静香ママ、祈る
手巻き寿司を楽しそうに作る音音ちゃん。
「そうだ、ご両親に連絡しないとね」と電話することを促す。
音音は口いっぱいに手巻き寿司を頬張って、もぐもぐしている。
食べ終わるまで待ってあげると「私、一人暮らしなんです」と答えた。
何とも聞いてはいけない質問をしてしまったなと反省する。
「気にしないでください。慣れてます。両親は反逆罪で死刑になりました。当然です国へ逆らったんですから」とあっけらかんと話す。
「反逆罪?」と遥が聞き直す。この馬鹿、そこは流すところよ…。
「うん、悪い人なのうちのパパ、ママは…あっ、この話やめやめ、ご飯が美味しくなくなるし」
空気を変えるように逆に質問してくる。良い子だな音音ちゃん、空気読めるな。
「遥ちゃん、一人っ子?」
「うん。音音ちゃんは?」
「弟がいるの多分ね」
「そうか、弟いいなぁ」
うちの娘は天然なのか…。
「そうだ、何で私に会いに来たの?」
ど真ん中ストレートな質問とか…。
もぐもぐ、「うん? 地区大会の対戦相手ね。今まで弱かったからさ、傷付けずに倒せてたんだよね。でも、遥ちゃんの準決勝見てさ、こりゃ、無理だと思って」
「無理?」
「うん、どちらか死んじゃうかもしれないって思ったら、会いたくなったの」もぐもぐ。
お父さん、動きが止まってますよ…。
「そうかな〜?」
「そうだよ、だって遥ちゃんの対戦相手ね、死んじゃったもん」
「えっ!? 嘘…」
「嘘じゃないよ、今、この情報がリークしてて、大会本部の人たち大変らしいよ」
「嘘…だよね…」
「殺しちゃったことは気にしなくてもいいんだよ? そういう大会だもん。ちなみに死因は首ぽっきりだって」
うっ…うわぁぁぁん。と泣き出す娘に音音ちゃんは、ぎゅっと抱きしめる。
「だから、ちゃんとお話ししたいんだ。どちらが勝っても負けても、戦った相手のこと覚えていて欲しくてさ。特に、私ひとりじゃない? 死んじゃっても誰も覚えていてくれないから」
娘達が置かれた立場、現実を思い知らされる。
どうか無事に大会が終わりますように。




