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結論から言うと、結局、加奈は最後まで手紙を出してくれなくなった理由を文に話してはくれなかった。文のほうも、この日、その理由を最後まで加奈に聞けないままになってしまった。
それは、なぜか加奈本人に聞いてはいけないような気がした。
聞こうと思うたびに、なにか不思議な力のようなものが、文の口を閉ざしてしまった。(それは加奈がなんとなく、悲しそうな顔をしているように見えたからかもしれない)
そしてこのときのタイミングを逃してしまったことで、その理由は文の生涯にわたってその答えがわかることのない、永遠の謎のままになってしまった。
文は雨降りの中で、加奈の通っている共立高校を見た。その人気のない、空から降る雨に濡れている明かりのない真っ暗なコンクリートの学校は、どこか、もう誰も生徒が通ってなんかいない、そんな廃墟の学校のように文の目には見えた。
文の知らない土地にある、文の知らない学校。
ここで加奈が高校生活をおくっているということが、なんだかすごく不思議な感じがした。
二人は雨降りの中で、手をつないだまま、一本の黄色い傘の下で、その雨に濡れる学校の風景を、少しの間、じっと黙ったまま眺めていた。
加奈の高校を見たあとで、二人は加奈のお気に入りのレストランで、軽い食事をした。
そこは小さな動物の隠れ場のような雰囲気を持つ、おしゃれなお店だった。(お店の名前も『森の隠れ家』と言う名前だった)
「今日は、どれくらいこっちにいられるの?」加奈が聞いた。
「六時くらいまでかな?」と時計を見ながら文は言った。
時刻は今、お昼だった。
「あと六時間だね」と加奈が言った。
「うん。そうだね。でも、また加奈に会いにくるよ」と文は言った。
「電車に乗って?」
「うん。電車に乗って」にっこりと笑って文は言った。
すると少し間をおいてから「ありがとう」と嬉しそうににっこりと笑って、加奈は言った。
二人は蟹のパスタを食べて、それからデザートにレアチーズケーキを注文した。飲み物は紅茶だった。
食事の最中、二人はお互いに離れ離れになっていた間に起こったことを、話し合った。
それは思い出の余白を文字で埋めていくような、そんな、とても楽しくて、とても充実した時間だった。




