遥、歯を食いしばる
山本くんとの限界リンク率の70%を維持できるのは、1分間だけだ。
リンク率を限界まで上げると、なぜか力尽きるまで、リンク率を下げることはできない。
一本背負いで地面に叩きつけた前橋代表は、立ち上がる気配はない、
「早く、カウントダウン、始まって…」
高いリンク率のため、肉体、精神、思考、記憶、すべての共有化が始まる…。
前回とは違う情報が、私と山本くんの中で、交換されていく。
意識が朦朧とする中、<勝者、邑楽町代表 佐藤 遥さん>とアナウンスが会場に響く。
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目が覚めると、ベッドの周りに、お父さん、お母さん、大山監督、山本くん、久保島くん、森田くんが心配そうな顔で見守ってくれていた。
「か、勝ったのよね…」
「そうよ、遥、遥が勝ったのよ」と泣きながらお母さんが代表して答えてくれた。
お父さんも何も言わないが、娘の生還を涙を堪えて喜んでくれていたのがわかった。
「森田くん、先生を呼んで来てくれないか」
大山監督が指示を出す。
「はい。わかりました」
陸上部・走り高跳び選手の森田くんはドアを開け出て行く。
「おめでとう。でも、たまには俺にも戦わせろよ」
野球部ピッチャーの久保島が笑う。
私が立ち上がろうとすると、体のあちらこちらが軋む。
この理由はわかっている。
山本くんの身体能力を発揮するとき、中身である私自身の身体能力を遥かに超える。
人は肉体の限界を超えないようにリミッターを設けているのだが、男子を着こなす場合、リミッターを解除してもなお、男子の身体能力に追い付けない場合がほとんどである。
このため一時的に肉体を強制的の成長および強化(改造)することで補うのだ。
ただし小学生の場合、一般的に男子より女子の方が成長が早いため、そこまで酷い肉体改造は発生しない。
「まだ休んでいなさい」
大山監督に寝てるように指示される。
黙っている山本くん。
リンク率を限界まで高めたとき、山本くんの心の秘密を私が知ってしまったことで動揺しているのだろう。
乗り越えければならない、試合以上に難しい課題の一つだ。




