遥、勇気を振り絞る
大山監督は、まさか準決勝まで勝ち残れるとは思いもよらなかった。
敗北したチームに襲い掛かる黒い噂を耳にし、怯えながら勝ち進んできたのだ。
ほんの少しだけ希望が見えてきた。
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大会前、大山監督と遥は悩みに悩んでいた。
地方大会の場合、一試合中に着用できるフォームは2着まで。
まだ小学生であり、暑い夏の時期であるため、体調不良なども考慮され、ベンチに入れるのは4着までとなる。
攻撃範囲で考える場合は、近距離(柔道)、中距離テニス、遠距離(野球)となる。
攻撃種類で考える場合は、球技バスケ、格闘技(剣道)、文化部系(吹奏楽部)となる。
その他、秀でた何かを考慮するなら、瞬発力(陸上)、持久力(水泳)、精神力(応援団)などか?
遥の通う小学校には、メジャーな部活があり、そこそこの成績を収めていた。
優秀な人材(男の子)でも、波長や価値観などが合わないと、リンク率が上がらないため、歩くことも出来ない。
こんなルールもある。”フォームとして参加する男の子に交渉するのは、参加する女の子本人であること”とある。
これは体内に埋め込まれたナノサイズの監視用チップであるIoT ver.78の機能を利用すれば、いとも簡単に検閲可能なのだ。
参加する男の子には何のメリットもないどころか、デメリットの方が多い。
これはスポーツではない、格闘技だ。
運が悪ければ日常生活に支障をきたす怪我を負うし、死亡する者も少なくない。
そのため年々参加希望者が減少傾向にあったが、今年からは人数に満たない時は強制参加となる。
内容は政府との交渉次第なのだが、将来の保証をある程度すると告知された。
検討した結果、6年1組 山本 大志くんに柔道フォームとして参加を打診することとなった。
昼休み、6年1組の向かうが、なんて声をかけて良いかわからず、立ちすくむ。
「遥? どうしたの?」
6年1組にも友達はいるのだが、こればかりは自身で解決せねばならない。
「ううん、大丈夫」
勇気を振り絞り、友達と雑談している山本くんに声をかける。
「山本くん」その声に教室中が静まり返る。
首都戦の参戦者である佐藤さんが話しかけたからであり、山本くんへどのような勧誘をするのか固唾を呑んで待つクラスメイト。
首都戦の参戦者からの勧誘は、言わば死刑宣告とも取れるのである。
詳しくは「参加しろ」と「参加してもらえますか?」の違いだ。
前者の場合は拒否権がないのだ。
「一緒に、首都戦に参加してもらえませんか?」と緊張のあまり大きな声になってしまう。
「と、突然言われても、首都戦なんて…考えたこともなかったから」
「わかってます。でも、ちゃんと説明したいので、今日の放課後、いえ、都合が悪ければ…」
捲し立てる遥に「ほ、放課後、でおねがいします」と返事をする。
肩で息をするほど興奮していた遥も、まさか話を聞いてもらえるとは思ってもいなかったのだ。