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そしていつものように、楽しい時間はあっという間に時が過ぎて行って、時刻は五時半を過ぎた。
そろそろ文は東京に帰らなければいけない時間になった。
「……もう、駅に行かなくちゃいけないね」
窓の外を見ながら加奈は言った。
家の外では、まだ雨がずっと、ずっと降り続いていた。
「うん」
文は言った。
「じゃあ、準備をしよう」
そう言って加奈は空っぽになったコーヒーカップや、どら焼きの残りを持って、一階のキッチンに移動した。
文はその間、加奈の部屋で身支度を整えて、東京にある家に帰る準備をした。
そのとき、ふと文の目に加奈の机の引き出しから、ほんの少しだけ、そっとはみ出している白い紙のようなものが見えた。
文は(普段なら絶対にそんなことはしないのだけど)、その加奈の机の引き出しを勝手に開けて、その紙の正体を確かめた。
すると、それは真っ白な便箋の紙だった。
そしてその引き出しの中にはなにも文字が書かれていない、便箋の束と、その便箋をポストに投函するための、真っ白な封筒の束がしまってあった。
文はそれを見てから、何事もなかったかのように、そっと引き出しを元の形に戻しておいた。




