで十分だった。
「よかったの?」
「何がだよ」
「もう少し、話せばよかったのに」
「他にも隊員がいただろ。俺だけが話す訳にもいかない」
「そうだけど……」
不満げな魔法使いに、勇者は言った。
「帰って返事を聞く」
「!」
「聖女様と約束した」
「勇者……」
「だから、別にいいんだ」
魔法使いの視線に気恥ずかしくなり、ぶっきらぼうに言った。
すると、魔法使いは嬉しそうに笑った。
「よかったね、勇者」
「……」
からかわれた方が楽だったかもしれない。
「まだ返事聞いてないだろ」
「そうだけどさ……」
その後、魔法使いの視線を意識しないよう、前方を見た。
そうだ。帰ればいい。
『魔女』を討伐して、帰って、聖女が待つ国へ戻る。
そうすれば、気の迷いなど消えてしまう筈だ。
(だから、俺は――、)
『兄さん』
「え――」
声が、聞こえた。
* * *
「兄さん」
『妹』の声に『俺』は振り返った。
「なんだよ、『 』」
「兄さんは進路どうするの?」
「決めてないに決まってるだろ」
「威張ることじゃないと思うけど」
威張っているつもりはなかったのだが。『妹』は呆れている様子だった。
「お前こそ、進路どうするんだよ」
「ふふん。兄さんに心配されなくても、進路ぐらい決まってるし」
「そうなのか?」
「推薦貰えるぐらいにはね」
『妹』は胸を張って誇らしげだった。
「来年から兄さんと同じ学校だよ」
「げっ」
「なんでそんな声が出るの」
「出るに決まってるだろ」
『妹』はとにかく優秀だった。
幼い見た目とは裏腹に、文武両道を地で行くタイプだった。
昔は劣等感を覚えたほどだった。
「そういえば、兄さん」
「なんだよ、進路なら――」
「『 』さんに、もう言ったの? 『好きだ』って」
「ごほっ」
思わずむせた。
「その様子だとまだ言ってないんだ」
「お前には関係ないだろ」
「あるよ。将来の義理の姉さん候補だもん」
「気が早すぎるだろ……」
「兄さんが告れば万事うまくいくと思うの」
「いかないだろ」
これが嫌だから、同じ学校になるのが嫌なのだ。
多分、後輩になった暁には、事あるごとに『告白しろしろ』と言うに違いない。
「全く、兄さんは……」
「大体、できるわけないだろ」
自嘲気味に吐き捨てた。
「あいつに告白なんて」
「……最初から諦めるなんてよくないと思うの」
「……」
妹の正論が息苦しくなり、『俺』は部屋に戻った。
考えないことはない。
もし、『君』に好きだと伝えたら。
『君』は一体、どんな顔をするだろうか?
* * *
「勇者?」
「え――」
魔法使いが顔を覗き込んできた。
「悪い、聞いてなかった」
「別にいいけど、見張りをやりながら、寝てたの?」
「え?」
見渡せば、辺りはすっかり夜に沈んでいた。
「勇者、自分から買って出たんじゃない。見張りは自分がやるって」
「俺が?」
「うん。でも、またぼうっとしてたから、声かけて見たの」
「そう、だったのか……」
全く記憶になかった。
「見張りは私に任せて、勇者は少し横になりなよ」
「分かった」
魔法使いの厚意に甘え、隊員達が横になる中で、勇者も地面に横たわった。
『兄さん』
最近、夢を見る。
夢を見れば、何故か記憶がない。
同時に、どんな夢を見ていたのか覚えてすらいない。
ただ、今回見た夢に出てきた声は、
『兄さん』
魔法使いの声によく似ている気がした。




