遥、着こなす
山本くんの悲痛な叫びに、立ち止まってみたけれど、今まで付いていなかった物から伝わってくる快感。
不用意にそれに触ってしまったのが間違いだった。
全身が震えたと思うと、体中の神経が、そこに集中して…射精してしまった。
”佐藤さん、俺、恥ずかしくもないし、言い訳もしないから”
”うん、驚いたけど、ごめんね。余計なことしちゃって”
”いいさ。どうせ、記憶の中で…そんなことも知られちゃうんだから”
大山監督は、私に動かないでと言い、床に散らばった惨状を綺麗にした。
そしてタブレットを操作しながら注意される。
「遥、山本くんの性器に不用意に触れることは厳禁です。事故として処理しましたが、次は言い訳できませんよ」
男の子の仕組みを大山監督と山本くんから教わる。
「監督、もう少し動いてみたいのですが」
「焦らないで、ちょっと考えてみましょう。何か方法があるはずです。他の参加者も同じようなことを乗り越えているはずですから」
”ねぇ、俺達さ、意識しすぎているんじゃないのかな?”
”意識しすぎ?”
”うん。たった数歩、歩くだけであれだけ大変だったのにさ。感覚だけいつも通りで、しかもお互いの体の感覚が、お互いにあるって変じゃないのかな?”
”そうなの?”
”俺、体どころか、瞬きさえもできないんだよ。感覚だけある方がおかしいよ”
その後、時間をかけてゆっくり試した結果。
山本くんは、感覚を私に渡すように念じたと言うか、考えたと言うか、気にしないようにしたと言うか…兎に角、手放すようにしたらしい。
私も変に意識しないように努めた。
男の子の体を男の子が見ても触っても感じないように、自分自身の体だという感覚を山本くんの記憶から引き出していく。
2時間もすると、本当に何も考えずに、山本くんと動けるようになる。
一体化したのだ。
走っても、ジャンプしても、問題ない。
試しに、明日は土曜日なので、一日、山本くんを着て過ごしてみることとなった。
「私は見てあげられないけど、危ないことはしないでおくれよ? 首になってしまう」
「大丈夫ですよ」
「佐藤さん…今は、山本くんか、佐藤さんだけなら心配だけど、山本くんもいるし、大丈夫かな」
「監督、酷いですよ…」
「今日は、これで解散にしようか、明日の予定は、二人で決めくださいね。一通りの申請は私から提出しておきます」
大山監督は、すたこらさっさと首都戦・戦略ルールを退室した。