遥、飛ぶ
”もう少し早く木の上からキック作戦を思いつければ…今から言うことを聞いて”
”キックがはずれた場合は、逃げることを重視して、できれば相手をすり抜けて背後方面に逃げて”
”キックが当たって相手が倒れれば、死ぬ気で蹴り続けて”
”キックが当たって相手の武器が落ちれば、それを拾って逃げて”
”飛び降りるタイミングは、相手の前足が地面に着く瞬間だよ”
”うー…覚えられないわ”
”俺が1,2,3って数えるから、3で飛び降りて”
”うん”
音音ちゃんが、ゆっくりと静香に辺りを警戒して、歩む。
息を整え、森田くんの指示を待つ。
”いくよ…1,2”
音音ちゃんが、多分、約3mぐらいの距離まで近づく。
”3”
自然落下を心がける、枝のしなり、かすれる音、共になしっ!!
たが影が音音ちゃんの視界に入ったのか、見上げる音音ちゃんと、飛び降りている私の目が合った。
驚く音音ちゃんは、一瞬だけ固まる。
そして足を踏ん張ろうとする。
落下を目視したタイミングと、前足を付いたタイミングと重なる瞬間になったため、次の動作が遅れる音音ちゃん。
私は、音音ちゃんのどこでも良いから、当てることだけを意識する。
音音ちゃんが、無理やり踏ん張ろうとしてバランスを崩す中、少しイナバウワー状態になった胸に蹴りが当たる。
「ぐぶっ」と音音ちゃんが空気を吐く。
”着地は、俺の記憶を頼ってっ!!!”森田くんが珍しく叫ぶ。初めて見せる感情だ。
森田くん記憶を頼ったが、完璧な着地は出来ずに、着地後、威力を殺しきれずに気に激突した。
”佐藤さん、頑張って、いま、しかない”
恐らく、音音ちゃんは、肋骨が折れているとか、そんな状態だろう。
ふらつきながらも立ち上がり、音音ちゃんに近づく。
”佐藤さん、武器を拾って、遠くへ投げ捨てて!!”
武器を拾って、言われた通りに、投げ捨てる。
虚ろな瞳で、こちらを見る音音ちゃんに声をかける。
「音音ちゃん…今、楽にしてあげるから……」




