Ep.2《衝撃》
「...えええ”え”え”えええぇえぇえ!!!!?」
自分の頭上の食人植物が老人にかぶりつき、死にそうになっている老人が普通に挨拶をしてきた。
今までこんなおかしな場面を見たことはあっただろうか。
いや、今はそんなことを思っている場合ではない。
「だだだ大丈夫ですかあぁ!?」
「あー?.........飯?」
「ちがう!」
_だめだ、俺が助けに行かないと...
「...!」咄嗟に斧が目に入り、俺はそれをもって駆け出した。
魔物と戦うことはあまりしたことがない。だが、
それで判断を遅らせては時期に老人が消化されてしまう。
___なんてことはない。いつもやっていることだ。
落ち着け、俺。
「スゥッ――――――」
一度そこで大きく息を吸う。
「っ!!」
走り出して5秒後、
「...っとぉ」
俺は老人を抱えて地面へと着地した。
(っ! こ奴!?)
老人はその瞬間を見切っていた。
俺が走りだして一秒後。適当な木の前で跳び、訓練と同様にその木を蹴って段々と自分の高度を上げる。
老人がいる約5メートルほどまでを2秒で駆け上がり
普通の剣ならまず一発で切れないであろう太い食人植物の茎を、
その速さを維持した勢いで斧を振りかぶり、ぶった切る。
それにより、落ちて地上へと下降を始めた老人と同じ速さでまた木から木へと移り
地面へと向かう。
上から見ると残像で円を描いているように見えるだろう。
そして老人よりも早く着地地点へと向かって老人をキャッチする。
これが先ほどの5秒間の流れだ。
「だ、だいじょじょうぶですか、かっかか、か」
初めて人命にかかわる行動をして、行動の後に緊張が追い付いてきた。
言葉からもその緊張が目に見えているだろうと思い、余計恥ずかしい。
「お、おう。大丈夫じゃ......それより」
「はい?」
「お姫様抱っこを他人に見られると双方に多大な誤解が生じると思うので早く下ろしてもらったほうが最善と考える」
数秒の沈黙の後、俺はその何たる気持ち悪さを覚え、老人を投げだした
「うひゃあ!」
「どべちっ」
ご老体の顔面が地面にたたきつけられる。
「ああぁぁあ!すいません!すいません!
お、おおお、お怪我は!?」
地面に顔をつけたまま老人は答える。
「正直今ここにたたきつけられたことのほうが痛い。」
「あああぁぁあぁ、どどどどうすれば...」
慌てふためくおれの思考を置いて、老人は思う。
(さっき見せたあの身のこなし、ただ者ではないが、それにしてもこんな子供が?
______もしかしたら、この子なら)
「あ、あの!!」
「うおう!?」
俺の顔のドアップに老人が一瞬引く。
「な、なんじゃ!?ぐふ」
俺は躊躇なく老人の顔に薬を塗りたくる。
(!? ガパイラ草の塗り薬?... しかし、これは帝都の技術でしか手に入らないはず
いや、それよりも重要なガパイラ草の特徴があった気がする、はっそうじゃ!)
「くっさあぁ!!」
老人が思わず飛び上がる。
「すいません!これ臭いはすごいけどよく効くんです!」
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ガパイラ草...
主に打撲傷などの塗り薬になる。良く効くが加工後に強い刺激臭が発生する。
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~~~~~~~~~~~~~~~~しばらくして~~~~~~~~~~~~~~~~
「えー、先ほどは大変なご迷惑をおかけしました。」
俺は誠心誠意をすべて使って謝罪した。
「ふむ、そんなことはどうでもいい。
だが、一つ聞きたいことがあってな」
まったく気にしていない様子の老人が、俺に尋ねる。
「はい、俺の知ることなら、できる限り応えます。」
俺はいろんなことを覚悟して話を聞くことにした。
助けたいいいものの、そのあと色々失礼な感じで投げ飛ばして挙句の果てにくさい薬を塗りたくられる。
普通の人なら殴り飛ばしてもおかしくはないだろう。うちの父さんならたぶん殺してる。
「お前のあの身のこなし。どこで覚えた、この村ではあれが普通なのか?」
「え...」
自分の予想とは少し違う方向の質問が来たので少し戸惑ったが、俺はその問いに答える。
「じ、実は...」
俺は修行の内容やその発端などを説明した。
「ほぉ、なるほど」
老人は一通り話を聞くと白いひげに隠れた口に手を当て、考え始める。
(傷がみるみるうちにうちに修復じゃと、この時代にまだ失われた技術を持ったものが!?)
「あの、すいません。俺そろそろ修行戻りますね。いろいろ迷惑かけて、すいませんでした」
後頭部に手を当てて、少し会釈をしながら俺は修行に戻ろうとした。
「まて」
少し深い声で老人が俺を止めた。
「お前、名は何という?」
突然聞かれ、少しおぼつかなかったが、俺は答える。
「ランス...ランス・D・オズワルドです。」
「そうか...ランス、お前は魔術師になりたいといったな。」
俺はこの質問を受けた時、次の回答がどうあれ。絶対にこうやって答える。
相手の目を向いて、雑念を捨てて
「はい」
(____澄んだ目じゃ......うむ)
「ランス」
「あ、っはい!」
次の瞬間。このお世辞にも大柄とは言い難い、白くて長いひげを持つ小さな老人から、
大きな衝撃を受けた。
「お前を、魔術学校に入れてやる。」