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首都戦記、小6女子の夏の陣  作者: きっと小春
群馬県・準決勝(第一試合)
4/45

遥、交渉する

放課後、特別に用意されている首都戦・戦略ルールにいた。


私は、呼び出してしまった山本くんを前に、緊張していた。


「あの、何で俺なの…?」


大山監督が言っていた。


男子は自分だけを特別扱いして欲しいのだと。


ヒーローと自分を重ねるものだと。


そう思ったり、そう教えられたことも、繋がれば、山本くんに知られてしまう。


「うん、先に説明させて、その中で…何で説明が先か、ちゃんと話すから。決して山本くんを邪険にしてるわけじゃないから、お願い聞いてください」


「う、うん、そ、そんなに…。大した意味じゃなくて…はっ、ははは…。全然、後で良いよ」


「ありがとう。まず、首都戦を簡単に説明するね。4年毎に行われる国が主催する大会。なぜその大会が開かれるのかは…知ってるよね? 日本が戦争で、また負けちゃったからだよね。首都を移行させたり、企業を分割させたりして、日本に戦争させる力を持たせないようにしてるんだよね」


勉強が得意じゃないので、さらりとこの部分の説明を流した。


「で、首都移行がなんで、今の競技で決まるかってのは、戦勝国が決めたことだから、知らないの」


ここは重要な説明なので、自然と真剣な顔になる。


「首都戦は、最悪死ぬかもしれない。四肢を損傷するかもしれない。日常生活が送れなくなるかもしれないの…。私のことを死神っていう人もいるけど、私だって自分の事を…そう思うときがあるわ」


「うん、だけど。俺たちが大人になっても、全部、何でもかんでも、戦勝国に決めらた通りにするんだろ? 俺の場合、唯一柔道で…日本一に慣れたら…上級国民への道が開かれるんだけどな…」


「だからよ、そんな立派な人を首都戦に誘ってよいものかと悩んだわ」


「言葉に気を付けた方が良いよ、首都戦は、立派な競技であり、日本が誇る国技だ…出場する覚悟もある」


と言って、舌を出す山本君。


机に置いておいた、可愛いクマの絵柄の水筒から、お茶をガブガブ飲む。


「どういう理屈で、男子がユニフォームになるかは、本当に知らないの。ただ、私が出せるチャックというかジッパーというかを、男子の頭部に付けて、開いて、着る。これは本当にできるわ」


うんうんと真剣に話を聞いてくれる山本くん、途中で口を挟むようなことはしない。


「で…。着ると、心も体も思考も記憶も全部繋がるの。どういうことかと言えば、嘘も真実も、意地悪さも、嫌な思い出も、好きな食べ物嫌いな食べ物、好きな人嫌いな人、いつも言ってることと思っていることが違うこと、価値観、恥ずかしい記憶、見せたくない記憶、考えてること、体の痛いところ、弱いところ、匂い、視覚、嗅覚、感じる場所、兎に角、何でもかんでも繋がるの、だからきっと、山本くんにどれだけ…私が、汚い女なのか知られてしまうけど、それでも、やらなければならないの、今も、未来も、全部懸けて」


「だから、質問は後ってことなんだ、繋がれば全部わかるか…」


「うん、ずるいけど、首都戦に参加すること、私と繋がれることが、決まってない人には教えられないこともある。私にだって、できれば知られたくない過去がある。だけど言った通り、全部懸けて戦うって…」


「ねぇ、それって、僕の全部も、佐藤さんに知られるってこと?」


「うん…嫌だよね、わかってる、だけど…」


「後、繋がれても、リンク率というのがあって、その率が高ければ高いほど、お互いの全てがわかるの、低いと歩くことも、心を通しての会話もできないわ」


「繋がれるかどうか、わからないけど、先に佐藤さんに言っておくよ、俺、ちょっと好かれているかもとか、佐藤さんに好かれたら良いなとか、そんなレベルの低い理由で、ここに来たんだ。今の佐藤さんみたいな、強い覚悟なんてなかった。ごめんな」


「いいのよ、いいのよ。私の覚悟なんて、山本くんには関係ないし、でも、関係するから、無理やり頼んでいる…あぁぁぁ、私馬鹿だから、ちゃんと説明できない」


「繋がれば、わかるんでしょ? お互いの気持ちも…」


「多分…」


私は思う。


”フォームとして参加する男の子に交渉するのは、参加する女の子本人であること”


このルールは、繋がる前も途中も後も、人一人の人生を変えてしまうため、誰も責任を取れないということなのだろうか?


お互いがお互いの責任と人生を抱え続けるのだから。


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