宗助、告白する
優勝候補の一角である新潟県代表、その原動力となるのは、石田 宗助である。
体格に恵まれた宗助は、弓道に憧れるも、実質アーチェリーを主に活動していた。
首都戦に出場すれば、無敵の強さを誇っていたのだが、準決勝にて大怪我を負ってしまう。
そして怪我も治らないまま決勝戦が近づく。
自分が出場すれば負けるはずないのだが、他のメンバーでは五分五分の戦いだろう。
負ければ一家全員が失踪する噂は知っていた。
それは押しつぶされそうな恐怖であった。
それでも決勝までは、授業があれば出席しなければならなかった。
「隣の席なんだから、遠慮しないで言ってね」と両手の怪我で筆箱を開けるのに手間取っていた俺に、隣の山下が手伝ってくれた。
「ありがとう」
山下は俺のことが嫌いじゃないのか?
俺はクラスで散々威張り散らし自己中を貫き通してきたのだ。
その後も何かある度に、そっと手伝ってくれた山下。
遠慮がちな俺に…。
「もう遠慮しないでよ」
「でも、俺は、こんなに助けてもらっても…何も、返してあげられない…」
「馬鹿ね、私じゃなくて、もっと困ってる人を助けてあげるのよ、そうやって善意は回っていくのよ」
自分のことしか考えたことのない俺にとって衝撃的な考え方だった。
その後は、変なプライドもなくなり、素直に山下の善意に助けてもらえた。
山下との日直のとき、一番気になっていたことを聞いてみた。
「なぁ、俺のこと、嫌いじゃないのか?」
「嫌いよ、でも、だからと言って、困っている人は見過ごせないわ」
「そっか。お前凄いな。もっと早く…お前と話せればよかったな…」
「あら? これからも沢山時間はあるじゃない?」
「次の決勝で負ければ…」
「あの都市伝説みたいなこと信じているの?」
「いや、真実だ」
「そんな…」山下にとって、国の悪意など想像もしていなかったのであろう。だが真実なのだ。
「山下、俺、次の決勝に仲間が勝てるように、必死に応援するよ。そして優勝できたら…付き合ってくれないか? 勿論、国へ、申請書きちんと出すから」




